なお、いわゆる標準必須特許に関するホールドアップ問題について重要なのが、ランバス事件です。ランバス社は、パソコン等に使用されているDRAM(dynamic
random access memory)と呼ばれるコンピューターチップの製造メーカーであり、DRAMの業界標準設定団体であるJEDEC(Joint
Electron Device Engineering Council)のメンバーでした。JEDECは標準設定にあたっての方針として、可能な限り特許技術が標準設定に組み込まれないようにし、仮に組み込まれた場合でも、特許使用料が無料か、公平に利用できるようにするとしていたものです。ランバス社は、自社の技術について積極的に特許権を取得しようとしていたにもかかわらず、これを秘してJEDECにおけるDRAMの業界標準設定のための議論及び活動に4年以上も参加していました。最終的には、JEDECが設定したDRAMの業界標準としてランバス社が特許を有するに至った技術が組み込まれました。なお、JEDECは、標準設定のための議論及び活動に参加していたメンバー各社に対して、特許技術についての情報開示が重要であることを伝えた上で、積極的に、特許技術についての情報を開示するよう求めていました。それにもかかわらずランバス社は、業界において優位な地位を確立するために、JEDECに対して、自社の特許情報を故意に開示しなかったものです。ランバス社の行為の結果、ランバス社の特許技術はJEDECの設定した業界標準設定に組み込まれ、標準設定後、ランバス社は、JEDECの他のメンバーに対して自社の特許技術を侵害したことを理由に特許侵害訴訟を提起し、当該訴訟の過程で、自社の特許技術がJEDECの設定した標準に組み込まれるに至った経緯について明らかにしました。JEDECが定めたDRAMの標準設定にかかわるランバス社の一連の行為は、DRAMに関係する関連市場における独占的な地位形成に向けられたものであり、シャーマン法第2条の排除行為として同法及び連邦取引委員会法第5条前段に違反しないかが問題となった。また、その一環として、ランバス社の証拠隠滅行為が問題となりました。