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理事会規則2003年1号19条により、同意を要する任意ベースではあるものの、個人又は法人(の役職員)にインタビューして調書を作成することが認められます。インタビューの冒頭では、インタビューの法的根拠、目的、インタビューを記録する旨、回答が任意である旨を通知されます。インタビューは記録され、記録のコピーについては、インタビューされた者により一定期間内にその正確性の確認を要することとされています。しかし、インタビューは、任意ベースであるので、実務上は余り用いられていませんし、仮に実施される場合も調書を作成するのではなく、米国のディスカバリーの対象とならないよう、録音機による録音の手法がとられるのが一般的です。

Oral Hearningにはご存知のとおり、反対尋問は認められておらず、形式的な手続の色彩が強い。日本の法廷も、通常の弁論手続などは、相当程度形式的ですが、このような経験を前提としても、日本や米国での法廷の方が、直接主義・口頭主義が徹底されていると感じますね。そのため、欧州委員会の手持証拠の開示のスコープが圧倒的に広く、また、弁護士‐依頼者特権が認められているなどの面はあるものの、ほぼ書面のみで勝敗が決する手続という印象を、経験すればするほど強めます。直接主義や口頭主義を前提としたプラクティスに慣れている日本の弁護士は、欧州委員会の調査手続やOral Hearningを通じて代理人として活動する際、相当程度、意識を転換する必要があるように思います。European Court of First Instanceのhearingですら、期間は5日程度で、Oral Hearningのみならず、日本における弁論手続との比較ではありますがが、書面主義が欧州における手続の特徴といえなくもないと感じます。但し、Oral Hearningで、釈明権を行使して、事実上の反対尋問を実施することは不可能ではありません。この点は、以前にも指摘したところです。最初は主宰間を通じての質問しかできませんが、直接の質問も不可能ではありません。如何に、被質問者のペースを乱し、直接質問に持ち込むかは、戦略如何といえます。欧州委員会における証拠法則上、確かに、直接主義が正面から認められているわけでは在りませんが、ケースチームの目の前で、ケースチーム側の重要参考人が陥落することによる事実上の効果は少なくありません。Oral Hearningに過度の期待をしてはいけませんが、最初から勝負を放棄するほど悲観する必要もないと思います。

Reported by Dr. Inoue

欧州競争法の実務では、最近話題になったアップル事件のようにUKのConsumer Groupが苦情を申し立てて調査が開始されるなど、苦情申立人の苦情が調査開始の端緒になることがすくなくありません。アップル事件は、苦情申立の結果、調査の対象になり、解決の見込みであると先週報道がありましたね。

欧州委員会に提供された秘密情報は開示からの保護が徹底されています。欧州委員会の職員が秘密情報を職員の義務に違反する深刻な不当行為によって開示した結果情報提供者が被害を被った場合には損害を賠償する義務が発生します。Stanley Adams事件ではこの点が問題となりました。また、BPB Publishing PLS & British Gypsum Ltd事件では、情報提供者の氏名については、報復的な措置から保護されるべきであるとの準則が導かれ、独占的事業者からの報復を恐れる競争事業者が提供した情報に関しては、情報源秘匿が認められる場合が在ることが示されています。競争事業者の価格や取引条件についての情報も、通常、秘密情報として扱われています。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会の事前聴聞に実際に携わったり、Oral Hearingに出席したことのある方は多くないでしょう。経験のない方は、日本の審査手続のようなものという漠然とした印象で捉えているかもしれません。

しかし、実際に手続に携わってみると、日本法を前提とした手続とは、相当、勝手が違います。そこで、今回は、その資料の閲覧謄写について問題点を概観してみたいと思います。

欧州委員会競争総局は、EC条約81、82条違反行為について措置をとる場合には、異議告知書を被聴聞者に送り、独立性のある聴聞主宰官を指名し、被聴聞者は防御権を保障され、委員会の手持資料の閲覧が可能です。閲覧の範囲は、事業者の秘密と委員会の内部資料を除くすべての資料ですから、独占禁止法下の審査手続の閲覧謄写よりも手厚いです。事前聴聞では手続保障が重視されますが、事業者の秘密資料に対するアクセスは認められません。被聴聞者が支配的事業者の場合、将来的な不利益を恐れて、情報の不開示が要請されることもままあります。そのような場合には、委員会の開示ファイルには、non-confidential versionの資料や一部ブラックアウトされた資料が閉じられています。開示されなかった資料については反対尋問が保障されませんが、だからといって、伝聞であるとか、証拠能力に乏しいという議論はありません。ブラックアウトされた資料も証拠として提出されます。但し、証拠価値の評価の際には考慮されるようです。そもそも、Oral Hearingでは、反対尋問も認められていませんから、反対尋問の認められない証拠の証拠能力を否定するという議論もないのでしょう。なお、欧州では、米国と違い、広範なディスカヴァリー制度が存在しないので、Co-Defense Agreementが締結されることはあまり多くありません。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会におけるOral Hearingについては以前にも解説したところですが、今回は、もう少し、実務的ないし実際上の経験に基づく解説をしたいと思います。

Oral Hearingは通常1回だけ開催され、その期間は非常に短いです。多くの場合は1日で、半日のこともあります。複雑な事件では2日にわたることもありますが、極めて例外的です。なお、マイクロソフト事件のときは3日かかったそうです。

Oral Hearingまでに当事者は自由に書面を交換することができ、実際上は、この書面交換により議論は尽きているとみなされています。Oral Hearingでは当事者が、お互いの主張を持ち時間の中で整理して主張するだけですから、セレモニー的な色彩が強いといえます。実際上も、日本における裁判の口頭弁論や、Adversary Systemを採用している米国における手続とは相当程度勝手が異なるという印象が少なくありません。Oral Hearingでは、Hearing Officerが手続を開始し、まず、case teamに事実及び欧州委員会の法的構成についての主張の要約を行わせます。その後、当事者の口頭によるプレゼンテーションが行われます。Oral Hearingにおいて、Officerは証拠の実体面について判断をすることはありませんが、コメントすることはあります。Hearingでは、各国のOfficerが出席しており、通訳を介して、当事者のプレゼンテーションを聞く機会が与えられます。各国のOfficerから当事者に質問がなされ、当事者がこれに回答をします。最後に、欧州委員会及びHearing Officerから当事者に対して質問がなされ、当事者がこれに対して回答します。反対尋問権は保障されていませんが、Hearing Officerに対して、関係者に質問をするよう求めることができますし、手続がヒートアップすると、Hearing Officerを介さずに直接質問と回答がなされることもままありますので、事実上、反対尋問をする機会があるといえます。

Hearing Officerは手続上の判断権限を有しているだけで、作成するレポートも手続的観点を中心としたコメントのようなもので、決定書を起案する際の基礎を構成しているとは思えないものです。

このように欧州委員会におけるOral Hearingは、行政手続の一環として最低限の手続保障だけを狙った手続であり、日本における刑事訴訟のような手厚い手続的保護が図られている手続とは異なる、どちらかというと形式的な手続といえます。

Authored by Dr. Inoue

国際フォワーディングカルテルの審査では、今後、答弁書が提出され、聴聞手続が実施されますが、欧州委員会の審査手続では、書面が重視され、聴聞手続は補助的な位置づけであるのが実務的な扱いです。よって、欧州委員会の異議告知書記載の事実に対して争う場合には、答弁書と証拠の提出が極めて重要です。

聴聞手続では不服申立人も意見を述べることができます。また、他の第三者も十分な正当な利益を証明できれば、聴聞の機会を認められます。欧州委員会は、意見を聞くため必要なものは誰でも聴聞に出席させることができます。

当事者は、代理人を選任することが可能ですが、原則として自分で聴聞に出席することが義務付けられています。異国の地での手続は非常に緊張するので、日本企業の担当者が聴聞に出席する場合には、十分なリハーサルが欠かせません。聴聞は公開ではありませんが、加盟国の競争当局職員も参加することが可能です。

Authored by Dr. Inoue

異議告知書に対する答弁書が提出された後、所定の期日に口頭での聴聞が実施されます。

聴聞は、聴聞官(Hearing Officer)が主宰し、当事者及び加盟国競争当局の担当官が出席します。

上記の者以外にも、違反行為の申立人が書面で期日における意見表明を希望し委員会が適切であると認めた場合)、十分な利害関係を示した第三者につき期日での意見表明が適切であると委員会が認めた第三者、当該事件について書面で意見表明をなし、期日に参加を希望する第三者に口頭での聴聞において意見を述べさせる場合には第三者も聴聞手続に参加できます。

期日においては、事実及び欧州委員会の主張の要約の告知、第三者の意見陳述、当事者の主張、紙国競争当局の質問、欧州委員会及び聴聞官からの質問がなされ、通常1日で終了します。

聴聞官には独立性が保障されています。しかし、欧州委員会の職員であることには変わりはなく、聴聞手続は当事者主義的なものではなく、糾問的な手続です。したがって、民事訴訟の口頭弁論におけるような反対尋問を含む証人尋問のような場ではありません。委員会の事実認定は原則として書面主義であり、聴聞手続は、デュー・プロセスの原理に基づく防御権を直接主義の観点から補完する手続と位置づけられています。

聴聞の実施後、委員会は決定案の諮問委員会への諮問を経て制裁金について正式な決定をします 。聴聞手続は、異議告知書の送付から原則半年、長くても1年以内に終結し、正式な決定がなされます。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会による審査手続の概要は、独占禁止法下での概要と似ていなくもありません。

欧州委員会は、①欧州委員会からの委任により、又は②委員会の決定により、立入検査(具体的には敷地・施設等への立入、帳簿その他の営業に関連する記録の検査、これらの記録のコピー又は抜粋の取得、検査に必要な限りでの設備・記録の封印、事業者の従業員やその代表者に対する質問)を行うことができます。

また、重大な違反行為の立証に関連する記録が存在するとの合理的な疑いがあれば、委員会は、役職員の自宅を含む他の施設・土地等につき決定により立入検査を行うことができます。実際、役員の自宅や自家用車の中にまで立入検査が実施された例があります。

①は加盟国への事前の通知により可能であり、検査に応じないこと自体につき制裁金は科されません。②は加盟国との協議により実施し、検査に応じない場合には制裁金が科されます 。また、その実施の決定は、控訴裁判所の司法審査に服する。①か②かの選択は委員会に委ねられています。

さらに、決定による場合、決定で定める範囲で、調査に協力する義務を負っており、事業者の従業員やその代表者に対する質問にも誠実に答えなければならず、回答が不完全であったり、回答を拒絶すると制裁金が科されることとになります。特にカルテル事件の場合には、このような検査に対する非協力的な態度は回答拒絶等による制裁金の不利益にとどまらず、カルテルに対する制裁金の増額事由となりうるので、厳に慎まなければなりません。

上記いずれの検査であっても、それ自体としては直接的な強制手段は認められていませんが、検査実施国の国内法に基づき警察等の助力を得たり、裁判所の令状を得て検査を行うことが可能です。

なお、欧州においては弁護士の立会権は認められていますが、立入検査開始の要件ではないため、特に事業者が法務部門を有している場合には弁護士の立会なしに検査が開始されるのが通常です。また、欧州においては、弁護士・顧客間の通信文書の秘匿が認められていますが、秘匿に対象となることを主張しなければ本来手元に残るべき書類までも押収されます。

欧州委員会による立入検査は、一般に、dawn raidと呼ばれていて、多くは、早朝、実施されます。欧州では弁護士事務所のみならず、dawn raidへの対応を専門に請け負っているコンサルタントまでいます。それほど、dawn raidへの適切な対応は重要性が認められているのです。

他方で、情報請求は、立入検査と同様、①単に任意の請求をするにとどまるものと②制裁金による間接強制が可能な決定によるものがあります。情報請求は書類の提出のみならず質問への回答を含みます。また、欧州外の書類・情報についての請求も対象となります。また、特に②の請求に関しては、その拒絶等非協力的な対応が制裁金の増額につながります。特に注意を要するのは、情報提供は通常、違反行為の当事者以外の者に対してなされますが、例えば調査対象事業者の競争事業者として情報請求を受けたが、調査の進展に伴い、調査の対象とされることがあることです。このような場合には当初に非協力的な対応を取っていたために後に制裁金が増額することとなりかねません。したがって、情報請求を受けたにとどまる場合でも、並行して違反事実の有無の調査が必要となります。

2003年理事会規則1号により、同意を要する任意ベースではありますが、個人又は法人(の役職員)にインタビューして調書を作成することが認められるようになりました。インタビューの冒頭では、インタビューの法的根拠、目的、インタビューを記録する旨、回答が任意である旨を通知されます。インタビューは記録され、記録のコピーについては、インタビューされた者により一定期間内にその正確性の確認を要することとされていますが、実際には、米国のディスカバリーの対象とならないよう、録音機による録音の手法がとられるのが一般です。

Authored by Dr. Inoue

EUにおいては、EC条約81条又は82条違反の事件の処理のために、欧州委員会と各加盟国の当局との間又は各加盟国の当局間で、収集・取得した情報及び資料の交換が予定されています。

リニエンシーの申請に際し違反事実及び証拠を提出して当局に協力した申請事業者のインセンティブを確保し、カルテル摘発の実効をきたす目的からは、違反企業の役職員といった個人につき、刑事処分の端緒となる資料が欧州委員会から加盟国の当局に対して提供されないことが重要といえます。

2003年理事会規則1号12条3項においては、個人に刑事罰を科すための証拠として情報等を提供することが認められるのは、①情報等を送付する当局の法律がEC条約81条若しくは82条違反に関し、同種の刑罰を予定しているか、又は②当該個人の防御権につき、情報等受領当局の国内法規において認められているのと同様の水準が確保されている方法で収集された場合(身体的拘束による刑罰を科すために使用する場合は情報等の提供は認められない。)に限ると規定されています。そして、欧州共同体においては、EC条約及びこれに関連する規則においては刑事罰は予定されておらず、欧州共同体における情報等取得時に受領国における刑事手続上必要とされる手続的保障と同等の保障が与えられているかにより、罰金刑目的で情報等の提供が認められるかが決せられることになります。

Authored by Dr. Inoue

事件記録の閲覧謄写は、公正取引委員会や連邦取引委委員会での手続同様、欧州委員会での手続でも非常に重要です。

欧州委員会による競争法の運用実務においては、被疑事実が詳細に記載された異議告知書が名宛人に送付されますが、それだけでは手続保障の観点からは十分ではないと考えられています。

すなわち、武器対等の原則及び防御権の保障の観点から、異議告知書に対して十分に反論をするには、委員会が異議告知書という形で示された暫定的な結論及びそれに至った過程をチェックすることが必要であり、そのために、一部の例外を除き、異議告知書の名宛人に対して、異議告知書の送付後に、委員会記録の全ての文書にアクセス(閲覧謄写)が認められています。

このような委員会資料の全面的な開示により、その後の争点の明確化が迅速になされることになります。ここに、「委員会記録」は、検査手続の期間を通じて欧州委員会競争事務総局が取得、作成又は収集した全ての文書であり 、電子情報も含む趣旨です。上記のとおり防御権保障の観点からは、記録中の全てのファイルにつきアクセスが認められるべきですが、他方で、事実認定の基礎とはならない文書や事業者の秘密にまで及ぶ資料の開示を認める場合にはそれに伴って生じる弊害の方が大きい場合もあり得ます。そこで、これまで判例上閲覧謄写が認められていない①内部文書 、②営業秘密 、③その他の秘密 に関する事項については、閲覧謄写はできないこととされています。委員会に対して情報を提出する者は、情報に②又は③の秘密情報が含まれている場合には、理由を付して秘密情報と考える部分を特定して非秘密版(non-confidential version)の資料を別途作成しなければなりません。しかし、この閲覧謄写の例外も自動的に認められるわけではなく、②及び③の類型は客観的な根拠に基づく申立(Confidentiality Claim)により委員会が認めた場合に限られます。また、5年以上前の経営情報や第三者に開示しているような情報については秘密とは認められません。さらに、当該情報が違反事実又は違反でないことの立証に不可欠な場合で、防御権保護の利益が秘密保護の利益を上回る場合にはなお、閲覧謄写が認められます。閲覧謄写の申請があった場合には、委員会は委員会記録の文書のリストを提供するとともに、CD-ROMその他の電子的記録媒体、コピー又は委員会の施設内でのアクセスのいずれかの方法でアクセスを認めるが、異議告知書を発出する際には、リニエンシー申請時のコーポレート・ステートメントを除き、CD-ROMにより提供されるのが一般です。閲覧謄写が認められた資料の用途については、関連する行政手続で問題となっている競争ルールを適用する司法又は行政手続で使用することに限定されます。

なお、上記のように原則として、このような委員会記録の全面的な開示が認められるのは異議告知書の送付後のタイミングで、異議告知書の名宛人に限られるが、例外的に違反行為の申告者につき、その申告が委員会により拒絶された場合に当該申告者に対して委員会記録の開示が認められます。

Authored by Dr. Inoue

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