昇降機カルテル

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欧州委員会は2007年2月21日、ベルギー、ドイツ、ルクセンブルク、オランダの4カ国において、昇降機(エレベーターとエスカレーター)の設置・メンテナンスでカルテルが結ばれ、明らかなEC 条約第81条の侵害があったとして、オーチス、コネ、シンドラー、ティッセンクルップの4企業グループに対して総額9億9200万ユーロの制裁金を科す決定を下しました。また、4グループの関連会社16社に並んで、オランダでのカルテルに関わっていたとして三菱エレベーターB.V.の名前が挙げられました。17社は、1995年から2004年にかけて、病院や鉄道駅、ショッピングセンター、商業ビルなどに設置されるエレベーターとエスカレーターの販売・メンテナンス・設備近代化のための調達などで談合し、契約受注を企業間で割り当てていたほか、入札のパターンや価格など商業上の機密情報をカルテル参加企業間で交換していたのです。受注割当の方法は4カ国で類似しており、相互に入札の内容を知らせあって事前に合意した割当に沿って調整し、競争があると見せかけるため、落札しない予定の企業が高額で入札に参加していました。また、ドイツとオランダでは、特定の顧客と長期的な関係や良好な関係にあった企業が、顧客企業の契約のほとんどを得る「既存顧客維持原則」と呼ばれる合意がありました。4カ国とも、各国の取締役や販売・サービス担当役員、カスタマーサービス部長など、上級管理職が定期会合を開いて協議を行っていました。これらの企業はこのような行為が違法であることを認識しつつ、発覚を防ぐためバーやレストランなどの公衆の場や地方、海外で会合を開いたり、プリペイド式携帯電話カードを使用するなどの手立てを取っていた証拠が見られます。

このケースでは、コネ・グループのベルギー法人とルクセンブルク法人が最初に欧州委員会に情報提供を行ったため、100%の自首減免措置を受けています。ティッセンクルップに関しては、繰り返し違反者であることから同グループ関与4社ともに50%が上乗せされ、総額で4億8000万ユーロを科されました。17社合計での制裁金は約9億9200万ユーロと、EU で単独のカルテルに対する制裁金としては過去最高額となりました。このケースでは、欧州委員会は、実際にカルテルに関与したのが現地子会社だけであっても、グループ親会社にも連帯で責任を求めている。欧州委員会はこれまでの判例に基づき、グループ内で親会社が子会社の商業上の行為に対して決定的な影響力を行使している場合、両者が同じ事業体の一部を成しているとみなしており、特に100%子会社の場合では、親会社は子会社に対して決定的な影響力を行使していると自動的に仮定されています。このため、カルテルの違反行為とこれに伴う制裁金に対する法的責任は、実際にカルテルに参加した子会社だけでなく、カルテルの認められた時期に子会社の事業行為に決定的な影響を及ぼしていた親会社にもあるとみなされます。

Authored by Dr. Inoue

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About the Author

Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。