記録の閲覧謄写

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事件記録の閲覧謄写は、公正取引委員会や連邦取引委委員会での手続同様、欧州委員会での手続でも非常に重要です。

欧州委員会による競争法の運用実務においては、被疑事実が詳細に記載された異議告知書が名宛人に送付されますが、それだけでは手続保障の観点からは十分ではないと考えられています。

すなわち、武器対等の原則及び防御権の保障の観点から、異議告知書に対して十分に反論をするには、委員会が異議告知書という形で示された暫定的な結論及びそれに至った過程をチェックすることが必要であり、そのために、一部の例外を除き、異議告知書の名宛人に対して、異議告知書の送付後に、委員会記録の全ての文書にアクセス(閲覧謄写)が認められています。

このような委員会資料の全面的な開示により、その後の争点の明確化が迅速になされることになります。ここに、「委員会記録」は、検査手続の期間を通じて欧州委員会競争事務総局が取得、作成又は収集した全ての文書であり 、電子情報も含む趣旨です。上記のとおり防御権保障の観点からは、記録中の全てのファイルにつきアクセスが認められるべきですが、他方で、事実認定の基礎とはならない文書や事業者の秘密にまで及ぶ資料の開示を認める場合にはそれに伴って生じる弊害の方が大きい場合もあり得ます。そこで、これまで判例上閲覧謄写が認められていない①内部文書 、②営業秘密 、③その他の秘密 に関する事項については、閲覧謄写はできないこととされています。委員会に対して情報を提出する者は、情報に②又は③の秘密情報が含まれている場合には、理由を付して秘密情報と考える部分を特定して非秘密版(non-confidential version)の資料を別途作成しなければなりません。しかし、この閲覧謄写の例外も自動的に認められるわけではなく、②及び③の類型は客観的な根拠に基づく申立(Confidentiality Claim)により委員会が認めた場合に限られます。また、5年以上前の経営情報や第三者に開示しているような情報については秘密とは認められません。さらに、当該情報が違反事実又は違反でないことの立証に不可欠な場合で、防御権保護の利益が秘密保護の利益を上回る場合にはなお、閲覧謄写が認められます。閲覧謄写の申請があった場合には、委員会は委員会記録の文書のリストを提供するとともに、CD-ROMその他の電子的記録媒体、コピー又は委員会の施設内でのアクセスのいずれかの方法でアクセスを認めるが、異議告知書を発出する際には、リニエンシー申請時のコーポレート・ステートメントを除き、CD-ROMにより提供されるのが一般です。閲覧謄写が認められた資料の用途については、関連する行政手続で問題となっている競争ルールを適用する司法又は行政手続で使用することに限定されます。

なお、上記のように原則として、このような委員会記録の全面的な開示が認められるのは異議告知書の送付後のタイミングで、異議告知書の名宛人に限られるが、例外的に違反行為の申告者につき、その申告が委員会により拒絶された場合に当該申告者に対して委員会記録の開示が認められます。

Authored by Dr. Inoue

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このページは、Dr. Inoueが2007年12月17日 23:24に書いたブログ記事です。

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About the Author

Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。