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 国際カルテル
 国際カルテルとは

 国際カルテルの実例
 
国際カルテルには会社を破滅に導き、経営者を矯正施設入りさせる程のリスクがある、よって、企業の持続的な発展を目指すのであれば避けるべきリスクであるというのが国際カルテル案件で一兵卒として参加していた当時からの小職の一貫した提言です。消費者に対する詐欺行為であるカルテルを厳罰に処すべきか否という問題提起には諸説あろうと思います。日本国内には、そもそもカルテルは刑事犯罪なのか、厳罰に処する必要があるのかという問題意識もあると思います。しかし、消費者に対する詐欺行為であるカルテルは許されないルール違反であるという価値観が国際取引のルールとして定着している以上、グローバル競争に参加するのであれば、この価値観を無視するわけにはいかないのです。利潤の最大化という企業の事業目的を達成することと、グローバル競争での基礎的ルールを遵守すること、これらを両立させる方程式の解を求める必要があると言えます。

国際カルテルにおける対応が難しいのは、海外法対応の局面が生じる点です。日本法に概念が存在しないにもかかわらず、海外法、とりわけ英米法において存在する概念の典型例として、弁護士依頼者間秘匿特権(attorney client privilege)があります。米国法による限り、弁護士依頼者間秘匿特権が認められるためには、@法的な意見が求められていること、A法的な専門家の能力においてなされること、Bこの目的に関する交信であること、Cそれが秘密裏になされたものであること、D依頼者によるものであること、E永久に保護されるべきとの依頼者の要請があること、F依頼者または法的専門家による開示であること、G放棄されていないことといった各要件を満たす必要があります。このうち、国際カルテル事案との関係で問題となるのは、C秘密性の維持とG放棄です。弁護士・依頼者間の秘匿特権を確保するためには、コミュニケーションの秘密が守られると信頼してなされたものであることが必要です。弁護士又は依頼者でない第三者(銀行及び証券会社の営業職員を含む財務アドバイザー、コンサルタント、政府職員等も含まれます。)が同席してなされたコミュニケーションや、コミュニケーションが事後に第三者に伝達された場合には、そのようなコミュニケーションは秘密が守られたものとはいえず、特権は明示的に放棄されたものと判断されます。この点につき、法律事務所のアドバイスを PR 会社と共有したために特権を放棄したものと扱われた事例もあります。 訴訟の相手方に開示してしまうというような不注意なケースだけでなく、このような意図しない、または不注意による特権の放棄を行わないよう、十分な注意を払う必要があります。

国際カルテルに関連した社内調査で判明した事実関係の当局への開示に際して、弁護士依頼者間秘匿特権に該当する情報の開示まで求められるかどうかは、従前から議論のあった論点であるが、DOJは、弁護士依頼者間秘匿特権の放棄やWork Productの任意提出がないと司法当局への協力姿勢が見られないとする従来方針を明確に放棄するに至っています(司法省マニュアル 9-28.710)。参考まで、原文を引用したいと思います。

For these reasons, waiving the attorney-client and work product protections has never been a prerequisite under the Department's prosecution guidelines for a corporation to be viewed as cooperative.

その代わり、DOJは、社内調査にて特定された事実の自主的な開示を求めるという立場を採用しています(司法省マニュアル 9-28.720)。

(a) Disclosing the Relevant Facts?Facts Gathered Through Internal Investigation

Individuals and corporations often obtain knowledge of facts in different ways. An individual knows the facts of his or others' misconduct through his own experience and perceptions. A corporation is an artificial construct that cannot, by definition, have personal knowledge of the facts. Some of those facts may be reflected in documentary or electronic media like emails, transaction or accounting documents, and other records. Often, the corporation gathers facts through an internal investigation. Exactly how and by whom the facts are gathered is for the corporation to decide. Many corporations choose to collect information about potential misconduct through lawyers, a process that may confer attorney-client privilege or attorney work product protection on at least some of the information collected. Other corporations may choose a method of fact-gathering that does not have that effect?for example, having employee or other witness statements collected after interviews by non-attorney personnel. Whichever process the corporation selects, the government's key measure of cooperation must remain the same as it does for an individual: has the party timely disclosed the relevant facts about the putative misconduct? That is the operative question in assigning cooperation credit for the disclosure of information?not whether the corporation discloses attorney-client or work product materials. Accordingly, a corporation should receive the same credit for disclosing facts contained in materials that are not protected by the attorney-client privilege or attorney work product as it would for disclosing identical facts contained in materials that are so protected.[2] On this point the Report of the House Judiciary Committee, submitted in connection with the attorney-client privilege bill passed by the House of Representatives (H.R. 3013), comports with the approach required here:

なお、DOJは国際カルテルにおける弁護士依頼者間秘匿特権に該当する資料の扱いについて、以下のように述べています(2018年5月30日付け「Attorney-Client Privilege in Global Antitrust Enforcement; Remarks as Prepared for Federal Economic Competition Commission」と題するスピーチ)。

As antitrust enforcers, the issue of privilege sometimes arises in the merger context when we cooperate with other agencies. At the Antitrust Division, we do not seek information that is privileged under U.S. law from foreign competition authorities. We even invite companies who sign our model confidentiality waiver to clearly identify any materials that are privileged under U.S. law that are provided to those authorities. In the unlikely event that a party claims that we received privileged information from a foreign authority and we have not reviewed or used the information, we will consider such information as though it were inadvertently produced to us in the first instance. We will sequester the information and refrain from using it until the privilege claim is resolved. We also deal with the question of privileged information outside the merger context. In these instances, including criminal antitrust prosecutions, the Antitrust Division may request foreign documents from other competition authorities through legal channels, such as mutual legal assistance treaties (MLATs). In such instances, the Antitrust Division’s requests are targeted and do not seek privileged documents. In the unlikely event that such a request yielded documents or information that are attorney-client privileged under U.S. law, the Antitrust Division would follow its typical procedures outlined above.

弁護士依頼者間秘匿特権に該当する書面は外国当局から求めないとしつつ、弁護士依頼者間秘匿特権の該当性判断については米国法を基準として判断されます。外国当局に対して提出した書面が特権の放棄に該当するかどうかも米国法基準で判断されることとなることには留意が必要と思われます。なお、適用法の判断基準には主に「タッチベース・テス ト」と「バランシング・テスト」があります。何れのテス トを用いるべきかについて、司法省が方針を示したことはありませんし、高裁レベルでの判断が示 されていないため裁判地によって適用基準が異なり うるのが現状です。

タッチベース・テストでは、外国弁護士と依頼者間のやりとりと米国との間にわずかでも接点がある場合、米国法が適用されることとなります。例えば日本企業と日本弁 理士間の米国特許出願に関するやりとりには米国法 が適用されると考えられます(Tulip Computers Int'l. BV v. Dell Computer Corp., 210 F.R.D. 100, 104 (D. Del. 2002) (§If a communication with a foreign patent agent involves a U.S. patent application, then U.S. privilege law applies. ... If a communication with a foreign patent agent involves a foreign patent application, then as a matterof comity, the law of that foreign country is considered regarding whetherthe law provides a privilege comparable to the attorney client privilege.¨))。 国際礼譲(Comity)の原則に基づいてタッチベース(touch base, touching base)をとらえる考え方もあります。タッチベースでは裁判で問題となる争点(issue)がどの国(又は州や連邦)の法律 で判断される範囲であるかを検討することとなります。タッチベースを検討した結果、訴 訟で問題となる争点(issue)が米国の法律で判断されるべき事項であればそれは米国 の法に基づいて判断されるべき範囲であり、他方、タッチベースが米国になく訴訟で 問題となる争点(issue)が外国の法律で判断される範囲であれば、当該外国の法律に基 づいて判断されるべき範囲ということになります。 国際礼譲は「権利の問題としてではなく、行為や外国または他州の判断に対する 尊敬に基づいて行為がなされ措置がとられるときに用いられる言葉」であり、「ある 国の判決が他国で承認されることの根拠が、拘束力ある法的準則にではなく、comity に 求められることが」有るという帰結になります。

バランシング・テストでは、該当するやりとりと最 も関連性の高い国の法律が適用されます(Golden Trade, S.r.L. v. Lee Apparel Co., 143 F.R.D. 514, 520 (S.D.N.Y. 1992) (Some of the factors that courts considerwhen applying the balancing test include (1) the subject matterat issue, forexample, whetherthere is a U.S. legal issue orwhetherthe patent at issue is foreign and (2) where the patent agent-client relationship commenced and was centered at the time the communications at issue took place.).)。裁判所は、どの国の法律が問題となっているか、弁護士と依頼者の関係がどこで始まり、どの国を中心にやりとりが行 われたか等を考慮し、最も関連性の高い国の法律を適 用します。 例えば日本特許に関する鑑定において、米国特許 が公知例として挙げられていただけでは米国法適用とはならない可能性が高いといえます。しかしながら、タッチベー ス・テストが厳格適用された場合、米国特許が挙げら れていることを理由に米国法が適用され、これにより、特権の保護や放棄の有無が判断されることとなります。

Gucci America, Inc. v. Guess?, Inc., 271 F.R.D. 58 (S.D.N.Y. Sept. 23, 2010)は、ニューヨーク南地区連邦地方裁判所において「タッチ・ベース」原則を採用することを明確にした著名事件です。同原則の下で、裁判所は、問題となっているやり取りが、米国の法的手続に関係し、又は、米国法に関係する助言を反映するものであるか否かによって、米国の秘匿特権に関する法律を適用すべきか否かについて決定を行うことを明らかにしています。Gucci事件において、James Cott予審判事は、Shira A. Sheindlin裁判官の付託を受け、問題となっているやり取りがイタリアで行われたものであり、イタリア人の社内法務担当者が関与するものであるにもかかわらず、米国法が弁護士・依頼者間の秘匿特権に関する紛争を規律すると判示しています。

他方で、バランシング・テストでは該当するやりとりと最 も関連性の高い国の法律が適用されます(Golden Trade, S.r.L. v. Lee Apparel Co., 143 F.R.D. 514, 520 (S.D.N.Y. 1992) (Some of the factors that courts considerwhen applying the balancing test include (1) the subject matterat issue, forexample, whetherthere is a U.S. legal issue orwhetherthe patent at issue is foreign and (2) where the patent agent-client relationship commenced and was centered at the time the communications at issue took place.).)。裁判所は、どの国の法律が問題となっているか、弁護士と依頼者の関係がどこで始まりどの国を中心にやりとりが行 われたか等を考慮し最も関連性の高い国の法律を適 用する。 例えば、日本特許に関する鑑定において、米国特許 が公知例として挙げられていただけでは米国法適用と はならない可能性が高いといえます。

前述の通り、タッチベース・テストとバランシング・テストのうち、いずれを採用するのか、米国司法省は指針を示していませんが、米国司法省が資料を求める場合には、常に、米国法基準で分析することを明言しているので、日本の公正取引委員会が提出命令で取得した資料について、資料の送付を求める場合にも、米国法基準により、弁護士依頼者特権及びその放棄の有無を検討することになると思われます。

米国法基準を前提とする限り、voluntary disclosureであれば放棄が認定され、compulsory productionであれば、放棄は認定されにくくなる。提出命令に対する対応のあり方として一考を要するといえるように思われます。下記は代表的な判断例です。

Niagara Mohawk Power Corp. v. Stone & Webster Eng'g Corp., 125 F.R.D. 578, 590 (N.D.N.Y. 1989)

In re JDS Uniphase Corp. Sec. Litig., 2007 WL 3144711, at *1 (N.D. Cal. Oct. 24, 2007)

Shields v. Sturm, Ruger & Co., 864 F.2d 379, 382 (5th Cir. 1989)

Regents of Univ. of California v Superior Ct., 165 Cal App 4th 672, 682 (Cal. Ct. App. 2008)

他方、ワークプロダクト法理は訴訟準備資料の開示を原則免除することで当事者が安心して訴訟準備に取り組めるようするものです。ワークプロダクト保護には、弁護士や弁理士の関与は必要なく、依頼者やそのコンサルタントなどによって作成された文書等もワークプロダクトとして保護されます。ワークプロダクトの例として、依頼者が作した損害額の見積りや、訴訟コンサルタントのリストなどが挙げられます。訴訟提起前であっても、訴訟が合理的に予期された状況下で作成された文書等はワークプロダクトとみなされます。訴訟が合理的に予期された状況とは、具体的な紛争が存在し、訴訟へと発展することが予見可能な状況を指すといわれています。ワークプロダクトとみなされるためには、結果として訴訟が引き起こされたという事実や、文書が訴訟に関連しているだけでは不十分で,文書が主に訴訟対応目的で作成されたものであることが条件となります。ワークプロダクト保護と証拠保全義務は同時に発生すると考えられています。証拠保全義務とは紛争発生時にディスカバリー対象となりうる文書等をそのままの状態で保全する義務を指します。証拠保全義務は訴訟が提起される前であっても訴訟が合理的に予期された時点で発生します。訴訟が合理的に予期された状況下で作成される文書等にはワークプロダクト保護が及びますが、ワークプロダクト保護が得られる時点で、必然的に証拠保全義務が発生することを意味します。つまり、訴訟が合理的に予期されていたとしてワークプロダクト保護を主張するためには,当該時に証拠保全対応を行っていることが条件となります(Pacificorp v. Northwest Pipeline GP, 879 F. Supp. 2d 1171 (D. Or. 2012))。
 米国司法省と欧州委員会の共同声明
 
 
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