欧州委員会による審査活動

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欧州委員会による審査手続の概要は、独占禁止法下での概要と似ていなくもありません。

欧州委員会は、①欧州委員会からの委任により、又は②委員会の決定により、立入検査(具体的には敷地・施設等への立入、帳簿その他の営業に関連する記録の検査、これらの記録のコピー又は抜粋の取得、検査に必要な限りでの設備・記録の封印、事業者の従業員やその代表者に対する質問)を行うことができます。

また、重大な違反行為の立証に関連する記録が存在するとの合理的な疑いがあれば、委員会は、役職員の自宅を含む他の施設・土地等につき決定により立入検査を行うことができます。実際、役員の自宅や自家用車の中にまで立入検査が実施された例があります。

①は加盟国への事前の通知により可能であり、検査に応じないこと自体につき制裁金は科されません。②は加盟国との協議により実施し、検査に応じない場合には制裁金が科されます 。また、その実施の決定は、控訴裁判所の司法審査に服する。①か②かの選択は委員会に委ねられています。

さらに、決定による場合、決定で定める範囲で、調査に協力する義務を負っており、事業者の従業員やその代表者に対する質問にも誠実に答えなければならず、回答が不完全であったり、回答を拒絶すると制裁金が科されることとになります。特にカルテル事件の場合には、このような検査に対する非協力的な態度は回答拒絶等による制裁金の不利益にとどまらず、カルテルに対する制裁金の増額事由となりうるので、厳に慎まなければなりません。

上記いずれの検査であっても、それ自体としては直接的な強制手段は認められていませんが、検査実施国の国内法に基づき警察等の助力を得たり、裁判所の令状を得て検査を行うことが可能です。

なお、欧州においては弁護士の立会権は認められていますが、立入検査開始の要件ではないため、特に事業者が法務部門を有している場合には弁護士の立会なしに検査が開始されるのが通常です。また、欧州においては、弁護士・顧客間の通信文書の秘匿が認められていますが、秘匿に対象となることを主張しなければ本来手元に残るべき書類までも押収されます。

欧州委員会による立入検査は、一般に、dawn raidと呼ばれていて、多くは、早朝、実施されます。欧州では弁護士事務所のみならず、dawn raidへの対応を専門に請け負っているコンサルタントまでいます。それほど、dawn raidへの適切な対応は重要性が認められているのです。

他方で、情報請求は、立入検査と同様、①単に任意の請求をするにとどまるものと②制裁金による間接強制が可能な決定によるものがあります。情報請求は書類の提出のみならず質問への回答を含みます。また、欧州外の書類・情報についての請求も対象となります。また、特に②の請求に関しては、その拒絶等非協力的な対応が制裁金の増額につながります。特に注意を要するのは、情報提供は通常、違反行為の当事者以外の者に対してなされますが、例えば調査対象事業者の競争事業者として情報請求を受けたが、調査の進展に伴い、調査の対象とされることがあることです。このような場合には当初に非協力的な対応を取っていたために後に制裁金が増額することとなりかねません。したがって、情報請求を受けたにとどまる場合でも、並行して違反事実の有無の調査が必要となります。

2003年理事会規則1号により、同意を要する任意ベースではありますが、個人又は法人(の役職員)にインタビューして調書を作成することが認められるようになりました。インタビューの冒頭では、インタビューの法的根拠、目的、インタビューを記録する旨、回答が任意である旨を通知されます。インタビューは記録され、記録のコピーについては、インタビューされた者により一定期間内にその正確性の確認を要することとされていますが、実際には、米国のディスカバリーの対象とならないよう、録音機による録音の手法がとられるのが一般です。

Authored by Dr. Inoue

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このページは、Dr. Inoueが2007年12月17日 23:47に書いたブログ記事です。

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About the Author

Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。