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Dr. Inoueが執筆した英文による独占禁止法の解説書がKluwer Law International社から出版されました。日本でも購入が可能です。
HOME流通取引に関わる問題実体編正当理由と取引拒絶

行為の外形から、原則として、公共阻害性が肯定される場合に使われる用語であり、正当理由が肯定されるのは、例外的な場合のみです!

流通取引に関わる問題
この点で参考になるのが、「不公正な取引方法に関する基本的な考え方」(独占禁止法研究会報告)です。当該報告書では、共同の取引拒絶とは、原則として、独占禁止法上、許容し得ない意図・目的で行われるのが通例であり、原則として、公共阻害性を有すると指摘されています。他方で、同報告書は、例外的に正当理由が認められる場合として、「一定の資格基準を設けていることにより、その基準に合致しない者が取引を拒絶される」場合であり、「例えば、広告の倫理的・合理的基準を設け、これに合致しないものの掲載を拒否する場合は、公共阻害性はないと考えられる」と指摘しています。

公正取引委員会によると、事業者が、独占禁止法上違法な行為の実効を確保するための手段として、市場における有力なメーカーが、流通業者に対し、自己の競争者と取引しないようにさせることによって、競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるようにするとともに、その実効性を確保するため、これに従わない流通業者との取引を拒絶すること例えば次のような行為を行うことは、単独の取引拒絶に該当し得ます。

また、市場における有力な原材料メーカーが、自己の供給する原材料の一部の品種を完成品メーカーが自ら製造することを阻止するため、当該完成品メーカーに対し従来供給していた主要な原材料の供給を停止したり、自己の供給する原材料を用いて完成品を製造する自己と密接な関係にある事業者の競争者を当該完成品の市場から排除するために、当該競争者に対し従来供給していた原材料の供給を停止することも単独の取引拒絶に該当する可能性があります。

なお、取引先選択自由の原則から言えば、本来、どの取引先と取引をするかどうかは原則自由、例外的に違法という位置づけとなるはずですが、そのような整理が妥当しない場合もあります。米国の例ではありますが、不可欠施設の所有者の場合には、取引拒絶がより認められやすいとはいえます。参考事例を2つ紹介します。

ガスライト事件判決

本件では、ガスバーナー製造業者等により構成され、ガス器具の安全性を検査し、合格した器具にステッカーを発行している同業者組合が、独立業者が製造する同等以上の安全性を有するガス器具に対してステッカーの交付を拒否することについての違法性が問題となりました(事案自体は損害賠償請求事件)。

本件において、連邦最高裁判所は、同業者組合の発行するステッカーがなければ、独立業者はガスバーナー市場には参入できないことを認定した上で、同業組合の行為を共同の取引拒絶に該当するとし、当然無効の原則を適用しています。

米国では、市場からの排除行為について、基本的に合理の原則が適用されるものの、一定の施設を利用することが一定の市場における競争に必要不可欠である場合に、当該施設の利用を妨げることにより、市場への参加を排除するような場合には、当然無効の原則が適用されるのです。上記各連邦最高裁判例の後、裁判例レベルですが、Essential Facility Doctrineについて明確に言及し、定式化を実現したのが、MCIコミュニケーション事件です。本件は、AT&Tによる長距離電話通信の独占状態が自由化された後、競争者となったMCIが、AT&Tが所有する地域通信網へのアクセスを求めた事案でした。MCIは、AM&TがMCIのアクセスを拒絶し、略奪的価格設定や抱合取引を行った等の理由により、シャーマン法第2条違反に基づく三倍賠償を求めて提訴しました。第一審裁判所は、略奪的価格設定の事実を認定しAT&Tの損害賠償義務を認定しました。控訴審において第七巡回裁判所は、連邦通信委員会による料金規制等が行われている事実は、反トラスト法が適用される可能性を排除しないとし、不可欠施設を有するAT&Tの接続義務を認定しました。その上で、第七巡回裁判所は、Essential Facility Doctrineの要件について、@独占者が不可欠施設を支配していること、A競争者が実際的もしくは合理的に不可欠施設を作り出すことができないこと、B競争者が不可欠施設の利用を拒絶されていること、およびCファシリティを利用させることが実現可能であることという要件を掲げました。なお、第七巡回裁判所は、AT&Tの損害賠償義務については、損害の算定についての根拠が不明確であるとして審理を差し戻しています。

ベライゾン事件判決

1996年に米国で成立した電気通信法は、既存の地域電話会社に対して、競争者に、「アンバンドル」方式で接続を認める義務があると定めるもので、ベライゾン社は、競争業者であるAT&T社等と相互接続協定を締結し、通信網を競争業者に対して開放しました。ニューヨーク州の公益事業委員会は、この協定を認可しています。ベライゾン社は、長距離電話部門にも事業を拡大することを試みましたが、かかる事業拡大の認可条件の一つが、ベライゾン社が、市内電話部門について、競争業者に対する接続義務を果たしていることでした。米国連邦通信委員会は、ベライゾン社が、かかる義務を果たすことを条件に、同社の長距離電話部門への事業拡大を認可しました。1999年、ベライゾン社の競争業者のうちの1社が、連邦通信委員会および公益事業委員会に、ベライゾン社は、競争業者に対する接続義務を十分に果たしていない旨、提訴しました。連邦通信委員会と公益事業委員会は、並行して調査を進めた結果、ベライゾン社の接続方法には法令違反があると判断し、改善命令を発令したものです。連邦通信委員会は、同意判決により、ベライゾン社に対して、連邦政府に一定の金員を支払うこと、公益事業委員会は、決定により、ベライゾン社に対して、競争業者に1000万米国ドルを支払うことを命じました。上記各決定を受けて、Law Office of Crutis Trinco、 LLPは、ベライゾン社に対して、同社は、競争業者である他の電気通信会社の通信を接続する場合、自己の通信接続よりも後回しにして遅らせるなどの差別的取扱いをして、AT&T社等の競争業者から顧客が離れるよう誘引したとし、かかる行為は、シャーマン法第2条に規定する独占力の行使に該当する違法行為であるとして、同社に対して、損害賠償訴訟を提起しました。

上記の事実関係を前提に、連邦最高裁判所は、ベライゾン社は、競争業者に対して、同社の通信網に対する接続を認めるか否かについて任意で判断しているのではなく、法律に基づいて、通信網を開放しているにすぎないとし、被告が全くの任意でチケットを販売していたアスペン事件判決との事案の違いを強調して、同判決において確立された法理の適用を否定したのです。その上で、連邦最高裁判所は、Essential Facility Doctrineについて言及し、裁判所は、同法理を否定も肯定もしないものの、Essential Facility Doctrineの適用があり得るのは、不可欠施設への接続が認められない場合に限られ、連邦政府の命令等により接続が認められる場合には、Essential Facility Doctrineは適用されないと判断し、同法理が適用される可能性を非常に狭く解するに至っています。
 
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