THIS WEBSITE IS HOSTED BY DR. AKIRA INOUE, (PH. D., ATTORNEY & COUNSELLOR AT LAW, ADMITTED IN JAPAN & NEW YORK STATE, UNITED STATES OF AMERICA)


独占禁止法の法律相談.com
このサイトは、Dr. Inoue(井上朗(法学博士・弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)))により運営されています。
Home
Who is Dr. Inoue 独禁法論文・講義録 独禁法書籍 免責事項


カテゴリー一覧
ライセンス契約に関わる問題
下請取引に関わる問題
代理店取引に関わる問題
ジョイントベンチャー取引に関わる問題
入札談合に関わる問題
課徴金減免申請に関わる問題
企業結合に関わる問題
金融取引に関わる問題
流通取引に関わる問題
景品及び表示に関わる問題

サイト情報
免責事項
お問合せ

井上朗博士の執務室
当サイトを運営するDr. Inoue(井上朗(法学博士・弁護士))の執務方針、経歴の詳細、ヴァージニア大学における研究記録などを紹介するサイトです。
「リニエンシーの実務」
Dr. Inoueの米国での研究結果の一部である「リニエンシーの実務(競争法の荒波から企業を守れ)」が発売されております。

「B2B取引コンプライアンスバイブル」
Dr. Inoueの研究成果の一環であり、博士論文執筆による分析成果でもある「B2B取引コンプライアンスバイブル(競争法的コンプライアンスの理論と実践)」が発売されました。
「Japanese Antitrust Law Manual, Law, Cases and Interpretation of the Japanese Antimonopoly Act」
Dr. Inoueが執筆した英文による独占禁止法の解説書がKluwer Law International社から出版されました。日本でも購入が可能です。
HOME課徴金減免申請に関わる問題米国ゼオンカルテル2005年

価格カルテルに従事していた事案であり、ゼオンケミカルは、総額1050万ドルの罰金の支払いに合意しました!

課徴金減免申請に関わる問題
ゼオンカルテル事件の概要

日本のゼオン社の子会社であるゼオンケミカル社は、2005年1月12日、自動車部品製造などに使用されている合成ゴムを巡る価格カルテルに参加したことを認め1050万ドルの罰金支払に合意しました。

ゼオンケミカル社は、米国ケンタッキー州に本拠を置き、ゼオン社の完全子会社です。合成ゴムの正式名称は、アクリロニトリル・ブタジエンで、ホース、ベルト、ケーブル、円形リング、シール、粘着性物質、およびシーラントなどの製造に使用されています。サンフランシスコ地方裁判所に提出された訴状によると、2002年5月から2002年12月の間、ゼオンケミカル社は、他社と共同して米国およびその他の地域において合成ゴムの価格カルテルを締結したとされていました。米国司法省は、ゼオンケミカル社が、米国およびその他の地域において販売される合成ゴムの価格を議論する会談および会合に参加し、それらの会議および会合で、米国およびその他の地域において販売される合成ゴムの価格を維持および引き上げることに合意し、および当該合意に従い価格を公表したと主張したのです。
 
サンフランシスコ地方裁判所の承認が義務付けられている有罪答弁協定書において、ゼオンケミカル社は、米国司法省の継続中の捜査に協力すると約束しました。ゼオンケミカル社は、有罪答弁協定書を同社のウェブサイトに掲載し、1050万ドルの罰金支払を第3四半期の連結財務諸表において損失として計上すると述べました。ゼオンケミカル社は、2004年8月22日以前に行われた違反行為に対してシャーマン法第1条に違反したとして提訴されたものでした。

本件提訴は、米国司法省反トラスト局サンフランシスコ市フィールド・オフィスおよび連邦捜査局サンフランシスコ市オフィスが継続して行ってきた捜査の結果が結実したものでした。

FTAIAについて

なお、本件では、親会社は被告とされていません。2010年2月から摘発が開始された自動車部品カルテルとは事件処理が異なります。管轄概念も保守的にとらえていた時代です。基礎概念を少しだけ整理すると、米国法上、管轄権は、事物管轄権(subject matter jurisdiction)、対人管轄権(personal jurisdiction)、調査管轄権(discovery jurisdiction)及び執行管轄権(enforcement jurisdiction)の四種類に分類されます。このうち、事物管轄権については、外国取引反トラスト改善法(The Foreign Trade Antitrust Improvement Act、通称「FTAIA」)(15 U.S. Code § 6a)という法律に判断の枠組みが記載されています。この法律はシャーマン法の修正法です。FTAIAは極めて難解な法律ですが、大まかにいうと、シャーマン法の適用対象となる行為が、米国国内産業若しくは輸入産業、または輸出産業に対して、直接的、実質的または合理的予見可能な効果を及ぼし、当該効果がシャーマン法の請求原因となる場合には、事物管轄が認められると定めています。本件にて親会社を被告としなかった理由は複数有るでしょうし、実体面で、親会社の関与を認定しがたいという面もあったのでしょうが、親会社の関与が認められても、FTAIAの要件を満たさない限り、事物管轄権を認定できないという問題も当然にあります。米国司法省は国際カルテルの摘発を進めつつも、比較的慎重に域外適用をしていた時期でもあります。

この点で重要なのがエンパグラン事件の連邦最高裁判決です。本件は、米国内外で販売された製薬事業者によるビタミン製品の市場分割・価格カルテルに関して、米国外でカルテル対象製品を購入した米国外の企業 12 社(エクアドル法人のEmpagran 等)が、米国内外の購買者を代表して、カルテルを行った企業に対し、コロンビア特別区連邦地方裁判所にクラス・アクションを提起し、米国反トラスト法(シャーマン法)によって損害賠償を求めたものです。FTAIA が外国通商においてシャーマン法適用を原則として否定し、例外規定にあたる場合についてのみシャーマン法適用を認めているところ、本訴訟では、本件カルテルが同法の例外規定に該当するかどうかが問題となりました。1 審である米国連邦地方裁判所は、事物管轄権がないとして原告側の訴えを却下しましたが、2003年1月に控訴審の連邦控訴裁判所は、地裁判決を破棄して、米国連邦裁判所の事物管轄権を認めたものです。その後、被告が連邦最高裁判所に上告し、2004 年 6 月に判決が出されました。連邦最高裁判所での判決では、被告の共謀によるカルテルにより米国外において生じた損害が、同じカルテルにより米国内で生じた損害とは独立している場合には米国反トラスト法(シャーマン法)は適用されないと判示しました。その理由として、連邦最高裁判所は、条文が曖昧である場合には外国主権に対する不適切な介入を避けるような解釈をすべきであること、及びFTAIA の立法経緯からすると、同法はシャーマン法の外国通商への適用の範囲を明確にするために制定され、おそらくは適用範囲を拡大するのではなく制限する意図を有していたことを挙げました。その上で、原告の「ビタミンは代替可能で運搬も容易であるため、アメリカ国内の価格高騰がなければ、カルテルに参加したビタミン製造販売事業者は米国外で高価格を維持できなかったため、米国外における損害は米国内の損害と独立したものではなく、カルテルがもたらす外国における効果と国内における効果は関連している」との主張については、控訴審で審理・判断がなされていないとして、連邦控訴裁判所に差し戻しました。2005年6月に、連邦控訴裁判所は、差戻審において、米国内でカルテルが維持されなければ外国でのカルテルは維持できなかったという原告の主張(「それがなければの基準」(But For Test))だけでは、国外損害と国内のカルテル効果の間に直接の因果関係があるとはいえず、「密接な原因」(proximate cause)が必要であるとし、本件ではカルテルにより外国において生じた弊害と国内で生じた弊害とは独立したものであり、事物管轄権は認められないとの判断を示したのです。原告は上告受理申立を行いましたが、2006年1月、連邦最高裁判所は連邦控訴裁判所の判決を妥当とし、原告の上告受理申立てを却下し、本訴訟に関して、米国連邦裁判所の事物管轄権は認められないとする連邦控訴裁判所の判決が確定しました。
 
お問い合わせ  (C) AKIRA INOUE ALL REIGHT RESERVED.