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HOME企業結合に関わる問題実体審査に関わる問題市場占有率50%と合併

市場占有率が50%を超えても、企業結合が認められるケースもあります!

企業結合に関わる問題
企業結合が認められるか否かは、企業結合により、「競争を実質的に制限することとなる」か否かにより判断されます。

そのため、企業結合後の市場占有率が50%を超えたとしても、「競争を実質的に制限することと」ならない場合であれば、企業結合は認められます。

例えば、三井化学と武田薬品工業のウレタン事業の統合事案が好例として挙げられます。

両社は、共同出資会社を設立し、両社のウレタン事業を統合することを企図していました。また、当該事業統合では、共同出資会社の営業開始5年後には、武田薬品工業の出資分をすべて三井化学に譲渡することが予定されていました。本件統合により、当事会社のウレタンの販売シェアは60%弱となる上、上位三社の累積集中度が約90%となり、生産能力シェアは80%となる見込みでした。販売シェアが10%を超える競争者が2社存在するが、その国内市場への供給余力はすくない状態で、輸入については実績がほとんどありませんでした。

当事会社から問題解消措置として、国内市場の10数%に相当する7000トンのウレタン事業について2年以内に長期的生産受委託契約を締結することにより、コストベースでの取引権を競争者に提供する、当事会社が保有する港湾地区のタンクをユーザー等の希望に応じ提供する旨の申出がなされた。

公正取引委員会は、このような問題解消措置が講じられれば、競争者の供給余力を増加させることにより、当事会社に対する競争力が強化されること、輸入が容易となることの理由で、本件統合により競争が実質的に制限されることとはならないと判断しました。

なお、日本の企業結合規制は、伝統的に、市場構造規制を重視し、概ね1998年頃までは、市場集中度の計測により、首位企業の市場シェア25%又は30%、上位三社の市場シェアの合計が70%の場合には、実質的競争制限を推定するという運用を行い、当該推定を覆すに足りる事情については重視をしないという運用をしてきました。三井化学と武田薬品工業のウレタン事業の統合事例は、日本の企業結合規制において、極端な市場構造規制は採用されていないことを示す好例といえます。同じく、市場構造を重視するフライブルク学派の競争政策を採用しながら、参入可能性などを積極的に評価し、当事者の合計の市場シェアが80%を超える事例でも、企業結合を認めてきた欧州委員会の運用とは異なるといえます。好例はAlcatel事件です。Alcatel及びTelattraは、スペインにおいて、通信オペレーターであるテレフォニカに大半の通信機器を納入しており、テレフォニカはAlcatel及びTelettraの少数株主という関係にありました。両者の合併により有線向け通信機器市場の合計市場占有率は81%、無線向け通信機器市場の市場占有率は83%になることが見込まれていました。通信機器市場には、AT&Tの子会社のエリクソン、シーメンス、カナダのノーザン・テレコム、日本の富士通、NECが競争者であったが、日本、ドイツ、カナダの事業者は、スペインの技術標準が自国の技術標準と異なっていたため参入は困難でした。また、連合外の国にとっては、連合において加盟国毎に技術標準が異なること自体が参入障壁でしたところが、欧州連合は、1990年頃、技術標準の調和と調達ルールの統一化を進めており、技術標準の相違による参入障壁は5年以内に撤廃される見込みでした欧州委員会は以下のように指摘して合併を容認しました。
・有線向け通信機器市場と無線向け通信機器市場は消費者の同一性がないので異なる製品市場を構成する
・技術標準の特殊性から、スペインは他の加盟国とは独立した1の関連市場を構成する
・通信機器メーカーと通信オペレーターは垂直関係にある。通信オペレーターと特定の通信機器メーカーとの間の資本関係は、他の通信機器メーカーとの関係で、調達に不利に作用する可能性がある
・無線向け通信機器市場は当事会社のシェアが拮抗しているが、合併によりこれが消滅する
・両社が合併をしても、AT&Tは直ちに有線向け通信機器の生産を増強することができ、また、政府調達の新指針が導入されれば、シーメンスのような連合市場内の有力事業者にとって参入障壁がなくなるし、日本の富士通及びNECの参入も容易となり、両社の市場における優位性は失われる
・資本関係については、Alcatelはテレフォニカが保有するAlcatel及びTelettraの株式を譲り受ける旨表明し、テレフォニカもこれを売却することを確約しており、テレフォニカの調達は多様化する可能性が高い
欧州委員会の上記のような判断は、市場構造を重視しつつも、競争のパフォーマンスという成果をも考慮するフライブルク学派を前提とすればこそでしょうが、競争政策や哲学の違いにより、分析の帰結が異なり得ることを示す好例といえます。

市場構造から推認される競争阻害性を緩和する要因として、参入障壁があります。米国反トラスト法、EU競争法、いずれにおいても、市場支配力やマーケットパワーは、市場占有率だけではなく、参入障壁の有無との相関関係で決まると分析されており、市場構造から推認される競争阻害効果やその発生可能性が現実化するかどうかも参入障壁そして新規参入の可能性との相関関係で決まると分析されるのですが、参入障壁論については、シカゴ学派とフライブルク学派で差異があります。

シカゴ学派では、参入障壁について、生産手段である原材料が入手可能であることを条件として、新規参入者が既存業者よりも高いコストを負担しなければならないような状態と理解し、参入期間、既存業者にコストの差異を生じせしめる生産手段の保有の有無(技術・知識へのアクセスも含む)、規模の利益、サンクコスト、政府規制を参入障壁と捉えます。他方で、フライブルク学派では、参入障壁を広く捉え、政府規制、市場の特徴に関連する要因(規模の経済がどの程度働くか、経営にどれだけの投資が必要か、サンクコストはどの程度か、市況の安定性、有力企業により商品の差別化が行われているか、機会コストが大きいものか)、支配的企業との競争上のハンデ(期間設備・ネットワークへのアクセス、必須生産手段へのアクセス、販売経路へのアクセス、知的所有権へのアクセス、資本へのアクセス、技術への優位性)について参入障壁と捉えます。

シカゴ学派では、技術の優位性、資本へのアクセス、規模の経済、製品差別化、知的所有権、機会コストなどは参入障壁と捉えず、技術の進歩や需要の変化で克服される自然障壁と捉えます。シカゴ学派では、参入時に既存業者が負担していない巨額の算入コストを要し、コストを撤退時に回収できず、サンクコストが生じる場合のみ例外的に参入障壁を認めると指摘されます。自由市場が確保される限り、資本の流動性は高く、参入時に投資されたコストの全ては退出時に売却して回収できることになるので、シカゴ学派を理論的に詰めると参入又は退出時のコストによって参入障壁が認定される事案は殆どないと指摘されている点に留意が必要です。さすがにここまでシカゴ学派を徹底した裁判所の判断は、今日では見受けられませんし、ネオ・ブランダイス学派でもこのような極端な結論は採用されていません。
 
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