Statement of Objection

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欧州における事前聴聞手続は異議告知書の送達から始まります。

異議告知書の記載事項については、2004年委員会規則773号10条が、関係当事者に関する被疑事実を書面上記載することを求めているのみでその他については特段規定されていませんが、決定で記載する本質的事実及び法令の適用が記載される必要があり、被聴聞者が防御するのに十分な情報を提供することを要するとされています。

すなわち、被聴聞者が十分な反論を尽くし、防御をなすには、被疑事実を含む関連する情報が異議告知書という形で書面上記載されていることが必要です。また、その裏返しですが、委員会は、異議告知書に記載され、被聴聞者が十分にコメントすることができた被疑事実についてのみ決定において取り扱うことができます。かかる観点から、通常、異議告知書においては、リニエンシーを利用する場合であれば、申請者が提供した情報及び証拠を基に、第三者の申告に基づくものである場合には、申告者が提供した情報及び証拠を基に非常に詳細な事実を認定・記載し、認定に用いた証拠を認定事実との関連を示しつつ脚注で参照します。このような詳細な事実の記載は、防御権への配慮という点からも説明できるものですが、他方で、委員会の決定の過程における書面主義という点も指摘できます。委員会の事実認定は異議告知書という暫定的なものですが、調査手続により収集した書証、物証を中心になされ、聴聞は、民事訴訟における証人尋問とは異なり反対尋問権が保障された場ではなく、むしろ反論を陳述する補完的な場であると位置づけらています。

異議告知書は違反事実を行ったと委員会が認定した者に送達されます。

そして、異議告知書の名宛人は一定期間内に、記載された被疑事実に対する防御に関する事実を答弁書に記載して、当該事実を立証する証拠とともに提出することができます(異議告知書においては、答弁書の提出期限及び聴聞の予定期日が併せて記載されています。)。この場合、特に問題となるのは、リニエンシーの申請をしなかった違反行為の当事者である。答弁書を提出するまでの期間は、事案の複雑さ等により異なるが、通常、6週間から3ヶ月と短期間です。しかし、当該事業者としては、事件の見通しを立てた上で、詳細な社内調査及び後述の膨大な委員会記録の精査を実施し、最終的なスタンスを決定しなけければなりません。既に述べたように、異議告知書においてはリニエンシーの申請者からのそれなりに有力な証拠を基に詳細な事実が既に認定され、しかも委員会の事実認定は書面主義が基本であることを踏まえると、制裁金の増額事由である検査への非協力に該当せずに異なる事実を主張するには、証明力の高い証拠によることが必要であり、そのためには認定の基礎となった証拠の証明力の精査、詳細な社内調査の実施が必要となります。また、争う事実の事件全体から見た重要性(事案の性質や関与の在り方を根本的に変える事実であったり、制裁金の増減要素に関係する事実か否か)の評価も必要になります。さらに、委員会記録の証拠関係からして、行政処分の段階のみならず後の裁判の段階になった場合の見通しまで必要になるケースもあります。そして、仮に事実の多くを争う方向性であるならば、書面で反論をする機会は基本的には答弁書の提出に限られるのであるから、詳細な反論とそれを裏付ける証拠の提出を答弁書提出のタイミングで行うことが必要となり、必然的に詳細な社内調査の実施と証拠の洗い出しが必要となります。これらを上記の短期間に実施するのは非常に大変な作業であり、現地の弁護士事務所とスムーズに連絡を取れる体制を確保しつつ、共同して作業をしなければなりません。この点においてもリニエンシーを積極的に活用することの重要性が現れているといえます。

Authored by Dr. Inoue

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このページは、Dr. Inoueが2007年12月17日 22:18に書いたブログ記事です。

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About the Author

Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。