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通常、社内調査を進め、証拠の収集は完全には終了していないが、違反事実につき、一定の心証を得た事業者はマーカーの申請を検討します。マーカーによる申請をする場合には、会社の担当者又は代理人の弁護士が、事前に欧州委員会(担当は競争事務総局)に電話等でコンタクトを取り、免除を受けられるか否か確認します。製品や地理的範囲について情報提供しつつ、申請の有無や審査の開始の有無を探ることになります。免除が認められた事業者がおらず、また、審査も開始していないことを確認し、免除申請が認められそうであることを確認した場合には、当該事業者はマーカーの申請をします。申請に際して、事業者は、申請事業者の名称及び所在、当該カルテルの当事者、影響を受ける製品及び地理的範囲、当該カルテルの推定期間、当該カルテル行為の性質、当該カルテルに関連して過去に他の競争当局に対してなしたリニエンシーの申請及び他の競争当局への将来的な申請の可能性といった事情を申請します。これらの情報は、コーポレート・ステートメントに含む情報と類似していますが、これらの提供を求める趣旨は、①真摯な申請であることの確認、②同一事実につき優先する申請がないことの確認、③複数の加盟国に関係する事案であるか否かの確認、のためとされています。もっとも、マーカーの地位を認めるか否かは、欧州委員会の裁量によります。申請に際し、他の競争当局へのリニエンシーの申請の事実等の正当化事由が必要とされていますから、常にマーカーを取得できるとは限りません。マーカーの申請は通常、口頭でなされます。すなわち、委員会の施設内の録音機を前にして上記の事実を申請することになります。そして、コーポレート・ステートメントの場合と同様ですが、その録音については欧州委員会の施設内で録音の正確性及び反訳の正確性をチェックする機会が与えられますが、これは、米国のディスカバリー制度を念頭に、民事訴訟の原告に申請事業者が事実を自認する書面を開示する機会を排除するよう配慮されているものです。すなわち、申請時点で事業者側に書面が残らないように配慮するのみならず、書面のチェック時において委員会の施設内においてチェックが完結し、委員会の外で事業者が反訳書面につき保有している状況を排除しているのです。マーカーの地位を委員会が認めた場合には、委員会は情報及び証拠を提出する期間を指定し当該期間内に要件を満たす情報及び証拠の提出がなされた場合には、マーカーの地位を委員会が認めた時点で要件を満たす正式な申請がなされたものとみなされることになります。

Authored by Dr. Inoue

コーポレート・ステートメントは、申請事業者が自主的にカルテルに関する事実を申告するものであり、違反事実の自認といえます。したがって特に民事訴訟の原告を含む第三者に開示された又は開示が義務付けられた場合には申請事業者の被る損害は大きく、かかる状況が生じないようにリニエンシー告示においてはコーポレート・ステートメントにかかる保護が与えられています。

まず、コーポレート・ステートメントについては、口頭による申請が認められているのみならず、申請時になされる録音及び作成される録音内容の反訳につき、委員会の施設内で正確性をチェックする機会が与えられています。これは、米国のディスカバリー制度の適用を排除するための考慮である。

また、コーポレート・ステートメントについては、異議告知書の名宛人に対してのみアクセスが認められますが、閲覧のみが許され、当該名宛人がコピーをとることは認められません。もっとも、申請者がコーポレート・ステートメントの内容を開示した場合には上記の保護を受けることはできません。

さらに、異議告知書の名宛人への閲覧は、取得される情報を条約の競争ルールを適用する司法又は行政手続のために使用する目的においてのみ認められ 、加盟国の競争当局への送付が認められるのも、ネットワーク告示に規定する条件が満たされ、受領国において委員会と同等の保護が与えられる場合に限られます。

Authored by Dr. Inoue

制裁金の免除の資格を得るには、事業者は、申請時から、委員会の行政手続き全般にわたり、誠実に、全面的に、継続的にかつ迅速に協力しなければなりません。協力義務を充足できないと免除を得ることができません。欧州委員会の規則によると、かかる協力は以下を含む。
①当該カルテルに関する全ての関連する情報及び証拠を保有するに至った場合又はこれらの情報及び証拠が利用可能になった場合に、これらを委員会に対し迅速に提供すること
②事実の認定に資する可能性のある委員会の任意の要求に迅速に応えることを継続すること
③委員会による、現職の(可能であれば退職後の)従業員及び取締役に対するインタビューを可能とすること
④当該カルテルに関する関連する情報又は証拠を毀損、改ざん又は隠匿しないこと
かつ
⑤申請をしている事実又は申請の内容につき、委員会が同意する場合を除き、委員会が異議告知書を発出する前に一切開示しないこと

協力は、リニエンシーの申請時から行政手続全般にわたり、すなわち、委員会が制裁金の決定(審決)をするまで継続します。

協力の態様としては、「誠実、全面的、継続的かつ迅速」な協力が求められ、協力の内容としては、(ⅰ)迅速な情報・証拠提供、(ⅱ)委員会の任意の要求への迅速な対応、(ⅲ)従業員及び取締役へのインタビューを可能にすること、(ⅳ)情報又は証拠の毀損等をしないこと、(ⅴ)異議告知書発出前の申請事実等の不開示です。

日本の欠格事由と比較すると、態様において迅速性を求められていること、(ⅲ)において報告の一形態としてインタビューが明示されている点、(ⅳ)でリニエンシー申請の事実及び申請内容の不開示が求められる点 で日本の協力義務より広範であるといえます。

また、これらの義務の主体は、「事業者」です。

したがって、個々の従業員の義務違反行為が直ちに義務の不遵守、すなわち欠格事由に該当することにははりません。

委員会競争総局も、委員会としては事業者の故意の行為につき捕捉する意図を明確にしています。

したがって、少なくとも、事業者が合理的に講じた情報等の保管措置の及ばないところで個々の従業員等が形式的には義務不遵守に当たる行為をしても、欠格事由には該当しないと解されています。

なお、個別の要件との関係で留意すべき点は以下に述べるとおりである。
①協力義務の「誠実」性
「誠実」性の要件は、欧州司法裁判所の判例上求められていることを告示の要件に盛り込んだものです。この要件は特に、申請者に対し、正確で、誤解を招きやすいものではなく、完全な情報を提供することを求めるものです。虚偽の報告又は資料提出をするような場合にはこの誠実性の要件に反する。
②従業員及び取締役のインタビューの拒否
カルテルに関与した事業者の従業員又は取締役については、別途加盟国の法律に基づき刑事罰が科され得るため、かかる刑事罰を理由にインタビューに応じることを拒絶することが考えられるが、このような場合に、事業者は欠格事由に該当することになるのか。この点、EUにおいては、加盟国の競争当局及びEUのネットワークにより違反に関する情報が提供されることが予定されているが、特に刑事罰を科される個人に関しては、情報の利用が制限されるなど一定のセーフガードにより個人の不利益に配慮されている ことから上記のような刑事罰を課されるおそれはインタビューを拒む正当事由とは考えられていません。したがって、事業者としては、従業員又は取締役がインタビューに応じない場合には欠格事由に該当するリスクがある点に留意が必要です。
③リニエンシー申請の事実及び申請内容の開示が例外的に許される場合
上記のとおり、リニエンシー申請の事実及び申請内容の開示は原則禁止されますが、「委員会が同意する場合」は例外的に開示が許容されます。この委員会による同意が問題になる場合としては、リニエンシー申請の事実の開示が法的に要求される可能性がある場合(例えば上場会社の証券取引法上の開示義務)や、第3国における文書開示(ディスカバリー)への対応などが想定されています。他国の競争当局にアプローチをすることは当然に認められるが、そのような場合を除いては委員会の同意を得ることが必要になります。

Authored by Dr. Inoue

EU競争法を前提としたリニエンシー手続で提出されるコーポレート・ステートメントとはどのようなものをいうのでしょうか。

コーポレート・ステートメントは、各証拠の説明をなし、また内部者情報として当該カルテルへのより深い洞察を可能ならしめるものとして提出が求められており、一定の事項を含まなければなりません。そして、このコーポレート・ステートメントは申請会社による自主的な陳述であり、委員会のファイル(記録)の一部を構成し、証拠として用いられます。また、手続の箇所で後述するように、書面でも口頭いずれでも可能です。

コーポレート・ステートメントに記載されるべき事柄は、以下のとおりです。
①当該カルテル合意に関する詳細な記述(目的、活動、機能等):当該カルテルの対象となった商品又はサービス、地理的範囲、当該カルテルの影響を受ける市場規模の推定;当該カルテル合意がなされた特定の日、場所、合意の内容及び参加者、並びに証拠に関連する説明
②申請をなす法人及び当該カルテルへの他の参加事業者の所在地及び名称
③申請者の知る限りでの当該カルテルに関与している又は関与した個人の名前、地位、勤務先住所及び必要であれば自宅住所
④接触中又は接触予定のEU内外の他の競争当局に関する情報

なお、国際カルテルにおいては、例えば製造業者であれば、本国の製造業者と輸出先の国における現地の販売子会社というようにグループ会社での関与が通常ですが、上記の要件該当性に関しては、被疑会社がグループ会社を形成している場合には、グループ会社群をひとつの事業者とみなして判断されることになります。

Authored by Dr. Inoue

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