2008年2月アーカイブ

ソニーが4720万ユーロ(約75億円)の制裁金を欧州委員会に支払うことに同意の方向ですね。

2007年11月、欧州委員会は、日立マクセル、富士フイルムホールディングスに対しても制裁金の支払いを命じ、日立マクセルは1月、1440万ユーロ(約23億円)の制裁金の支払いに応じると発表しているところです。制裁金1320万ユーロ(約21億円)を科された富士フイルムは「対応を検討中」としています。

制裁金納付命令を発令した際、クルス委員は、制裁金減免申請による資料提供がなくてもカルテルを摘発できること、調査妨害は厳罰につながることを明言しています。クルス委員の発言による限りですが、カルテルに対する厳しい摘発という方針が変更される兆候は見られません。

日本企業としては、欧州委員会の執行方針と戦略について、綿密な分析を前提とした防波堤の建設を急ぐ必要があるといえます。

Reported by Dr. Inoue

経済的困難な時期にある企業や停滞・衰退産業に属する企業が、欧州競争法において特に問題となることがあります。欧州委員会は、基本的に、危機カルテルに対して寛容な執行姿勢を見せています。この種のカルテルは、構造上の超過生産の問題を前に、必要に迫られ、全生産量を減らすことを強いられる企業や産業セクターが協調することにより発生します。確かに超過生産を減少したり工場の閉鎖を調整したりして競争を制限する協定は、長期的には、職を保護するという社会的観点から好ましい効果を及ぼすかもしれません。しかし、欧州委員会は、このような協定も、原則論としては、81条1項に違反するとしています。危機カルテルを例外的に認める決定では、当事者は、十分な競争が維持された健全な市場を創設するために超過生産を減少することが、協定により、現実に可能であることを証明しなければならないとされています。

危機カルテルは、一般的に、生産力制限、生産量制限、投資制限などの競争法違反を含むことが少なくありません。このため、現実の超過生産力構造が証明されなければなりません。欧州委員会は、そのような超過生産力の条件を、以下のように定義しています。

すなわち、超過構造は、長期間、当該企業がその生産力の重要部分を使用せず、生産力を減少させ、このため著しい開発の現象を経験し、入手可能な情報に寄れば、合理的期間内に改善することが見込まれない場合であるとしています。価格、販売割当、生産割当、市場分割危機カルテルが認められることはほとんどありません。欧州委員会は、超過生産力の現象についての協調だけで、参加企業の個々の決定の自由を奪わず、その産業セクターのほとんどの企業が参加している危機カルテルについて、これを認めることがあります。しかし、欧州委員会によると、すべてのメンバーの業務上の活動をカバーする厳格なルールと、非メンバーからの保護を含む協定は免除されないとしています。欧州委員会は、81条3項は、以下の要件を満たした場合、産業セクター内の協定に適用されるとしています。すなわち、①協定が代替的生産としての再編成プログラムである場合を除いて、閉鎖について強制的で詳細なプログラムを含む場合、②利用者は、選択の自由や参加企業間の競争による利点を奪われない場合、③協定による情報交換制度の設置は、生産力の減少を規制することに資するもので、残存する能力や販売の条件の調整に関する協調的要素とならない場合、及び④協調は、事前に詳細に限定された期間のみ有効である場合がその用件です。

たとえば、亜鉛についての閉鎖協定事件では、欧州における最も大きな亜鉛生産社6社が、全世界での過剰生産と財政困難に遭遇していました。欧州委員会に、一定の生産施設を閉め、新規に創設しないことを同意した旨を届出しました。閉鎖したすべての企業は、社会保障の形で補償を受けました。欧州委員会は、欧州亜鉛産業が財政的にひどく損失を被っていることや一定の期間に限って協定が締結されていることを理由に承認の予定でした。しかし、正式決定の前に、亜鉛市場が改善したため、企業は協定を失効させました。

Authored by Dr. Inoue

About the Author

Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。