EC条約第81条の最近のブログ記事

2009年4月3日、欧州委員会、VISAに対して、カード会員の国外での買い物に対して「多国間交換手数料(MIF)」を徴収しているのはEC条約81条1項に違反する疑いがあるとして、同社に異議告知書を送付しましたね。MIFはカード会員の銀行と加盟店の銀行との間の決済手数料で、実際にはカード利用者が欧州の他国で買い物をした際に加盟店に課せられるものですが、欧州委員会はこれが最終的に商品価格に上乗せされて消費者に不当な負担を強いるとともに、銀行間の競争を阻害しているとの見解を示しています。MasterCardに対するMIFについての決定で述べたように、欧州委員会は、VISAの行為についても、EC条約81条3項に該当するという反論を採用しませんでした。Reported by Dr. Inoue

2008年11月22日、Fluorsid SpA及びMinmet Coが、欧州委員会の制裁金賦課決定について欧州第一審裁判所に提起した上訴について、詳細が公開されましたね。欧州委員会は2008年7月25日、アルミフッ化物カルテルについて、合計497万ユーロの制裁金賦課決定を発令し、その後、Fluorsid SpA及びMinmet Coがが欧州第一審裁判所に上訴を提起していたものです。Fluorsid SpA及びMinmet Coの制裁金は、欧州委員会の決定によると160万ユーロでした。Reported by Dr. Inoue

EC条約第81条第3項に基づく適用免除は、制限が必要不可欠なものでなければ認められません。これは均衡の原則とよばれるもので、この条件は契約そのもののみならず、競争制限にもあてはまるものです。当事者は、協定や個々の制限が制限的協定がない場合より効果的に当該活動を実現することを証明しなければなりません。当事者は、仮定的な解決方法や代替策を想定する必要はありません。欧州委員会は、もし、他の現実的で可能な方法があることが合理的に明確であるときのみ異議を述べるというプラクティスを採用しています。協定が著しい相乗作用や補完的可能性を生み出すなら、効率性の性質自体が、契約がその実現に必要であることを推認させるといえます。契約が不可欠か否かの判断においては、効率性がより制限的でない契約や他の別個の方法によって得られるかの検討をすることが重要といえます。個々の制限については、もし、契約によって生じる効率性が、その制限がなければ得られないか、著しく減少する場合に、その制限が不可欠であると一般的に判断されます。欧州委員会は、制限が一括適用免除規則で禁止された制限であったり、ガイドラインや告示によって禁止されている場合には、不可欠の制限の判断される可能性が低いことを明言しています。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会は、2008年3月26日、ヴィザに対して、同社の多角的交換料金(MIF = multilateral interchange fees)が、制限的な取引慣行に関する欧州共同体条約の規定(第81条)を侵害するかどうかの審査手続を開始しましたね。

MIFについては、昨年、既に、マスターカードについての同種事件について欧州委員会は判断を下しており、同事件は現在欧州第一審裁判所に継続していますから、今回の審査手続開始は、ある程度予期できたものです。マスターカード事件についてですが、欧州委員会は、決定を発令したのは、2007年12月20日です。欧州委員会は「マスターカード」および「マエストロ」商標のデビットカードと消費者クレジットカードによる越境的な支払カード取引に対するマスターカードのMIFが、制限的な取引慣行に関する欧州共同体条約の規定(第81条)を侵害するとの決定を行いました。欧州委員会は、マスターカードのMIF(支払いが処理される際に小売店で支払いごとに課される料金)が、小売業者によるカード受理のコストを膨張させており、それによる効率性についても証明がないとの結論を下したのです。マスターカードには、MIFの撤回を命ずる欧州委員会の命令を遵守するため、6か月が与えられます。マスターカードが欧州委員会の命令を遵守しない場合、欧州委員会は、前事業年度における1日当たりのグローバルな売上高の3.5パーセントを、1日当たりの過料として課することができるとしました。MIFそのものが違法であるわけではないのですが、マスターカードのような開放型の支払カードシステムのMIFの場合には、それが技術的・経済的な進歩に貢献し、消費者に便益をもたらす場合にのみ、欧州競争法に適合すると結論付けました。

Reported by Dr. Inoue

独占禁止法及び反トラスト法における分析同様、EC条約第81条の分析の際にも関連市場の確定が必要になります。とりわけ、デミニマスルールの適用に際して、関連市場の確定は不可欠です。欧州委員会が2001年に発表した告示によると、企業の市場占有率から重要性の低さを分析するという手法を取っています。市場占有率を算出する前提として、関連市場を確定することが必須です。欧州委員会は、企業の市場占有率が、水平的契約で10パーセント、垂直的契約で15パーセントを超えない場合には、81条第1項の適用を免れるとしています。告示では、複数の製造者・契約者によって類似の契約が並行して締結された市場においては、市場閉鎖効果のため5パーセントの基準を設けています。告示によれば、市場の30パーセント未満が並行契約によってカバーされている場合には閉鎖効果はあまり考えられないとしています。

Authored by Dr. Inoue

情報交換、それ自体は、反競争的ではありません。それ自体が直ちに違法とはいえない点で米国反トラスト法及び独占禁止法上の考え方と同じです。

よって、競争業者と情報交換をしたからといって、ただちにEC条約第81条違反として摘発の対象になるわけではない。

しかし、競争企業がそれぞれの活動について情報を交換することは商業戦略に大変有利といえます。そのため、情報交換のうち一定のものについては、欧州競争法上も問題となりえます。問題となるのは、市場において企業の態度を調整するような協定です。個々の企業の独立した決定や、通常の競争の作用を企業間協定によって取って代わるようにするもので商業上の情報の交換は、情報が実際には業務上の秘密であり、定期的な統計を取る必要がないものであれば、EC条約第81条第1項違反に該当するので、注意が必要です。

とりわけ、クルス委員の2007年12月11日のプレスステートメントでは、2008年以降も強力にカルテル摘発を推進する方針が示されており注意が必要です。情報交換協定についても、審査の対象とされる可能性が十分にあるためです。

Authored by Dr. Inoue

 

意識的並行行為は、米国反トラスト法でも独占禁止法でも問題になる論点ですね。

企業が市場にあわせて価格を調整すると、競業企業は一般的に同様の行動をとります。欧州競争法上、全ての企業は、原則として、共同市場におけるビジネス戦略を独自の判断で決定しなければなりません。しかし、他方で、EC条約第81条は、競業企業間の価格の統一それ自体を禁止しているわけではありません。同一の行為をとることは、それ自体としてEC条約第81条第1項に違反するわけではないのです。

染料事件では、価格を統一する行為が協調行為の存在を伺わせるものであるとしても、それ自体としては競争法違反とならないとされたケースです。欧州委員会は、同時値上げの事実から、染料生産社10社が違法な協調行為をしたと判断したのです。欧州委員会は、様々な要素から制限的な慣行が存在する十分な証拠があり、生産者間の協調が考えられないとすることは非現実的であると判断しました。また、欧州委員会は、染料市場の寡占的構造から、価格競争ではなく、製品の質と顧客への技術的サービスが競争の要素であるという生産者側の主張も一蹴しました。決定の上訴手続で、裁判所はもし意識的並行行為がそれだけでは協調行為とはされないとしても、製品の性質、企業の重要性や数、生産量を考慮し、市場の通常の条件とは一致しないような条件に達するときは、重大な協調の要素とされる可能性があるとしています。

染料市場の性質を決定した後、裁判所は、価格の上昇の点について、特に、時期、価格、製品の同一性を検討し、染料市場における価格の競争上の性質は二次的であるという主張を退けました。裁判所によれば生産者は十分に市場での力があり価格の減少により、市場を拡大することができます。その上、分割された5つの共通市場は、価格も構造も異なる市場で、全ての市場をカバーする恣意的で統一的な価格を設けることは不可能でした。裁判所によれば、異なる加盟国のそれぞれの性質を考えると、異なる価格の上昇が論理的であり、時間、加盟国市場、製品の種類に関して、並行行為が偶然に行われることは考えがたいと結論付けました。

さらに、各製造者は、価格を修正したり、競争者の現在や将来の行為の影響を考慮に入れることはできますが、どのような方法にせよ、値上げについて共同の行為を決定したり、相互の態度について予見不可能性を取り除くことにより、値上げについての協調を確実に成功させるため競業企業と協力することは競争法違反です。

並行行為に関する事件で有名な事件といえばウッドパルプ事件です。そこでは裁判所は3ヶ月ごとに価格設定の事前の宣言をする制度は、市場の通常の条件に対応している限りは、協調行為に該当しないとしましたが、欧州委員会は、生産者がEUにおける価格設定の協調行為を行っていたと主張しました。しかし、1975年から1984年に並行行為があったとしても、価格設定協定の証拠がなかったにもかかわらず、欧州委員会は、直接・間接の情報交換が、価格についての市場の人工的な透明性を創設するするとし、市場の状態は並行行為を生み出すほどの厳格な寡占市場ではないとの経済分析に依拠し、協調行為が存在すると結論付けました。これに対して、裁判所は、欧州委員会の決定を取り消しています。すなわち、裁判所は、使用者に対して宣言された価格についての通知は、競業企業のとるかもしれない行動について、それぞれ企業のとるかもしれない行動について、それぞれの企業の予測不可能性を減少させる性質の行為ではなく、各企業の行動は、実際には、他の企業の態度についていかなる保証もないのであり、3ヵ月ごとの価格宣言制度は、81条第1項に反するものではないと結論付けました。

Authored by Dr. Inoue

 

 

EU条約第81条第1項の適用可能性を分析する上で、関連市場の確定は不要では在りません。デ・ミニマス・ドクトリンの適用可能性を分析する上で、関連市場の確定はその理論的前提を形成していることを看過してはいけません。関連市場の確定においては、米国における伝統的な関連製品の代替性分析の方法が取られています。なお、企業結合規制の際にはSSNIPテストが主に採用されています。欧州委員会は、1997年に81条分析に関する関連確定市場についての告示を発表しています。

Authored by Dr. Inoue

欧州競争法におけるカルテル規制を分析する上で、スタート地点は、常に、何が、違法な「協定」に該当するかで、これはシャーマン法第1条、あるいは独占禁止法第3条後段に基づきカルテル規制への該当性を分析する態度と基本的に異なることがありません。

初期にはEC条約第81条第1項上の協定とは私法上の契約を意味するという見解も見られましたが、70年代以降、私法上の契約である必要はなく、当事者の一方が意図的に他方の行動の自由を制限することで足りると判断されるようになりました。欧州第一審裁判所は、判例により、81条第1項の協定の定義は、少なくとも2当事者の意思の一致をいい、意思表現方法は重要ではないという解釈を示しています。例えば、市場である行動をとったり、そのような行動をとる意思を示したり、暗黙に承認するという単なる事実が市場での共通行動をとる企業間の協定締結と考えられるのです。このような、いわゆる、暗黙の協定が協定に該当し、81条第1項に該当するという結論には十二分に注意する必要があります。81条第1項でいう協定は、必ずしも国内法でいうところの協定や、法的に拘束力を持つものである必要はありません。裁判所と欧州委員会は、紳士協定であっても81条第1項の協定に該当するのに十分であると考えています。同様に、プロトコールも当事者間の同意を示すものとして協定と考えられます。協定が署名される必要もなく当事者の意思表現は口頭でも足ります。

第一審裁判所は、効力をもはや持たない協定でも、表向きの契約終了にも拘らず、その効力が常に継続していることで、81条第1項が適用されると述べています。また、シャーマン法第1条および独占禁止法第3条後段と同様ですが、EC条約第81条第1項も、水平的協定のみならず垂直的協定がその規制対象に含まれます。

Authored by Dr. Inoue

EU競争法上、水平的協定に対するレギュレーションを提供するのはEC条約第81条です。欧州委員会は、EC条約第83条に基づき、同第81条第1項に違反する罰則および制裁を定め、また同第81条第3項に基づく免除の運用規則を制定する権限を有しています。EC条約第81条の規定は以下のとおりで、欧州における水平的協定に対する規制を分析する上で、一読の必要があります。
『1 構成国間の取引に影響を及ぼす恐れがあり、かつ共同市場内の自由競争の阻害、制限または歪曲することを目的とするかまたはそうした結果を生ずる、特に次のものを含む企業間の、協定、事業者団体の決定、および協調的行為は共同市場と両立せず、禁止される。
(a) 購入価格、販売価格、その他の取引条件を直接または間接に設定すること
(b) 生産、販路、技術開発または投資を制限または統制すること
(c) 市場または供給源を分割すること
(d) 取引の相手方に対して、同等の給付に異なる条件を適用し、その結果、当該相手方を競争上不利な立場におくこと
(e) 契約の性質上または商慣習上、契約の対象と関連のない付加的義務を相手方が受諾することを条件として契約を締結すること
2 本条の規定により禁止される協定または決定は、当然に無効である。
3 ただし、第1項の規定は、次のいずれかに該当する場合には適用できないことを宣言することができる。
(a) 事業者間の協定またはこれと同種のもの
(b) 事業者団体が行う決定またはこれと同種のもの
(c) 協調的行為またはこれと同種のもの
であって、製品の生産もしくは流通を改善しまたは技術的もしくは経済的進歩を促進することに寄与し、かつ、その結果生ずる利益が利用者に公正に与えられること。ただし次のものを除く。
(i) 前記の目的の達成に不可欠でない制限を関係事業者に課すもの
(ii) これらの事業者に、当該製品の主要部分に関し、競争を排除する可能性を与えるもの』

Authored by Dr. Inoue

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