2008年5月アーカイブ

欧州競争法において価格差別といえば真っ先に頭に浮かぶのがユナイテッドブラウン事件ですね。この事件では、異なる加盟国市場おける価格差別がEC条約82条の問題になることが明らかにされました。但し、この案件を分析する上で注意しなければならないのは、欧州第一審裁判所は、支配的地位にある企業が欧州域内において統一価格を定めなければならないとしているわけではない点です。ポイントは、同一の場所で購入者によって異なる価格を定めてはならないと述べている点です。その後の事件でも、加盟国間において、合理的な理由にもとづき価格に差異が発生している例について欧州第一審裁判所が問題ない旨分析した事例がいくつかあります。テトラパックII事件の理由中の判断を参照する必要がありますね。無論、テトラパックII事件では、国内市場の人口的な閉鎖事情から、結論として価格差別が違法と判断されています。

Authored by Dr. Inoue

2008年1月16日に実施されたドーンレイドに関連して、欧州委員会が調査を強化しているとの報道が一斉になされましたね。2008年1月16日のドーンレイドについては、当情報局からもご報告したところでした。欧州委員会は、ジェネリック薬品が欧州市場で普及しない原因について分析を進めており、その原因として反競争的な行為がなされている可能性について調査を進めています。欧州委員会は既に100以上の製薬会社に質問状を送付し、また80ほどの医療機関から情報を取得していると報道されています。欧州における製薬市場の分析結果については2008年秋にプレリミナリーレポートが完成し、2009年秋には最終版のレポートが完成の予定です。現在のところ、欧州委員会は、反競争的な行為の有無にかかる事実認定について、何らの結論にも達していないとしています。

Reported by Dr. Inoue

2008年4月29日、欧州委員会は、OracleのBEAに対する買収について承認しましたね。買収のスキームは、OracleがBEAの発行済み株式の全てを1株19.375ドルで購入し、BEAがOracleの100パーセント子会社になるというものです。取引総額は85億ドルに上るといわれており、欧州委員会における審査手続は2007年10月に開始されたものです。

欧州委員会によると、OracleとBEAは直接の競争関係になく、また、仮に買収が成立したとしても、関連製品市場において競争力のある競争相手がおり、消費者としては、代替の選択肢があることを理由として掲げています。欧州委員会は、関連製品市場の外縁をミドルウェア製品市場として確定して調査を実施したようです。

なお、水平的合併について適用すべきテスト及び分析の手法については、欧州委員会は、2004年5月1日にガイドラインを明らかにしています。当該ガイドラインによると、結合は、市場力がその結果増加する、あるいは複数の販売者への競争上重要な圧力を排除することで、市場の競争を著しく害することがあると指摘されています。取引の最も直接的な効果は結合当事者間の競争の消滅です。また、ガイドラインでは、競業企業間の競争の程度など、欧州委員会が考慮に入れる要素についての説明も提供されています。

Reported by Dr. Inoue

 

About the Author

Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。