欧州委員会に対する協力義務とは何か?

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制裁金の免除の資格を得るには、事業者は、申請時から、委員会の行政手続き全般にわたり、誠実に、全面的に、継続的にかつ迅速に協力しなければなりません。協力義務を充足できないと免除を得ることができません。欧州委員会の規則によると、かかる協力は以下を含む。
①当該カルテルに関する全ての関連する情報及び証拠を保有するに至った場合又はこれらの情報及び証拠が利用可能になった場合に、これらを委員会に対し迅速に提供すること
②事実の認定に資する可能性のある委員会の任意の要求に迅速に応えることを継続すること
③委員会による、現職の(可能であれば退職後の)従業員及び取締役に対するインタビューを可能とすること
④当該カルテルに関する関連する情報又は証拠を毀損、改ざん又は隠匿しないこと
かつ
⑤申請をしている事実又は申請の内容につき、委員会が同意する場合を除き、委員会が異議告知書を発出する前に一切開示しないこと

協力は、リニエンシーの申請時から行政手続全般にわたり、すなわち、委員会が制裁金の決定(審決)をするまで継続します。

協力の態様としては、「誠実、全面的、継続的かつ迅速」な協力が求められ、協力の内容としては、(ⅰ)迅速な情報・証拠提供、(ⅱ)委員会の任意の要求への迅速な対応、(ⅲ)従業員及び取締役へのインタビューを可能にすること、(ⅳ)情報又は証拠の毀損等をしないこと、(ⅴ)異議告知書発出前の申請事実等の不開示です。

日本の欠格事由と比較すると、態様において迅速性を求められていること、(ⅲ)において報告の一形態としてインタビューが明示されている点、(ⅳ)でリニエンシー申請の事実及び申請内容の不開示が求められる点 で日本の協力義務より広範であるといえます。

また、これらの義務の主体は、「事業者」です。

したがって、個々の従業員の義務違反行為が直ちに義務の不遵守、すなわち欠格事由に該当することにははりません。

委員会競争総局も、委員会としては事業者の故意の行為につき捕捉する意図を明確にしています。

したがって、少なくとも、事業者が合理的に講じた情報等の保管措置の及ばないところで個々の従業員等が形式的には義務不遵守に当たる行為をしても、欠格事由には該当しないと解されています。

なお、個別の要件との関係で留意すべき点は以下に述べるとおりである。
①協力義務の「誠実」性
「誠実」性の要件は、欧州司法裁判所の判例上求められていることを告示の要件に盛り込んだものです。この要件は特に、申請者に対し、正確で、誤解を招きやすいものではなく、完全な情報を提供することを求めるものです。虚偽の報告又は資料提出をするような場合にはこの誠実性の要件に反する。
②従業員及び取締役のインタビューの拒否
カルテルに関与した事業者の従業員又は取締役については、別途加盟国の法律に基づき刑事罰が科され得るため、かかる刑事罰を理由にインタビューに応じることを拒絶することが考えられるが、このような場合に、事業者は欠格事由に該当することになるのか。この点、EUにおいては、加盟国の競争当局及びEUのネットワークにより違反に関する情報が提供されることが予定されているが、特に刑事罰を科される個人に関しては、情報の利用が制限されるなど一定のセーフガードにより個人の不利益に配慮されている ことから上記のような刑事罰を課されるおそれはインタビューを拒む正当事由とは考えられていません。したがって、事業者としては、従業員又は取締役がインタビューに応じない場合には欠格事由に該当するリスクがある点に留意が必要です。
③リニエンシー申請の事実及び申請内容の開示が例外的に許される場合
上記のとおり、リニエンシー申請の事実及び申請内容の開示は原則禁止されますが、「委員会が同意する場合」は例外的に開示が許容されます。この委員会による同意が問題になる場合としては、リニエンシー申請の事実の開示が法的に要求される可能性がある場合(例えば上場会社の証券取引法上の開示義務)や、第3国における文書開示(ディスカバリー)への対応などが想定されています。他国の競争当局にアプローチをすることは当然に認められるが、そのような場合を除いては委員会の同意を得ることが必要になります。

Authored by Dr. Inoue

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このページは、Dr. Inoueが2007年12月18日 22:44に書いたブログ記事です。

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About the Author

Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。