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HOME流通取引に関わる問題実体編支配行為と事業者

単独の事業者であり、市場支配力を有する事業者を指します!

流通取引に関わる問題
独占禁止法3条を前提とする場合

典型例としては、プライスリーダーが成立するような寡占市場において市場支配力を有している事業者がこれに該当します。公正取引委員会のガイドラインによると、市場シェア50%が市場支配力を有すると推察される目安であり、実務的には概ね市場シェア80%程度でこれを認定しているといえます。なお、日本における私的独占の執行は活発ではなく、行為類型として私的独占に該当し得る事例の多くは不公正な取引方法により執行されてきたのが日本における実務です。

昭和30年12月27日審決・審決集7巻109頁では、野田醤油の醤油生産実績は全国総生産量の14.0パーセントで全国同業者中1位で、2位以下を大きく引き離しており、東京都を地理的関連市場として画定した場合の市場占有率は36.7パーセントであった。かかる市場占有率は、市場支配力の行使を可能とする占有率には及ばないものですが、ブランド力等を考慮した上、市場支配力の行使が可能であり、したがって、支配行為の主体である事業者であると認定されています。

シャーマン法2条を前提とする場合

シャーマン法2条が禁止する行為は、独占の企図、独占行為、並びに結合および共謀による独占の3つです。条文では以下のように規定します。

Every person who shall monopolize, or attempt to monopolize, or combine or conspire with any other person or persons, to monopolize any part of the trade or commerce among the several States, or with foreign nations, shall be deemed guilty of a felony, and, on conviction thereof, shall be punished by fine not exceeding $100,000,000 if a corporation, or, if any other person, $1,000,000, or by imprisonment not exceeding 10 years, or by both said punishments, in the discretion of the court.

つまり、各州間又は外国との取引又は通商のいかなる部分をも独占するために、@独占行為をし、A独占の企図行為をし、B独占する目的を持って他のものと結合・共謀することが禁止対象となるという建付けを採用しています。

独占の企図とは、関連市場における独占的地位を形成するために不適切な手段を用いることであり、独占行為とは、独占的地位を形成もしくは維持するための、または強化のための不適切な手段の行使のこと、独占の結合・共謀とは、独占を実現するために結合または共謀することです。

シャーマン法2条は、独占状態にあること自体を違法とはしていません。したがって、理論的には、合法的に独占的地位を獲得した企業が、独占力の行使としてではなく、企業規模の結果として、スケールメリットを享受することはあり得ます。しかしながら、実社会では、独占的地位を形成した企業が独占的な立場を利用するときは、市場支配力を有しない企業が行うときは適法な行為であっても、市場構造を変化させる、競争を阻害する行為として、シャーマン法第2条違反と判断されることが少なくないといえます。

問題は、シャーマン法2条が禁止する「独占」とは何かです。

連邦最高裁判所は、独占行為に関して、「独占行為の罪が成立するためには、2つの要件が満たされなければならないとし、(1)関連市場における市場支配力を有していること、(2)優れた製品、事業への洞察力、または歴史的偶然の結果から生じる成長・発展とは異なり、意図的に市場支配力を形成または維持することである。」と判示し、「独占」とは市場支配力を有する状態であることを明らかにしています。 また、市場支配力の指標として、連邦最高裁判所は、しばしば、市場占有率(Market Share)を用いています。 経済学的には、「独占状態」とは、市場占有率が100パーセントの状態、すなわち単独の売手により構成される市場であると定義されるが、連邦最高裁判所は、かかる定義ほど厳密な市場占有率を必要とはしていません。市場価格を支配し、または競争を排除するに足りるレベルであれば、市場占有率が100パーセント以下であったとしても、シャーマン法2条が規定する「独占」に該当するとされます。しかしながら、連邦最高裁判所は、「独占」と認定するに足りる市場占有率についての具体的な基準・数値を明らかにはしていません。なお、独占の企図に関する罪については、企業が、市場において「独占」的地位を形成するに至っていない場合であっても、競争を阻害することにより、「独占」を達成しようとする計画が成功する「高度の蓋然性」が存在する場合には、シャーマン法2条に反することになります。かかる場合の市場占有率は、行為の性質上、独占行為の罪の場合よりも、低いもので足りるとされているが、ここでも連邦最高裁判所は、具体的な基準・数値を明らかにしていません。

近時は、連邦最高裁判所も、市場占有率を偏重する傾向から、徐々に、新規競争者の参入の難易の度合い、当該企業の市場内での行動、一定期間内の当該企業の市場占有率の変動、価格の変化が市場における需要に与える影響の度合い、市場内の競争者の数、新製品および新技術の導入傾向等の諸事情を考慮するようになってきています。

連邦最高裁判所によると、独占力とは、当該企業が単独で市場シェアを失うことなく価格を競争価格以上に維持し、生産量を制限する能力であり、マーケット・パワーと同義です。判例上、マーケット・パワーの重要要素は、@マーケットシェアとA新規参入の容易性です。新規参入に特段の困難な事情がない場合には、マーケットパワーは市場シェア40%後半で生じるとするのが判例の傾向です。ただ、マーケット・パワーが生じるかどうかは、新規参入の容易性により大きく左右されます。

参入障壁をどう捉えるのかという点において、いわゆるシカゴ学派とこれを批判する立場とでは大きな違いがあります。シカゴ学派では、参入障壁を生産手段である原材料が入手可能であることを条件として新規参入業者が既存業者より高いコストを負担しなければならないような状態と定義し、参入期間、既存業者にコストの差異を生じせしめる生産手段の保有の有無、規模の利益、サンクコスト、政府規制を参入障壁要因として捉えます。シカゴ学派は、参入障壁を限定的に捉える傾向にありますが、いわゆるポスト・シカゴやネオ・ブランダイス学派では、より広く参入障壁を認定しようとする特徴があります。特許権その他のライセンスを既存業者との競争上不利にならないコストで入手できないこと、生産に必須の原材料の入手が困難か既存業者に比べて調達コストがかかることも参入障壁と捉えます。

参入障壁が認定されるほど、低いマーケットシェアでマーケット・パワーが、そして独占力が認定されることになります。

アルコア事件判決( United States v. Aluminum Co. of America, 148 F.2d 416 (1945))では、第2巡回区控訴裁判所のハンド判事(Judge Learned Hand)によると、独占力は、市場シェア90%であれば認定するのに十分であるが、60〜64%であれば疑わしく、33%では不十分であると指摘しました。

マーケット・パワーの立証程度について、重要な判断を示しているのがマイクロソフト事件(United States v. Microsoft Corp., 56 F.3d 1448 (D.C.Cir.1995))判決です。同事件において、マイクロソフトは、マーケットパワーは実際に存在することが立証されなければならず、高い市場シェアにもかかわらず、マイクロソフトのOSは価格が低下しているのであり、市場支配力を有していないと主張しましたが、裁判所は、市場支配力は、現実的な価格上昇から判断するものではなく、価格引き上げに対して、代替製品へのシフトが起きるかという価格弾力性から判断されるとし、マイクロソフトの主張を退けています。

シャーマン法2条違反が成立するためには、客観的要件のみならず、主観的要件が満たされることが必要です。この点に関して、連邦最高裁判所は、独占行為の罪が成立するためには、独占的地位にある企業が、市場支配力を行使し、価格を支配し、競争を排除する意図を有していることが必要であると解しているが、このような意図は、特別に立証されなくても、被告の一般的行動から推認されればよいとしています。しかしながら、他方で、独占の企図の罪に関して、連邦最高裁判所は、「独占行為という犯罪が成立するためには一般的な意図しか必要とされていないが、独占の企図の罪には、競争を破壊し、または独占を形成する特別の意図が必要である」と述べ、誠実な市場競争の範疇を逸脱し、市場支配力を獲得しようとする意図が必要であることを明らかにしています。

シャーマン法2条の解釈や運用を考察する上で、古典的ではあるものの重要な判例の1が、スタンダード・オイル連邦最高裁判所判決(Standard Oil Co. of New Jersey v. United States, 221 U.S. 1 (1911))です。スタンダード・オイル・ニュージャージーは、相次ぐ企業結合によって石油精製・石油製品・石油輸送市場において30以上の会社を同社の傘下に置き、石油市場の90%以上を支配する石油トラストの中核を形成していました。米国司法省は、@ロック・フェラー一族等のパートナーシップが結合して、1870年以降競争制限の共謀をしていたこと、A輸送パイプライン等の総合的な支配力を濫用して、鉄道会社に石油輸送における優遇料金を強制し、競争者がグループに入らなければ事業から撤退せざるを得ないようにしたこと、B競争者を排除するための地域的な廉売、産業スパイ活動を行ってきたことをシャーマン法1条及び2条違反になるとして訴追しました。1審及び2審は、株式所有による結合構造は、結合による取引制限として1条違反、独占の企図行為は2条違反になるとして、違法行為を禁止する差止め命令を下しました。連邦最高裁判所は、多数の事実を綜合して判断すれば、スタンダード・オイルによる独占の意図・目的は推認されるので、不合理で不正な取引制限になるとして、違法行為の禁止にとどまらず、排除措置命令として結合構造の解体を命じたものです。ホワイト判事は、違法行為の禁止のみでは競争状況の回復は不十分どぇあり、結合構造の解体が相当と判断したものです。

アメリカン・タバコ事件( United States v. American Tobacco Co., 221 U.S. 106 (1911))では、アメリカン・タバコは、価格競争を終結させるべく多数の企業を買収してタバコ市場の約90%を支配するトラスト企業でしたが、さらなる戦略として、競争企業にタバコ・トラストに参加するか、価格競争によって事業から撤退するかの選択を迫って競争を制限し、世界市場の分割を行い、新規参入を妨害するために原材料を買い占め、競争者の工場を買収・閉鎖して生産量を制限する等の行為を行ったものです。1審はこのような行為はシャーマン法1条違反の取引制限の結合になるとして、2審もこれを容認したものの、独占行為として認定しませんでした。連邦最高裁判所は、合理の原則により判断し、これらの行為によって取引制限がもたらされただけでなく、タバコ・トラストによる独占の維持を図る意図が推認されるので、シャーマン法2条にも違反するとして下級審判決を取消し、結合の解体を含む広範な排除措置命令を発令しました。

シカゴ学派全盛時に企業分割を認めた事例がAT&T事件(
United States v. American Telephone & Telegraph Co., 461 F. Supp. 1314 (D.D.C. 1978); Maryland v. United States, 460 U.S. 1001 (1983))です。同事件では、通信サービス市場においてAT&T及び子会社たる運用会社ウエスタン・エレクトリック、ベル・オペレイティングシステム、並びにAT&T、ウエスタンの共同子会社である開発会社ベル・テレフォーン・ラボラトリーは、違法に結合して共謀し、長期にわたって略奪的行為に従事したと米国司法省は主張した。ベル・システムによる多様な通信業者に対する端末機器の供給拒絶、AT&Tが独占所有する通信回線への接続妨害、ウエスタン、ベル間の独占的生産と購入の関係の維持、競争者に対応した違法な料金設定、顧客独自の端末の許容拒否等がその具体的行為で、これにより、長距離通信、通信機器、地域通信において通信サービス・機器の独占を獲得して維持し、潜在的競争を制限し、顧客の競争における利便性の向上を否定したとして、違法行為の差止め、AT&Tのウェスタンからの分離、ベルからの長距離部門の分離を求めたものです。長期審理の後、同意判決が発令され、AT&Tは長距離通信会社と9つの地域電話会社に分割され、通信機器会社の株式も第三者に譲渡されました。構造的排除措置命令による企業分割は、シカゴ学派全盛時において際立つ判断です。独占状態の分割訴訟は長期間の審理を要し、経済効率性を損なう面もあることは否めません。IBMの分割訴訟は、1969年に提起された後に審理の長期化を招き、1982年に取り下げられ、米国司法省の訴訟戦略は失敗に終わっています。

TFEU条約102条を前提とする場合

TFEU条約102条(2009年12月1日以前のEC条約82条に相当する)は、「1又は2以上の企業が連合市場又はその一部において、支配的地位を濫用することは、加盟国間の取引に影響を及ぼす限り、共同体市場に違反するものとして禁止される」とし、濫用行為の具体例として、@不当な購入価格・販売価格その他の不当な取引条件を直接又は間接に課する行為、A消費者の不利益となるような生産、販売又は技術開発の制限行為、B取引の相手方に対して、同等の給付について異なる条件を適用し、その結果、相手方を競争上不利な立場に置く行為、及びCその義務の性質上又は商慣習上、契約の目的と関連性のない追加的な義務の受諾を契約の条件とする行為を掲げます。

支配的地位につき、欧州司法裁判所は、「相当程度まで競争者、顧客及び消費者から独立に行動することが許容されることを通じ、関連市場における有効競争の維持を妨げることができる企業が共有する経済力に関わる地位」と定義し(United Brands v. Commission, 1978 E.C.R. 207 (1978))、当該欧州司法裁判所の定義が今日でも妥当します。

当該定義から明らかなとおり、支配的地位が確立されるためには、有効競争が存在しない状態である必要はなく、有効競争の維持を妨げることができる状態が存在すれば足ります。

現実的又は潜在的競争が存在しても、支配的地位は存在し得ます。すなわち、支配的地位が確立されていれば、このような状況は、有効競争による競争的な緊張を減少させ、支配的地位にある事業者において、一定期間、市場支配力を行使することが可能になるのです。

欧州委員会は、利益を失うことなく、一定期間、競争的状況から価格を上昇させることのできる事業者は、有効競争に直面することがなく、したがって、支配的地位にある事業者であると認定します。欧州委員会は、このような支配的地位は複数の要因から発生すると思料し 、支配的地位の認定にあたって、支配的地位にある事業者と競争事業者の市場での地位、競争事業者による拡大と参入可能性及び購買力をとりわけ考慮します。

判例、裁判例及び欧州委員会の決定中において言及されている、支配的地位の認定と市場占有率との関係は以下のとおりです。

@ 支配的地位が容易に認定できる市場占有率(市場占有率60%以上)

裁判所及び欧州委員会は、いずれも、市場占有率が概ね60%以上の状態である場合には、特段の事情がない限り、支配的地位を認定しています。

すなわち、Irish Sugar事件 において、欧州第一審裁判所は、市場占有率90%で、欧州司法裁判所は、Hoffmann事件 において、市場占有率75〜86%の状態が3年間継続していることを前提に、さらに、欧州委員会は、Warner-Lambert事件 では、売上高基準で79%、販売量基準で59%、主要加盟国において50%以上の市場占有率を有していることを前提に、それぞれ、支配的地位を認定しています。

また、Hilti事件では、欧州第一審裁判所は、Hiltiが関連市場において70〜80%の市場占有率を有している事実を認定し、当該市場占有率は、支配的地位にあることのclear indicationであると指摘しています。

さらに、AKZO事件において、欧州司法裁判所は、市場占有率63〜66%の状態が3年間継続したことを前提に、支配的地位を認定しています。

また、Trans-Atlantic Conference Agreement事件 において、欧州委員会は、市場占有率60%を前提として、支配的地位が推認されると指摘しています。

A 支配的地位が推認される市場占有率(市場占有率40%以上)

欧州司法裁判所及び欧州委員会は、いずれも、市場占有率が概ね40%以上の状態である場合には、支配的地位が推認されるとしています。

すなわち、Michelin事件において、欧州第一審裁判所は、再生タイヤ市場における市場占有率が57〜65%である事実を認定の上、当該市場占有率を前提とすれば、支配的地位を認定するのに妨げにならないと判示しました。

他方で、United Brands事件 において、欧州司法裁判所は、UBCの市場占有率は40〜45%であり、当該市場占有率はUBCの市場占有率を自動的に推認させるものではないとしつつ、2位及び3位企業の市場占有率が20%に満たない場合には、支配的地位を認定できる場合もあり得ると判示しています。

B 支配的地位が推認されない市場占有率(市場占有率40%以下)

欧州委員会及び裁判所は、いずれも、市場占有率40%以下の場合には、特段の事情が認定できない限り、支配的地位を慎重に認定しています

すなわち、欧州委員会は、British Airways事件 において、関連市場の市場構造を前提とすれば、British Airwaysの市場占有率が39.7%であったとしても支配的地位が認定できるとし、680万ユーロの制裁金賦課決定を発令しています。

他方で、Gottrup-Klim事件 において、欧州司法裁判所は、市場占有率32〜36%の状態では、支配的地位を認定する決定的要因にはならないと明確に指摘しています。

このように、市場占有率40%以下では、関連市場の市場構造等の特段の事業がない限り、支配的地位は当然に認定されず、その認定は慎重になされていると評価できるものです。
 
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