事前聴聞手続の際の資料の閲覧謄写

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欧州委員会の事前聴聞に実際に携わったり、Oral Hearingに出席したことのある方は多くないでしょう。経験のない方は、日本の審査手続のようなものという漠然とした印象で捉えているかもしれません。

しかし、実際に手続に携わってみると、日本法を前提とした手続とは、相当、勝手が違います。そこで、今回は、その資料の閲覧謄写について問題点を概観してみたいと思います。

欧州委員会競争総局は、EC条約81、82条違反行為について措置をとる場合には、異議告知書を被聴聞者に送り、独立性のある聴聞主宰官を指名し、被聴聞者は防御権を保障され、委員会の手持資料の閲覧が可能です。閲覧の範囲は、事業者の秘密と委員会の内部資料を除くすべての資料ですから、独占禁止法下の審査手続の閲覧謄写よりも手厚いです。事前聴聞では手続保障が重視されますが、事業者の秘密資料に対するアクセスは認められません。被聴聞者が支配的事業者の場合、将来的な不利益を恐れて、情報の不開示が要請されることもままあります。そのような場合には、委員会の開示ファイルには、non-confidential versionの資料や一部ブラックアウトされた資料が閉じられています。開示されなかった資料については反対尋問が保障されませんが、だからといって、伝聞であるとか、証拠能力に乏しいという議論はありません。ブラックアウトされた資料も証拠として提出されます。但し、証拠価値の評価の際には考慮されるようです。そもそも、Oral Hearingでは、反対尋問も認められていませんから、反対尋問の認められない証拠の証拠能力を否定するという議論もないのでしょう。なお、欧州では、米国と違い、広範なディスカヴァリー制度が存在しないので、Co-Defense Agreementが締結されることはあまり多くありません。

Authored by Dr. Inoue

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このページは、Dr. Inoueが2008年1月 5日 23:20に書いたブログ記事です。

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Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。