ガス絶縁開閉装置国際カルテル事件

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2007年1月24日、欧州委員会は、ガス絶縁開閉装置(Gas Insulated Switchgear/GIS)の市場でカルテルを結んでいたとして、日本企業を含む11企業グループに対し、総額約7億5000万ユーロ(1ユーロは155円)の支払いを命じました。11社はABB、アルストム、アレバ、富士電機、日立製作所、日本AEパワーシステムズ、三菱電機、シュネデール、シーメンス、東芝、VA テックでした。ガス絶縁開閉装置は、配電網における電流調節に使用される重電機で、ターンキー方式で建設される変電所の重要な設備です。本件は、関与企業の1 社であるABB が自首減免(リニエンシー)制度1を通じて通報を行ったことが摘発のきっかけとなったものです。欧州委員会はABB が提供した多数の内部資料や企業情報、抜き打ち査察で押収した資料に基づき制裁を決めたが、決定的証拠として1988年に関与企業間で交わされたカルテルの合意書2点が見つかっており、カルテルの存続期間全体にわたる証拠資料は約2万5000ページに及んでいます。EU側のカルテル関与企業は、1988年から2004年にかけて、調達入札の不正操作、価格固定、プロジェクトの受注割当、市場分割、機密情報の交換などを行っていました。受注するプロジェクトを各社間で割り当て、これに応じてプロジェクトを受注できるよう入札調整を行っており、事前に最低入札価格を合意するケースもあった。方針や戦略は管理職レベルで定期的な会合を持って決められ、プロジェクトの割当や偽造入札の準備などの実務は下位レベルで行われていました。また、連絡を取り合う場合は、企業や個人を特定できないようコード名を使用し、Eメールも暗号化して会社や自宅のほか、すぐに個人との関連が分かるようなコンピューターから受送信することは固く禁じられていたものです。こういった周到さを欧州委員会は悪質とし、違反の重大性と結びつけました。このケースで制裁金を科された日本企業5社は、実際には偽造入札や価格操作には参加しておらず、欧州では1988~2004年の当該製品納入実績もほとんどないとされています。それにもかかわらず、欧州委員会が巨額の制裁金を科したのは、同カルテルでは「日本企業は欧州での入札を手控え、欧州企業は日本市場に参入しない」という合意があったと判断したためです。日本企業が合意の上でEU市場に参入しなかったこと自体が国際的カルテルへの参加であり、本来ならばEU 市場に生じていたはずの競争の阻害に加担した日本企業の罪は重いとみなされました。カルテル制裁金の額は、当該製品のEU市場の規模や、カルテルの存続期間、参加企業の世界売上高などを踏まえて決められるが、欧州委員会は今回のカルテルを、EC条約第81 条の独占禁止規定2に対する極めて深刻な違反行為と受け取っており、これが制裁金の額に表れたものです。シーメンス(オーストリア)、アルストム、アレバの3社に対する制裁金は、主導的立場であったとして通常の制裁金5割増しとなり、また、シーメンス(ドイツ)に科された約4億ユーロの制裁金は単独企業に対する制裁金としては当時の過去最高となりました。ABB に対しても繰り返し違反者として、上述3社同様の措置が取られるところでしたが、欧州委員会への通報と情報提供を行ったことで自主減免措置が適用されて約2億1500万ユーロ全額が免除される結果となりました。日本企業については、世界売上高の10%を最高とするという欧州委員会の規定から、実際に欧州市場で販売実績がほとんどないにもかかわらず、欧州企業を上回る制裁金支払いを命じられた企業もあります。欧州委員会は執行の対象を価格カルテルの摘発に照準を合わせているといわれていますが、この事案は、市場分割カルテルで、欧州での売上実績のない場合でも欧州委員会の摘発の対象になることを改めて示したといえます。

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EU競争法上、市場分割カルテルは、EC条約81条第1項Cに該当します。欧州委員会は、伝統的に、市場分断効果の大きい市場分割カルテルは、欧州統一市場の創設を妨げるものとして厳しい態度で対応してきました。 続きを読む

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このページは、Dr. Inoueが2007年12月15日 22:49に書いたブログ記事です。

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About the Author

Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。