|
HOME>企業結合に関わる問題>届出・手続に関わる問題>ハートスコットロディノ法
米国企業の買収が一定の要件に該当する場合には、連邦取引委員会及び米国司法省に対して事前の通知を提出する必要がある、場合によってはCFIUSへの届出も必要になる場合がある!
企業結合に関わる問題 |
ハートスコットロディノ法に基づく届出 |
米国企業を買収する場合、クレイトン法第7a条を構成するハートスコットロディノ法(Hart-Scott-Rodino
Antitrust Improvement Act of 1976)に基づく届出が必要になります。
同法によると、企業買収やジョイントベンチャーのうち一定の要件に該当するものについては事前の通知を提出する必要があります。通知の提出の後、待機期間の進行が開始し、米国司法省及び連邦取引委員会は、@調査活動を開始しない、A限定調査を開始する、ないしはB調査活動を開始する――のいずれかの対応を選択することになります。待機期間中、当事者は、調査活動等を行っている政府機関の許可を得なければ、取引を完成させることができません。
ハートスコット法の届出基準は、Size of Transaction TestとSize of Person Testの組合わせによります。Size of Transaction Testのファーストテストは、2億ドル(景気変動により毎年修正される)を超える議決権付株式、非法人組織の利益(non-corporate equity interest)、及び/又は資産を取得する場合で、上記に該当する場合は、Seize of Person Testを分析するまでもなく、事前届出を提出する必要があることになります。
Size of Transaction Testのセカンドテストは、2億ドル(景気変動により毎年修正される)以下5000万ドル(景気変動により毎年修正される)以上の議決権付株式、非法人組織の利益(non-corporate equity interest)、及び/又は資産を取得する場合で、一方当事者が1億ドル以上(景気変動により毎年修正される)の資産又は売上を有し、他方当事者が1000万ドル以上(景気変動により毎年修正される)の資産又は売上を有するか否かというもので、セカンドテストを満たす場合には、Size of Person Testを分析する必要があります。
Size of Person Testの適用にはultimate Parent Entity(50パーセント以上の議決権を有する事業体)を特定した上で、以下のテストを適用する。すなわち、一方当事者が1億ドル以上(景気変動により毎年修正される)の資産又は売上を有し、他方当事者が1000万ドル以上(景気変動により毎年修正される)の資産又は売上を有するか否かが、そのテストです。資産及び売上は、通常の業務過程で作成する直近の財務諸表の依拠することができますが、他方で、15ヶ月以上前に作成された財務諸表に依拠することはできません。
企図する企業結合等が上記に掲げた基準に該当する場合には、米国司法省及び連邦取引委員会に対する事前の通知が必要です。
企業結合等の当事者は、通知後30日間(現金株式公開買付けの場合は15日間)は取引を完成させることなく待機すべき義務を負います。追加資料の提出を求められることも、待機期間の延長が求められることも、いずれもあり得ます。追加資料の提出要請には速やかに対応する必要です。
|
CFIUSに対する届出 |
米国においては、外資による米国内への投資について、対米外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the
United States、略して CFIUS)によって、国家安全保障上の観点からの審査が行われています。日本製鉄によるUSスチールの買収で注目を集めた制度です。CFIUSによる審査制度は従前から存在していましたが、近年の中国による投資の増大およびそれによる技術流出への懸念等を背景に、2018年に外国投資リスク審査現代化法(Foreign
Investment Risk Review Modernization Act: FIRRMA)が成立し、CFIUSの権限が強化されました。これにより、CFIUSの審査対象となる投資範囲の拡大や手続の変更が行われ、その結果、制度はより複雑なものとなりました。
審査対象
CFIUSの審査対象となる取引には、大別して、@外国人が米国事業を支配することとなる投資(対象支配取引)、A重要技術等を扱う米国事業への一定の投資(対象投資)、およびB一定の不動産への投資(対象不動産取引)の3類型があります。なお、審査対象に含まれる取引であっても、すべての取引が必ず審査を受けるわけではなく、当事者から届出がなされた取引およびCFIUSが独自に審査が必要と判断した取引のみが実際に審査を受けることになります。
CFIUSへの届出が義務づけられているのは、@外国政府が関与する一定の取引およびA一定の重要技術等を扱う米国事業への投資といった、米国の国家安全保障との関係で懸念の大きい取引に限定されています。もっとも、届出義務が生じない場合でも、取引の当事者は、CFIUSによって国家安全保障上の何らかの懸念が示される可能性が否定できないと思われる取引について、事後的な審査およびそれに基づく取引に影響ある判断のリスクを回避するために、任意に届出を提出し、取引前にCFIUSの承認を得ておく場合があります。
事前申請(通知と申告)
取引の当事者は、CFIUSに対し所定の届出を行うことで、取引に係る審査の開始を求めることができます。届出には義務的に行われるものと、当事者が任意に行うものとがあります。届出の方法としては、以下で説明する、正式な審査を求める手続である「通知(notice)」と簡易の手続である「申告(declaration)」の2種類の方法があり、当事者は、届出が義務か否かにかかわらず、いずれの方法をとることも可能です。届出の方法によって手続やCFIUSの対応に違いがあるため、その違いを踏まえて、当該取引との関係でいずれの方法が適切かを検討することになります。
通知は、CFIUSに対し正式な審査の開始を求める手続です(50 U.S.C.§4565(b)(1)(C))。通知がCFIUSに受理(accept)された後、(a)一次的な「審査(national
security review)」(通知が受理された日から45日間)、(b)一次審査の段階で国家安全保障上の懸念が払拭されない場合に実施される二次的な「調査(national
security investigation)」(調査の開始日から45日間を原則とするが、特別な状況がある場合には15日間の延長が可能)、および(c)CFIUSによる審査の結果、取引が大領領に報告された場合に行われる大統領による決定(15日以内)の流れで実施されます(50
U.S.C.§§4565(b)(1), (b)(2), (d))。これらの正式なプロセスに加え、CFIUSによる通知のドラフトのチェックが行われることが一般的です。すなわち、当事者は、正式な通知を提出する前に通知のドラフトをCFIUSに提示し、CFIUSによる確認およびコメントを経て、必要に応じて修正した後に正式な通知を提出します。なお、ドラフトに対するコメントおよび正式な通知を受理するまでの期間については、通知上に「当該取引が審査対象取引である」と明記されている場合においては、CFIUSは10営業日以内にドラフトまた正式な通知に対しコメントを付すか、正式な通知を受理するかを判断するとされています(31
C.F.R.§§800.501(i)、802.501(i))。
一次審査の段階で「国家安全保障上のリスクがない」と判断されれば、その時点で審査は終了(すなわち、取引を承認)しますが、当該リスクに関する懸念が払拭されない場合等の一定の取引については、二次審査へ進むこととなります。審査期間中、CFIUSは当事者に対し質問や追加の情報提供の要請を行うことがありますが、この場合、当事者は原則として3営業日以内にこれに回答しなければなりません。また、当該審査の期間中、CFIUSと当事者の間で、後述する国家安全保障上のリスクに対応するための軽減措置に係る交渉も行われます。なお、CFIUSは、審査期間中、国家安全保障上のリスクのある取引について、取引を一時的に停止する権限を有します。
CFIUSは、二次審査の完了または期間の終了後、大領領に報告を行うか、あるいは、大統領に報告せずに審査を終了するか(すなわち、取引を承認するか)を判断します。CFIUSは、@大統領に対し取引の中止もしくは禁止の決定を勧告する場合、A大統領に対し取引の中止もしくは禁止の決定を勧告すべきか否かの判断に至らなかった場合、またはB大統領に対し取引に関する判断を行うことを求める場合に、当該取引を大統領に報告します(31
C.F.R.§§800.508(b), 802.508(b))。当該報告を受けて、大統領は15日以内にその取引に関する決定を行います。
他方で、申告は、通知の代わりに行うことができる手続であり、通知よりも簡易の書式で行われ、また、当事者は、CFIUSが申告を受領した日から30日以内にCFIUSから回答を受けることができます(50 U.S.C. §4565(b)(1)(C)(v))。ただし、通知とは異なり、CFIUSが申告に対して行うことができる回答は以下の四つに限定されています(50 U.S.C. §4565(b)(1)(C)(v)(III); 31 C.F.R.§§800.407, 802.405)。すなわち、@「当該取引が国家安全保障に関わる検討事項を生じさせうる」と信じる理由がある場合、当事者に対し通知を提出することを要求する、A当事者に対し、当該申告に基づいて当該取引に関する措置を完了することができない旨、および、取引に関するすべての措置を完了したことの通知(すなわち、取引の承認)を得るために当事者は通知を提出することができる旨を伝える(すなわち、「取引に対して承認も通知の要請もしない」という回答)、B当事者からの通知を待たず、取引に対する正式な審査(上記の通知に基づく審査)を一方的に開始する、C当事者に対し、取引に関するすべての措置が完了したこと(すなわち、取引の承認)を伝えるの4種類です。申告については、通知のようにCFIUSが事前にドラフトのレビューを行うことはないとされています。また、通知と同様に、審査期間中にCFIUSから当事者に対し質問や追加の情報提供の要請がなされる場合がありますが、当事者は原則として2営業日以内にこれに回答しなければなりません。
実体審査について
CFIUSは、審査プロセスにおいて、対象となる取引による米国の国家安全保障への影響について検討します。取引を承認するか否かについての基準となるものは、あくまで「当該取引が米国の国家安全保障を損なうおそれがあるか」であり、それ以上の具体的な下位基準は示されておらず、また、「国家安全保障」の意義についても定義はされていません。もっとも、以下で説明するとおり、法令において審査の際に考慮されるべき要素が列挙されており、これに加え、近時の大統領令(Executive
Order 14083)により、CFIUSが重点的に考慮すべき項目として、一部の要素の精緻化および要素の追加が行われました。そのため、CFIUSは審査にあたりこれらの要素を考慮することが求められます。また、CFIUSによる国家安全保障上のリスク分析の手法については、2008年に財務省が公表したガイダンスにおいて示されています。これによると、CFIUSは、まず、取引の審査にあたり、法令上の考慮要素を含めた、審査対象となる取引に関連するすべての国家安全保障上の考慮要素を特定し、これらに照らして国家安全保障に影響を与えうる事実や状況について特定します。そのうえで、国家安全保障上のリスク分析を行うにあたっては、当該外国人が搾取するまたは損害を与える能力または意図をもっているか(脅威(threat)に関する分析)および米国の事業の性質、またはシステム、事業体、もしくは構造における弱点もしくは欠点との関係により、米国の国家安全保障が損なわれやすいかどうか(脆弱性(vulnerability)に関する分析)の検討を行うとされています。そして、この脅威と脆弱性の相互関係により米国の国家安全保障に与える潜在的な結果が、国家安全保障上のリスクであるとしています。また、このようなリスク分析は、取引の当事者から提供された情報、公開情報、政府が保有する情報に基づいて行われるとしています。
CFIUSおよび大統領が審査において考慮すべき要素は法令において列挙されています。法令上考慮すべきとされる要素は、以下のとおりです(50 U.S.C. §4565(f))。
予測される国防要件に必要とされる国内生産
人材、製品、技術、材料、ならびにその他の供給品およびサービスの利用可能性を含む、国防要件を満たすための国内産業の能力および生産力
国家安全保障上の要件を満たすために必要な米国の能力および生産力に影響を及ぼす、外国人による国内産業および商業活動の統制
当該取引が、テロ支援、ミサイル・生物兵器等の拡散、潜在的な地域的軍事的脅威が懸念される国として認定された国への軍事品、装備、または技術の販売に及ぼす潜在的影響
当該取引が、米国の国家安全保障に影響がある分野における米国の国際的な技術的リーダーシップに及ぼす潜在的な影響
主要なエネルギー資産を含む米国の重要インフラに及ぼす潜在的な国家安全保障関連の影響
米国の重要技術に及ぼす潜在的な国家安全保障関連の影響
審査対象取引が外国政府支配取引(foreign government-controlled transaction)であるかどうか
特に外国政府支配取引に関して、@当該外国の条約および多国間供給指針を含む核不拡散管理体制に対する遵守、A当該外国と米国の関係、特にテロ対策への協力の実績、およびB輸出管理法および規制の分析を含む、軍事用途の技術の移転または転用の可能性に係る現在の評価の審査
米国のエネルギー源およびその他の重要な資源・材料の必要性に係る長期的な予測
大統領またはCFIUSが、一般的にまたは特定の審査や調査に関連して適切と判断するその他の要因 |
|
|
|