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HOME企業結合に関わる問題実体審査に関わる問題市場閉鎖効果

下流市場における競争者が部品の購入先を失うことで競争から排除される可能性が高まるという意味での市場閉鎖効果のことです!

企業結合に関わる問題
このような効果が問題となった垂直的合併についての審査事案が、日本精工と天辻鋼球の合併審査事案です。

天辻鋼球は、鋼球メーカーであり、他方、日本精工は玉軸受、リニアガイド、ボールネジメーカーであり、天辻鋼球が上流市場に位置し、他方で日本精工は下流市場に位置していました。天辻鋼球は50%のシェアを有していた上、参入障壁が形成されていた。そのため、両社が合併すると、下流市場の競争者が上流市場から製品を購入することができなくなり、市場の閉鎖効果が発生するのではないかが問題となったのですが、公正取引委員会は、以下の点を重視して、本件合併を認めました。

すなわち、『鋼球の生産コストの削減のためには一定数量以上の販売量を確保することが必要であるが、供給拒否は大幅な販売量減少を意味することから、日本精工以外の軸受メーカーへの鋼球の供給を拒否しても、鋼球を内製している軸受メーカーは内製比率を引き上げることができ、内製していないメーカーも他の鋼球メーカーに取引を切り替えることが可能であること』がその事実です。このような事実を重視して、公正取引委員会は、市場の閉鎖効果が発生する可能性にもかかわらず、両社の合併を認めました。

市場閉鎖効果について分析したのが、EU競争法の事例ですが、GEとHoneywellの合併事件です。同事件では、2001年2月5日、航空機エンジン、金融、電力システムほかの事業を営むGEと航空電子機器、電力システム市場等において有力事業者であるHoneywell(「HON」)が合併する届出を欧州委員会に提出しました。欧州委員会は、GEが大型商用飛行機用エンジン市場及び大型リージョナル飛行機市場において、支配的地位を有しており、本件合併はそれらの市場においてGEの支配的地位を強化することとなること、HONは既に法人用飛行機エンジン市場、航空電子機器市場、非航空電子機器市場、エンジンスターター市場、及び小型海洋ガスタービン市場において有力な事業者であり、本件合併は、HONのこれらの市場における支配的地位を取得することとなることを理由として本件合併を禁止しました。

GEの関連会社であるGEキャピタルはGEの総資産の80%弱を運用する世界最大の金融会社であり、GEキャピタルの金融力は、以下の点において、本件合併による支配的地位の強化に資すると認められるとされました。すなわち、競争者より大きなリスクを負担し、将来に製造開発能力を危うくすることなく、将来開発の失敗を吸収することができること、最初のエンジン販売時に大幅な割引ができ、競争者に対して、エンジン事業に投資回収期間を長くさせ、競争者が外部金融にかえるために資金供給コストを引き上げさせること、機体メーカーに対して、競争者がまねできない直接の、かつ、大規模な金融支援を行うことができること、アフターマーケット市場において多額の投資ができること、経営上の重大決定について資金面での不確実性が排除できることです。

また、航空機購入・リース業を営むGECASは航空機調達市場において10%のシェアを有する最大の調達先であるところ、GECASは高級機の購入においてGE製造のエンジンのみを選択するという政策を採用しており、そのため、航空機のエンジン選択の過程でGEの競争者を排除する能力を有するとされました。また、GECASは新機種の開発段階から一度に大量に注文を出す顧客として飛行機製造会社のエンジン選択に影響力を及ぼすことができ、これを通じて、航空会社のエンジンをGEに標準化することができるとされました。

すなわち、欧州委員会は、GEキャピタルの金融力とGECASの購入者としての力をてことして、合併により影響を受ける多くの市場においてGEの支配的地位を維持・強化することができ、HONの航空電子部品及び非航空電子機器とGE製のエンジンの抱き合わせ販売を行うことで、市場閉鎖効果を発生させるとしました。なお、抱き合わせには、GEの製品・サービスとHONの製品を抱き合わせることでHON製品の選択を促進させる、内部補助によりHON製品の購入を促進するよう割引価格を設定する、新製品開発段階で、他のメーカーとの互換性をなくし、GEのエコシステム内でのみ、製品が有効に機能するという方法があると指摘しました。本件で、欧州委員会は、低価格エンジンに航空電子部品及び非航空電子部品のシステムを高額で抱き合わせ、エンジン市場から航空部品及び非航空電子部品のシステムについて内部補助を行うことでレバレッジを行い、GECASの製作を通じて航空機体市場のGEのシェアを高めることができるとしました。その結果、GEとHONは、エンジン及び航空電子部品及び非航空電子部品市場において収入を増加させ、他方で、ライバルのこの分野での収入を減少させ、将来における投資及び競争力を減少させることができると認定しました。

上記に対して、米国司法省は以下のように指摘して、欧州委員会の決定を非難しました。
・大型商用エンジン市場は入札市場であり、GE、ロールスロイス、Pratt & Whitneyの3社が有力事業者であるところ、GEが顧客の選択を制限することができるとは考えられない
・合併企業が低い価格をつけて隣接市場のシェアを拡大し、この市場において支配的地位を取得することがあり得るとしても、短期的には消費者にとって価格が低下するという恩恵を受けることは確実かつ直ちに発生するのに対して、競争阻害効果が発生するかどうか確実ではない。消費者は、合併により低価格で良質の製品を購買する機会に恵まれ直接的な利益を享受し、ライバルに低い価格及び製品の改良を促すという間接的な競争促進効果をもたらす
・GECASの航空機調達市場でのシェアは僅かに10%であり、市場閉鎖効果を発生させることはできない

これに対して、欧州委員会は以下のように述べて反論を展開しました。
・短期的な価格低下により、短期の厚生を上昇させるものの合併企業の生産・流通コストの持続的な削減に結びつかず、長期的には消費者を阻害する
・合併企業の価格設定行動についての約束が必須であるところ、合併企業はこれを拒否したこと

本件も、米国と欧州の競争政策の差異を反映したものとして先例研究に値する事例といえると思います。
 
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