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競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態を言います!
企業結合に関わる問題 |
上記は東宝・新東宝事件東京高裁判決(東京高裁昭和28年12月7日判決・高民集6貫13号868頁)の定義です。講学上はこれが基本的な定義です。これを踏まえましょう。
合併の場合における競争の実質的制限は、現実に行われている競争を制限する目的で行うカルテル等の場合とは、競争の概念が異なることをまず理解する必要があります。
合併における競争の実質的制限の立証は、目的や行為概念を含みませんから、純粋に市場構造面から判断することになります。市場構造面からみた競争とは、特定の市場に2以上の競争者が存在して、顧客獲得について互いに牽制し、牽制される関係にある状態を意味します。競争の確信はライバリーにあるといわれますが、そういったライバルのある状態において事業活動を行うことが競争です。相互に牽制作用が有効に働いている市場においては、いずれの競争者も恣意的な影響力を持つことができません。
言い換えれば市場支配力とは、市場において有効な牽引力ある競争者が失われている状態であるといえます。八幡・富士製鉄合併事件審決の中で、「有効な牽制力ある競争者」という表現が使われていますが、その実体的な意味については、何も触れられていません。同事件の審判において、審査官は、有効な牽制力ある競争者の意義について、「特定企業等が市場支配力を持ちえないとするためには、他の競争者が、これらの者に対する関係において、少なくとも、@独立した競争者であること、A対等に競争できる競争者であること、Bその競争力が全面的なものであること、Cその牽制力が実効性のあるものであることが必要である」という意見を述べています。ここでは、単に競争者がいるということだけでは有効な牽制力ある競争者が存在することにならないとされており、牽制力と有効な牽制力とを明確に区別しています。
市場支配力が形成された市場においては、市場支配的地位にある特定の企業は、他の競争者を気にしないで、ある程度自由に価格を引き上げることができる状態になります。他の競争者によって、相当の顧客を奪われ、販路を失うかもしれないという懸念があれば、恣意的な価格引上げはできません。そこで意味を持つのが、各企業の市場占有率です。特定企業の市場占有率が極めて高いか又はこれに対する他の競争者との間に著しい格差があるときは、競争者の牽制力は有効なものとはいえません。
市場支配力の状態について、市場支配的地位にある特定企業の側だけではなく、特定の企業に対する他の競争者が置かれた状態について説明しているのが、東宝・新東宝事件判決です。他の競争者の市場構造がどうなるかは、直接に立証する必要はないと考えられますが、当事者以外にかなりの市場占有率を有する競争者がいる場合には、その存在を無視するわけにはいかず、少なくとも市場支配力が形成されていないという抗弁を打ち消すだけの説明が必要です。競争者にとって顧客獲得や販路拡大の努力により利益を確保する可能性が保証されていること、あるいはそのように作用する条件が存在することが、有効な牽制力として評価できるかどうかがポイントになります。他の競争者が自らの自由な選択によって価格、品質、数量等を決定して事業活動を行い、これによって十分な利潤をおさめその存在を維持するということはもはや望み得ないという状況におかれる場合は、市場支配力が形成されているとみなされます。
また、取引先との関係から市場支配力の存否を判断するという考え方は審決の中には含まれていませんが、取引先が特定企業による恣意的な価格等の取引条件から免れているといえるためには、特定企業等に変わりえる供給先を容易に見出しえる機会が保証されていることが必要です。その可能性についての基本要素は、代替供給者の数、質、競争者の供給能力です。
これに対して、米国反トラスト法の場合、基本法令はクレイトン法7条で、同条文中の「may be substantially lessen competition
or to tend to create a monopoly」という文言をどう解釈するかで連邦最高裁判所の判例や合併ガイドラインの構成にも変遷があります。そのような前提ではあるのですが、最も基礎的な判例としては、1962年のBrown
Shoe Co., Inc. v. United States, 370 U.S. 294 (1962)です。同事件は重要な論点を多く含む重要判例ですが、クレイトン法7条の上記文言について、これは、競争が減少する恐れがあるとの兆候の萌芽を指すと指摘し、シャーマン法における立証水準よりも低い水準で足りるとしました。これは、いわゆる萌芽理論(incipiency
doctrine)と呼ばれる考え方で、1950年のCeller Kefauver Actによりクレイトン法7条が改正され、同条の適用範囲が、資産の取得及び合併に拡大された時期に採用された理論です。2023年12月18日に改正された最新版の合併ガイドラインは、
・市場を画定した後に、HHIにより関連市場の寡占度合いを算出し
・そのような市場で単独行為や協調行為が発生する可能性を分析し
・その上で、参入分析、経済効率性、破綻事業であるか
という分析過程を経て分析することが明らかにされています。
なお、同事件では、垂直的企業結合の差異の競争阻害効果について、従前取引関係にあるものが市場から閉め出される効果(市場閉鎖効果といいます)を中心に判断し、そのため1960年代には、閉鎖効果生じる市場が全体のわずか10%でも合併を無効とする判断がなされていました。この立場は、シカゴ学派から厳しい批判を受け、垂直的企業結合は経済効率の達成という反トラスト法の根本目的に叶うとして、1970から1980年代には、垂直的企業結合が容認される判断が相次ぎました。2023年12月18日に改正された改正版企業結合ガイドラインでも数値基準や違法性推定原則の採用は見送られており、以下の視点から分析されるという
定性的分析手法を採用しました。
・競合他社を排除する能力とインセンティブを有しているかどうか
・反競争的効果を推認するために業界要因と市場構造に着目する
その上で、代替品、参入障壁や投入品の市場における重要性、市場構造、垂直的企業結合の傾向等について考慮するとしました。
なお、2023年12月18日付け改訂版企業結合ガイドラインでは、当事会社の市場占有率が50%を超える場合に、独占力が推認されるとしている点も重要な指摘です。
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