シームレス鋼管事件

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欧州における国際カルテル事件を分析する上でシームレス鋼管事件に対する分析を欠くことはできません。以下、シームレス鋼管事件の経緯を簡単に概観したいと思います。

1990年ころから、ヨーロッパのシームレス鋼管メーカー4社と日本の同業メーカー4社との間で「ヨーロッパ・ジャパン・クラブ」という名前の組織が作られて、月2回ほどの会合が開かれていました。かかる会合を通じて、会合の参加者間に「Fundamental」と呼ばれる協約が締結され、ヨーロッパの市場は、ヨーロッパのメーカーがとり、日本のメーカーは、かかる市場での販売は行わず、他方で、日本の市場は日本のメーカーがとり、ヨーロッパのメーカーは、かかる市場での販売行わないことを合意しました。かかる紳士協定は、ほぼ完全な形で実施され、仮に国外から引き合いがあったとしても、現地メーカーの8パーセントないし10パーセント高めに見積るなどして、お互いの市場で競争することを避けていたのです。なお、欧州委員会の見解ではEC条約第81条1項の協約に該当するためには、協約が法的に当事者を拘束するものである必要はなく、当事者の思惑がその取引の自由を制限することで合致すれば、協約が成立したことになります。ペナルティも実施手続も必要ではない。協約にかかる文書を作成する必要もない。このような理論的枠組みを前提に、欧州委員会は、シームレス鋼管の販売方針につき、BS社、Dalmine社、MRW社、Vallourec社、川崎製鉄、新日鉄、および住友金属はコンセンサスに達し、カルテルメンバー間において、協約という文言が何度も使用されていた事実を認定しています。また、カルテルメンバー相互の関係は「Fundamental」によって統制されていたこと、当該協約の目的が、ドイツ、フランス、イタリア、イギリス、日本の各市場を各国のメーカーが守ることにより、シームレス鋼管についての競争を実質的に制限するものであること、上記カルテルメンバー8社の協約自体がEC条約第81条第1項違反であり、EC域内の通商に影響を与え、その程度は、感知し得る程度に達していることを認定しました。欧州委員会の認定に対して、日本メーカーは、アンチダンピングの手続に反する可能性があるため輸出を差し控えたと反論しましたが、欧州委員会から、カルテルが実施された期間中、アンチダンピングに関する手続は開始されていないし、米国のアンチダンピング手続が鉄鋼製品につきなされていても、日本メーカーは米国市場からは一切撤退しておらず、かかる事実は、カルテルの存在を強く推認させるものであると反論されています。制裁金の決定に当たって、欧州委員会は、シームレス鋼管についてのEC4カ国の市場における年間売上げが7300万ユーロであったことから、カルテルメンバー各社に対する制裁金の基本額を1000万ユーロとしました。その上で、カルテルが実施された1990年から1995年の5年間について1年あたり10パーセントをプラスしました。これらにより、カルテルに参加した期間が最も少ないBS社の制裁金額が最も少なくなりました。他方、欧州委員会は、1991年からのシームレス鋼管についての不況状況を考慮して10パーセントの減額を実施し、また調査に協力したことを理由に、Vallourec社に対する制裁金を40パーセント、Dalmine社に対する制裁金を20パーセント、それぞれ減額しました。その結果、最終的な制裁金額は、新日本製鉄、日本鋼管、川崎製鉄、および住友金属について、それぞれ1350万ユーロ、BS社について1260万ユーロ、MRW社について1350万ユーロ、Vollourec社について810万ユーロ、Dalmine社について1080万ユーロとなりました。

Authored by Dr. Inoue

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このページは、Dr. Inoueが2007年12月15日 05:49に書いたブログ記事です。

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About the Author

Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。