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HOME企業結合に関わる問題実体審査に関わる問題市場占有率50%かつ不振事業と合併

市場占有率が50%を超えても、不振事業である場合には、企業結合が認められるケースもあります!

企業結合に関わる問題
企業結合が認められるか否かは、企業結合により、「競争を実質的に制限することとなる」か否かにより判断されます。

そのため、企業結合後の市場占有率が50%を超えたとしても、「競争を実質的に制限することと」ならない場合であれば、企業結合は認められます。

例えば、日野自動車及びいすづ自動車のバス製造事業の統合が例として挙げることができます。

本件では、日野自動車といすづ自動車の統合により合弁会社のバス製造事業における市場占有率は50%で第1位となり、上位三社の累積シェアは100%となるものの、本件では、販売事業を統合しないため、販売事業では日野自動車が2位で、市場占有率は30%、いすづ自動車が3位で、市場占有率は20%でした。

本件で、公正取引委員会は、販売事業が独立して行われること、取引先であるバス事業者が価格交渉力を有していること、バスの販売価格は下落傾向にあり、本件統合によても価格下落傾向から、一転して価格を上昇させる能力を取得するとは認められないと判断し、統合を容認しています。

EU競争法の事例ですが、この分野の重要事例としてBoeing/McDonnell Douglas事件があります。ボーイングは世界のジェット機市場で65%のシェアを占め、競争者は、マクドネル・ダグラス(市場シェア75%)、エアバス(30%)の2社でした。エアバスは、イギリス、フランス、ドイツ、スペインによるコンソーシアムで長年各国政府の支援を得て成長してきました。ボーイングとダグラスは、アメリカの会社でヨーロッパに資産を保有していないが、コンスタントに販売し、ダグラスは軍用ジェット機も製造しており、アメリカ政府の金融支援を受けて行った研究開発による特許等の技術ノウハウを有していました。しかし、ダグラスは次世代の商用ジェットの開発に失敗したことで商用ジェット市場の分野では衰退企業でした。他方で、ボーイングは、デルタ、アメリカン・エアライン、コンチネンタル・エアラインと20年間に及ぶ独占契約を締結しており、その独占的供給契約は、市場の11%を締めていました。ジェット機の制作は膨大な開発費用を要し、開発されたジェット機が商業的に失敗すればそれだけで会社の経営に大打撃になりかねないという状況でした。ボーイングとダグラスの合併が欧州委員会に届け出られた時点で欧州委員会の競争総局の局長カール・バン・ミアートは、合併及び独占契約に懸念を表明し、EUの承認なくして合併が強行されれば対抗措置も辞さないとの声明を発しました。これに対して、1997年7月1日、FTCは、ダグラスは商用ジェット市場において衰退企業であり、競争阻害効果は生じないので調査を終了する旨の声明を出しました。声明では、本決定は、ナショナル・チャンピオンをつくるという産業政策的な観点ではなく、純粋に反トラスト法の観点からの判断であり、アメリカにおいて最大の産業政策は競争政策であることが特に強調されました。但し、独占的供給契約については、合併とは別に問題となり得ることが指摘されました。他方で、欧州委員会は、合併は反競争的であり、競争法に違反するとして、合併の条件についてボーイングと交渉を開始しました。これに対して、米国連邦政府が強く反発し、貿易戦争に発展しかねない緊張が走りましたが、7月末に、ボーイングが欧州委員会の条件を全て受け入れ、欧州委員会は合併を承認しました。ボーイングが受け入れた条件は以下の通り。
・アメリカ3社(デルタ、アメリカン、コンチネンタル)との長期独占契約の破棄
・ボーイングは、ダグラスの民用飛行機事業をボーイングに統合せず、別の事業部門として存続させる
・ボーイングはダグラスが有する軍用技術に関する特許・ノウハウに関して、合理的条件で競争者にライセンスする
・ボーイングは競争上の支配的地位を顧客・取引先に濫用しない
・ボーイングはアメリカ政府からの金融上の便宜を得ているR&Dを毎年欧州委員会に報告する
欧州委員会は、総合的事業能力により、ボーイングは価格政策における自由度を増し、キャッシュフローのポジションなどの金融力を強化することになるとして、本件合併は市場支配力の強化に繋がると結論づけました。本件では、FTCはシカゴ学派的な支点から消費者福祉のみを重視し、他方で、欧州委員会は、競争構造の維持や市場閉鎖効果も重視して、支配的企業の独占契約に慎重な姿勢を保ち、結論が異なることとなったものと分析できます。


米国での基礎事例が、ゼネラル・ダイナミックス事件(United States v. General Dynamics Corp., 415 U.S. 486(1974))です。同事件は、ゼネラル社が1957年にユナイテッド社の支配株式を取得し、さらに1967年に全株式を取得した際、司法省がゼネラル社を訴追したという事案です。本件は、1968年合併ガイドラインの集中度が高い市場のカテゴリーに該当する事案でした。ユナイテッド社の石炭採掘は不振事業となっており、ゼネラル社の全株式取得はいわゆる救済合併の色彩の強いものでした。連邦最高裁は、本件におけるユナイテッド社の財務状況を前提とする限り、結合による競争阻害効果は少ないものと認められるとして請求を棄却しました。本判決では、合併される企業に地理的市場における石炭備蓄が1%しかなく、競争阻害効果が生じないことを理由とし、Philadelphia Nationall Bank事件で確立された市場構造から推定される違法性を覆す抗弁事情として認定したものでした。

他方、1992年及び1997年合併ガイドライン、2010年合併ガイドライン、2023年合併ガイドラインでそれぞれ言及がありながら実際の適用は厳格であるのが効率性の抗弁です。典型例はHeinz事件です(FTC v H.J. Heinz Co. 246 F 3d. 708 (D.C.Cir. 2001))。本件ではベビーフードの首位企業ガーバー(市場シェア65%)に対抗するため2位のヘインズ(市場シェア17%)と3位のビーチナッツ(市場シェア15%)が合併を企図したものです。FTCは、この業界ではカルテル慣行があり、合併により協調行動を助長するとして差止め訴訟を提起しました。ヘインズとビーチナッツの合併により、3社が2社に減少するものの、ヘインズは、ブランドが弱く、過剰設備を抱えていました。そのため、合併により効率的な事業運営が想定される事案であったものの、裁判所は、市場集中度が5000を超えること、効率性は合併固有の事情でなければならないところ、この点の立証がヘインズからはなされていないとして、効率性の抗弁を認めず、FTCの請求を認めたのでした。ヘインズは、同社が直面する市場構造上の課題や自力で市場を拡大することが困難であるといった事情、現在の経営ではイノべ−ションは生まれず、合併よりも効率的な運営は期待でないといった主張は立証されていないとして一蹴しています。
 
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