意識的並行行為

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意識的並行行為は、米国反トラスト法でも独占禁止法でも問題になる論点ですね。

企業が市場にあわせて価格を調整すると、競業企業は一般的に同様の行動をとります。欧州競争法上、全ての企業は、原則として、共同市場におけるビジネス戦略を独自の判断で決定しなければなりません。しかし、他方で、EC条約第81条は、競業企業間の価格の統一それ自体を禁止しているわけではありません。同一の行為をとることは、それ自体としてEC条約第81条第1項に違反するわけではないのです。

染料事件では、価格を統一する行為が協調行為の存在を伺わせるものであるとしても、それ自体としては競争法違反とならないとされたケースです。欧州委員会は、同時値上げの事実から、染料生産社10社が違法な協調行為をしたと判断したのです。欧州委員会は、様々な要素から制限的な慣行が存在する十分な証拠があり、生産者間の協調が考えられないとすることは非現実的であると判断しました。また、欧州委員会は、染料市場の寡占的構造から、価格競争ではなく、製品の質と顧客への技術的サービスが競争の要素であるという生産者側の主張も一蹴しました。決定の上訴手続で、裁判所はもし意識的並行行為がそれだけでは協調行為とはされないとしても、製品の性質、企業の重要性や数、生産量を考慮し、市場の通常の条件とは一致しないような条件に達するときは、重大な協調の要素とされる可能性があるとしています。

染料市場の性質を決定した後、裁判所は、価格の上昇の点について、特に、時期、価格、製品の同一性を検討し、染料市場における価格の競争上の性質は二次的であるという主張を退けました。裁判所によれば生産者は十分に市場での力があり価格の減少により、市場を拡大することができます。その上、分割された5つの共通市場は、価格も構造も異なる市場で、全ての市場をカバーする恣意的で統一的な価格を設けることは不可能でした。裁判所によれば、異なる加盟国のそれぞれの性質を考えると、異なる価格の上昇が論理的であり、時間、加盟国市場、製品の種類に関して、並行行為が偶然に行われることは考えがたいと結論付けました。

さらに、各製造者は、価格を修正したり、競争者の現在や将来の行為の影響を考慮に入れることはできますが、どのような方法にせよ、値上げについて共同の行為を決定したり、相互の態度について予見不可能性を取り除くことにより、値上げについての協調を確実に成功させるため競業企業と協力することは競争法違反です。

並行行為に関する事件で有名な事件といえばウッドパルプ事件です。そこでは裁判所は3ヶ月ごとに価格設定の事前の宣言をする制度は、市場の通常の条件に対応している限りは、協調行為に該当しないとしましたが、欧州委員会は、生産者がEUにおける価格設定の協調行為を行っていたと主張しました。しかし、1975年から1984年に並行行為があったとしても、価格設定協定の証拠がなかったにもかかわらず、欧州委員会は、直接・間接の情報交換が、価格についての市場の人工的な透明性を創設するするとし、市場の状態は並行行為を生み出すほどの厳格な寡占市場ではないとの経済分析に依拠し、協調行為が存在すると結論付けました。これに対して、裁判所は、欧州委員会の決定を取り消しています。すなわち、裁判所は、使用者に対して宣言された価格についての通知は、競業企業のとるかもしれない行動について、それぞれ企業のとるかもしれない行動について、それぞれの企業の予測不可能性を減少させる性質の行為ではなく、各企業の行動は、実際には、他の企業の態度についていかなる保証もないのであり、3ヵ月ごとの価格宣言制度は、81条第1項に反するものではないと結論付けました。

Authored by Dr. Inoue

 

 

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このページは、Dr. Inoueが2007年12月26日 23:52に書いたブログ記事です。

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Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。