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HOME流通取引に関わる問題実体編ソフトの抱合販売

抱合販売に該当し、独占禁止法に違反し、排除措置命令の対象になる可能性がある!

流通取引に関わる問題
独占禁止法を前提とする場合

問題点とリスク

『ゲームソフトメーカーが、人気の高いソフトシリーズの新作を販売するにあたり、新作の入荷量の確保に躍起となっている小売業者に対して、新作と合わせて他の売れ残りの在庫ソフトを割当販売した。』

上記のような行為に見覚えがある方は要注意です。

上記の行為は、抱合取引として、公正取引委員会の排除措置命令の対象になる可能性があります。

排除措置命令の対象になると、『独占禁止法に違反した違法行為に従事した企業』というレッテルが貼られることになりますし、排除措置命令が確定すると、民事損害賠償訴訟では、行為の違法性が推定されて敗訴する危険性が高まります。

さらにやっかいなのは、排除措置命令が発令された場合に、当該命令に違反してしまった場合には、刑事罰が適用されることです。刑事罰の重さは、個人については2年以下の懲役又は300万円の罰金、法人については3億円以下の罰金(両罰規定)です

上記の例で掲げたような取引条件を設定することは、会社の方針等に照らして必要であることもありますが、『独占禁止法に違反した違法行為に従事した企業』というレッテルを貼られるようなこととなれば、本末転倒です。

したがって、独占禁止法違反に該当するような行為は、すべからく、これを避ける必要があります。

問題点の解決方法

問題点を回避するための方法論としてのポイントは2点です。

第1に、2つのソフトがセット商品として単一商品となることを証拠により裏付けられる場合以外は、不人気ソフトを組み合わせて販売することは避けるという方法があります。ひとつの指標としては、大多数の人がパッケージ販売を望み、バラ売りに合理的な価格で対応することが費用的に無理な場合にはセット商品としてみることができるという指標があります。

第2に、不人気ソフトをあわせて販売することについて、正当理由を証拠により裏付けることができる場合以外には、不人気ソフトを組み合わせないという方法があります。

いずれにしても、公正取引委員会の排除措置命令により、『違法行為に従事した企業』というレッテルが貼られる事態はすべからく避ける必要がありますので、上記で掲げた手段により、独占禁止法に違反しないような方法を取る必要があるといえます。

反トラスト法を前提とした参考事例

米国反トラスト法を前提とした参考事例が、2002年のマイクロソフト事件です。米国司法省は、約20州とともに、Windows98に関して、1995年の同意判決とは別に、反トラスト法違反に基づき、マイクロソフトを提訴しました。米国司法省は、マイクロソフトはOS市場における独占力を利用して以下の排除行為に従事したとしました。
・OEM業者に対してライセンス契約で初期画面に修正を禁じることでOEM業者を駆逐した
・OSであるウインドゥズとASであるブラウザーの統合により、ブラウザー市場の競争事業者を駆逐した
・インターネットアクセスプロバイダとの契約においてネットスケープ社のナビゲーターを使わせないようにしてネットスケープ社を駆逐した
・インターネットコンテンツプロバイダ、インディペンデントソフトウェアベンダー及びアップル社との独占的取引契約により競争者のブラウザーを排除した
・インテルに対してJAVAとの共通のプラットフォームにしないよう圧力をかけた
米国司法省は、マイクロソフトが、OS市場の独占力を利用してブラウザー市場において独占化を企図している、ブラウザーとOSの統合は違法な抱き合わせであり、シャーマン法に違反するとの主張も展開しました。ワシントン地裁は、米国司法省の主張を大筋で認め、OSとAS事業の分離を命じました。高裁は、OS市場における独占化行為を認定したものの、救済方法としては違法行為の差し止めとライセンス契約の変更にとどめました。

なお、高裁は、いわゆるtechnological tyingの主張について、
・利用者は、別個のブラウザーASを立ち上げる必要がなくなる
・ブラウザーの統合は他のASの性能を高める可能性がある
・インターネット・エクスプローラーとの統合でブラウザーに関係ないOSの性能が向上している
と指摘し、「商品やサービスが別個の需要を有しているか否か」というJefferson Parishの法理ではなく、1979年のIMB Peripheral事件や同じく1979年の第二巡回裁判所Berkey/Kodak事件に依拠し、1919年のColgate法理に重きを置く判断をしています。なお、1919年のColgate法理とは、私人間の取引では、私人は自由に取引条件を定めることができ、私人間の取引条件に反トラスト法が介入するのは慎重足るべしという法理で、とりわけシカゴ学派、この法理を支持し、独占企業にも当該法理は妥当し、独占企業による取引条件の設定は違法にならないし、技術情報の開示を要求される立場にはないと論証しています。

上記のBerkey/Kodak事件(Berkey Photo. Inc. v Eastman Kodak Co., 603 F.2d (2d Cir. 1979))はコダック社がアメリカの写真フィルム市場で独占力を有している状況を前提とした裁判例です。コダック社は新型の写真フィルムである10Eを開発したのですが、この新製品に併せて新企画のカメラを同時に市場に投入しました。新フィルムと新カメラが同時に市場に投入されると、フィルム市場におけるコダックの独占力のために、多くのカメラ需要が、コダックの新フィルム対応の新カメラに移行し、独立系のカメラ業者は大打撃を受けました。独立系のカメラ業者の1であるバーキィは、シャーマン法2条違反でコダックに民事訴訟を提起し、コダック社は、新製品投入前に新カメラの企画を公表すべきであり、秘密裏に企画変更したことは、独占企業がある市場における独占力を利用して他の市場における独占力を取得することを企画したものであると主張しました。第二巡回裁判所は、コルゲート理論を適用し、独占企業であっても、競争者と協力したり、情報の開示を義務づけられることはないし、コダック社がカメラ市場に進出することはカメラ市場の競争を活性化させることになるのであり、技術革新による競争を排除すべきではなく、効率化の達成により、適法に独占力を取得した独占企業が高価格を設定したとしても、それは競争の結果であり、シャーマン法2条には違反しないと指摘しました。

Colgate法理の抱合販売への適用を考察する上で、もう一つ参考になるのが1979年のIMB事件(In re IBM PDF Antitrust Litigation, 481 F. Supp. 965 (N.D.Cal.1979 ))です。同事件においてIBMは新型コンピューター導入時に周辺機器のデザイン、インターフェースを変更したため、従前の周辺機器との互換性が完全に失われ、周辺機器の製造業者が大打撃を受けました。そこで、周辺機器の製造業者は、IBMに対して、新製品のデザイン変更は互換機つぶしを目的とするもので、シャーマン法2条に違反する独占化行為であると主張し、訴訟提起しました。本件において高等裁判所は、機能の向上やコスト低下を伴わず、単に競争者に打撃を与える目的でデザインを変更し、互換性を失わせることは違法であるが、機能・品質等で新しいデザインが過去のデザインを改良するものである限りは、シャーマン法2条にて違法評価を受けないと判断しました。

いわゆるバンドリングに対するシャーマン法2条の適用を考察する上で、確実に押さえておくべき事例が1992年のコダック事件です(Eastman Kodak Co. v. Image Technica Services, Inc., 504 U.S. 451 (1992))です。コダック社は、複写機やマイクロ・グラフィック機器の販売メーカーで、同社は本体装置の購入者以外に対する補修部品の販売を拒否する方針を採用していた。この方針の根拠は高品質サービスの維持によるブランド間競争の促進、在庫管理費用の削減及びコダック社の本体製品の巨額投資へのただ乗り防止とされていました。この方針により、独立の補修サービス業者であるイメージ・テクニカルサービス他17社(「ISO」)は大打撃を受け、コダック社の販売方針は、コダック製品の保守サービス業務と部品販売を抱合わせるもので、シャーマン法1条に違反し、製品の部品販売市場において独占力を有するコダック社が部品販売を拒否することによって保守サービス業務市場において独占化を実現しようとするものであってシャーマン法2条に違反すると主張して訴訟を提起しました。第一審において、コダック社は、部品販売拒否について正当か理由があることを主張するとともに、主たる市場である複写機市場においてコダック社が独占力を有することはなく、従属市場においてマーケットパワーが生じることなく、マーケットパワーがない以上、競争阻害効果が生じることはない、訴えには法律的な理由がないとして、サマリージャッジメントを申立てました。この主張の根拠として使われたのが、ライフ・サイクル・コストです。これは、コダック社が複写機の補修部品市場において圧倒的な市場シェアを有していても部品価格を上昇させることはできない、部品価格の上昇は、複写機のライフ・サイクル・コストの上昇と判断され、マーケットパワーを有しない複写機市場でのシェアを失うことになるためであるとする理論です。連邦地裁のスチューワーザー判事は、ISOに一度の質問状及び6人の証言録取の機会を与えたのみで十分な証拠開示を実施せずに審理を集結し、コダック社の主張を認めて、請求を棄却しました。控訴審では、高品質の維持及び在庫管理の必要性という理由も併せて主張しましたが、柔たる市場である補修部品の販売市場における独占力を認定し、他方で、高品質の維持や在庫管理の必要性といった正当化根拠は口実に過ぎず、品質維持は別の方法でも実現できるとして、第一審判決を破棄しました。最高裁判所は、控訴審の判断を支持し、高品質の維持というビジネス上の正当理由が存在ことについて証拠が提出されていない以上、コダック社の主張が競争促進的であることを推認してサマリージャッジメントを求めることはできないと指摘しました。

補修部品の供給市場という製品市場を独占しているコダック社によるビジネス上の正当理由のない取引拒絶について違法と判断した判断手法は、アスペン・コダック理論とも言われています。

EU競争法を前提とした参考事例

EU競争法上、参考となる事例が、マイクロソフト事件です。

同事件において、欧州委員会は、デスクトップパソコンのオペレーティングシステム市場において準独占企業であるMicrosoftは、WindowsにMedia Playerを組み込んで抱合せ販売をし、Windowsについての情報提供を拒否することでTFEU条約102条に違反しているとし、2004年3月24日、同社に対して、販売方法を変更すること及びインターフェース情報(マイクロソフトのプログラム情報ではなく、Windows上で機能するソフトを作成するために必要な情報に限定される)を提供することを義務づけました。なお、適用法令は、上記の通り、FTEU条約102条で、欧州委員会は関連市場をPC向けOS提供市場と画定し、市場シェアを68.15%と算定しています。また、メディアプレーヤー提供市場も関連市場であるとして画定しつつ、同市場において、同社のシェアは僅かであるとしています。また、欧州委員会は、Microsoftに対して、Media Playerを組み込まない形態でWindowsを販売すること、及び制裁金として4億9700万ユーロの支払いを命じたのです。Microsoftは、2004年6月7日、一般裁判所に上訴し 、また、欧州委員会の決定主文の執行差止めを求めて暫定命令を申し立てましたが、一般裁判所は、かかる申立てを却下しました。Microsoftは、欧州委員会の決定が執行されれば、同社の経済的及び製品開発の自由同様、知的財産権が侵害され、市場環境は修復不可能な程度に変更されると主張しましたが、他方、一般裁判所は、Microsoftは個々の問題それぞれの緊急性について立証しておらず、また、問題解消措置により、深刻かつ回復不可能な損害が発生することについて法律上要求される程度の立証をしていないと指摘しています。なお、一般裁判所の裁判長は、手続に参加していた参加人のうち2社についてはMicrosoftとの間で和解が成立したため暫定命令の手続から除外された旨指摘しています。暫定命令の申立てが却下されたことで、欧州委員会の決定は、2004年12月22日から執行力を有するに至りました。Microsoftは、Media Playerを組み込まないWindowsの販売を開始しましたが、他方で、欧州委員会との間で、問題解消措置の範囲について協議を継続しました。2005年6月6日、欧州委員会は、Microsoftから新提案がなされたこと、及び使用許諾を受けていない第三者に対しても、ソフトが顕著な発明を含んでいない限りは、相互運用性情報を受領した競争事業者が開発したソフトのソースコードを配布する必要があることを公表しました。Microsoftはかかる欧州員会の判断に対して上訴し 、かかる問題解消措置は、ソフトの使用許諾を受けていない第三者に対して、Microsoftの企業秘密へのアクセスを認めるに等しく、秘密情報を守るための条件を課せなくなると主張しました。また、同社は、欧州委員会による問題解消措置は、Microsoftの財産権を侵害するものであること、顕著性及び発明という要素は、不明確、不正確及び意味のある形態での適用を妨げるものであり、法律の明確性原則を侵害するものであり、世界的かつ地域を越えた開示義務を課することで、国際公法の確定した原則を侵害している旨主張しました。他方、欧州委員会は、Microsoftによる問題解消措置の遵守状況を監視するために管理人を選任し 、市場調査を実施しました。かかる調査結果に基づき、欧州委員会は、2005年11月10日、同年12月15日迄に、相互運用性に関する完全かつ正確な情報を、合理的な条件で提供する義務を履行すること、不履行の場合には1日あたり200万ユーロの履行強制金を賦課するとしました。なお、上記期限は、その後、2006年2月15日に延期されています。Microsoftは相互運用性に関する情報を改訂しましたが、欧州委員会は、2006年6月20日、2億8050万ユーロの履行強制金を賦課する決定を下しました 。これに対して、Microsoftは、一般裁判所に上訴したのですが、同裁判所は、2007年9月17日、欧州委員会は、問題解消措置の履行状況を監視する管理人を選任する権限を欠き、この点についての費用負担を求めることに理由がないとしつつ、その余の点については、欧州委員会の決定を支持しました。その後、Microsoftは当該一般裁判所の判断について上訴しないことを明らかにしています。2008年2月27日、欧州委員会は、Microsoftが、2007年10月22日迄、相互運用性に関する書面を閲覧することに対して不合理な報酬を要求したとして、合理的な条件でそのような情報を提供すべき義務に違反したことを理由に8億9900万ユーロの制裁金を賦課するとの判断を下しました 。Microsoftは一般裁判所に上訴したました、同裁判所は、制裁金の金額を8億6000万ユーロに減額したものの、その余については、欧州委員会の決定を支持しています。
 
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