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HOME入札談合に関わる問題EUにおける談合と損害賠償

損害賠償請求の対象になり得ますが、三倍賠償は認められておらず、実額賠償の限度にとどまります!

入札談合に関わる問題
EU加盟国における損害賠償制度

TFEU条約第101条違反行為の被害者は、EU加盟国の法廷において損害賠償を請求することができます。したがって、談合により摘発された場合には、TFEU条約第101条違反として、損害賠償請求の対象になり得ます。

しかし、米国と異なり、三倍賠償の制度はなく、実損額の賠償を求めることができるにとどまります。

しかも、日本と同様、違反行為と損害との間の因果関係の認定は非常に厳格であるため、損害賠償請求は認容されにくいとはいえます。

他方で、EU加盟国及び英国にても、クラスアクション制度が導入され、実際に提訴される案件がでてきていることには留意が必要です。

なお、価格転嫁(pass on)が認められるかどうかは、非常に重要な論点です。

損害転嫁理論とは、競争法違反行為者と取引した(それによって不利益を受けた)者がその受けた不利益(損害)を他に転嫁した(例えば、違法行為によりある商品の不当高価購入を余儀なくされたものが、その損害分を当該商品の転嫁価格中に組み込み、高価格で販売した)場合、この損害転嫁という事実を損害賠償請求の判断においてどのように評価するのかに関する理論です。他方、間接的購買者(indirect purchaser)理論とは、競争法違反行為者からある商品を購入したものからさらに当該商品を購入したものは、違反行為者に対して損害賠償を請求し得るかに関する理論です。両理論は密接に関連しており、かつ、原告適格にも関わるものです。損害転嫁理論は、実際の損害賠償訴訟では、被告から、@直接的または間接的購買者である原告には損害がない、原告の顧客に対して超過請求分を転嫁しているためである(川下転嫁(down stream pass))、または、A間接的購買者である原告には損害がない、原告に販売する以前に超過請求分は吸収されているためである(川上転嫁(upstream pass))という抗弁として提出されます。英国では、いずれについても、競争法違反の損害賠償訴訟で許容されることが明らかにされています。英国施行規則は、これを更に明確化しています。

すなわち、川上転嫁の場合、原告は、@被告が競争法に違反したこと、A競争法違反により、被告から製品またはサービスを購買したものに対して超過請求がなされたこと、B原告は、その後、違反行為の対象となった製品またはサービスを購入したこと、または違反行為の対象となった製品またはサービスから派生したまたはこれを含む製品またはサービスを購買したことを立証する必要があります。この場合、被告は、間接的購買者に対して超過請求が転嫁されていないことを立証する責任があります。実際には、超過請求が転嫁されたか否かという事実上の争点について、原告及び被告双方から専門証人の意見書が提出されることとなろうが、挙証責任が被告側に課せられることとなるので、間接的購買者である原告により有利な制度枠組みであると評価することができます。

川下転嫁の場合には、被告において、直接的購買者または間接的購買者である原告において、損害転嫁がなされていること、及びその程度を立証する責任があります。当該挙証責任についての規定は、競争法違反により超過請求または過小支払がなされたこと、超過請求または過小支払から直接または間接に発生した損失または損害に関する請求であること、かつ、被告が抗弁において、原告は、超過請求または過小支払の全部または一部を転嫁しており、損害はないという主張をしている場合に妥当します。

EU加盟国及び英国における懲罰賠償制度

EU加盟国において、現状、懲罰賠償制度を採用している国はありません。

なお、英国では三倍賠償は認められていません。懲罰賠償は認められていますが、極めて限定的であり、競争法事案では認められません。

英国にて懲罰賠償を認めた最初の判決はHuckle v. Money(1763年)で、Huckle v. Money事件では、役人が匿名の捜査令状により違法な捜索と押収、身体的強迫、不法監禁を行ったとして、原告に、実損20ポンドに、制裁的賠償300ポンドを追加して認める判決が下されています。1769年のTullidge v. Wadeでは、ロンドン証券取引所という公共の場で殴られたことを理由とし、殴られた個人への懲罰的賠償が認められています。ただ、1964年のRookes v. Barnard以後、英国の懲罰的損害賠償は大きく制限されています。同事件は、ある企業の労働組合の幹部との意見の対立から組合を脱会した従業員を、組合からの圧力に屈した会社が解雇したことから、従業員が組合の幹部を被告として、懲罰的賠償を求めて訴えた事件ですが、上告審の貴族院は、懲罰的損害賠償を認めず、この訴えを棄却しました。裁判官は、懲罰的損害賠償を認める類型を、公務員による抑圧的、恣意的又は違憲的行為であること、被告が填補的損害賠償額を超えた利益を得ることを見込んで行った違法行為であること、懲罰的損害賠償が制定法で定められている場合であること、という三類型に制限しました。1993年のA.B. v. South West Water Services Ltd.では、懲罰的損害賠償は、先に述べた3つの類型のいずれかに該当することに加え、1964年のRookes v. Barnard判決以前に認められてきた請求の原因に限定されることになりました。英国競争法違反に基づく損害賠償請求では、懲罰賠償は認められないことが立法上明らかにされている。CATは、2012年7月6日、競争法違反の事案でははじめて、懲罰賠償を認めている ものの、立法上、これを修正したものです。

この点、米国では、懲罰的損害賠償は、不法行為加害者への懲罰と不法行為再発の抑止を目的として填補賠償に加えて認められます。なお、反トラスト法上の三倍賠償は懲罰賠償の一種です。18世紀後半のイングランドのコモン・ロー上で生成発展し、アメリカに移入されて現在に至った不法行為損害賠償です。懲罰的損害賠償を請求するにあたり、原告は当該賠償を正当化する要件を証明する必要があります。この要件とは、加害者の違法な行為が懲罰と将来の抑止に値する、加重事由のある(aggravating)または著しく常軌を逸していること(outrageous)です。これらに該当するのは、加害行為が社会的容認程度を超過しているか、または他者への詐害意図が存在している場合で、裁判所はこの意図を一般的に害意(malice)、現実または黙示的詐欺(actual / implied fraud)など故意に因るもので、重過失(gross negligent)をも含んだものと解しています。アメリカでは損害賠償の認容と額の算定は、原則的に民事陪審が裁判官から手続および実体法事項の説示を受けて行うため、その裁量により懲罰的損害賠償額が決定されます。コモン・ローでは賠償額の上限が設定されていないため、民事陪審の心証により高額な懲罰的損害賠償が認められることとなります。なお、合衆国最高裁判所は填補賠償額と懲罰的損害賠償額との間の合理的関係を求めているところです(State Farm v. Campbell, 538 U.S. 408, 426 (2003))。

1980年代以降、各州は以上の批判を踏まえて不法行為改革(torts reform)の一環として、制定法により懲罰的損害賠償の制限を行ってきました。第1は州その他の公共団体に対する不法行為請求など一定の訴えについて、懲罰的損害賠償を禁止するもの、第2は懲罰的損害賠償の認容基準を明確化したもの、第3は懲罰的損害賠償額の上限を設定した既定の導入、第4は懲罰的損害賠償請求の手続を別途定めたこと、具体的には、プレ・トライアルおよび本案での懲罰的損害賠償の審理は、いわゆる分割審理(bifurcated trial)で別途に行う旨が定められたこと、第5は懲罰的損害賠償の全額または一部を原告ではなく州または公共団体に与えるもの、そして、第6は制定法で原則として懲罰的損害賠償を禁止するものです。コネチカット、ルイジアナ、ニュー・ハンプシャーの各州では制定法により (Conn.Gen. Stat. Ann. § 52-568.; La. Civ. Code Ann. art. 2315.4; N.H. Rev. Stat. Ann. § 507:16.)、ワシントン州では判例法により(Fisher Props., Inc. v. Arden-Mayfair, Inc., 726 P. 2d 8(Wash. 1986). 、)原則的に禁止されています。

懲罰的損害賠償が請求されると、連邦や州を問わず裁判所は不法行為責任の判定および損害賠償認容とその額を決定する手続を分割して進行させます。連邦裁判所では、当事者への便宜ならびに偏見の防止および詳細な調査が必要であれば、連邦民事訴訟規則Rule 42(b)が分割した事実審理を認めています。一般的に分割審理(bifurcation trial)と呼ばれ、連邦裁判所裁判官に各々の争点について個別に手続を進行させることを許容するものです。
 
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