2008年4月アーカイブ

織物生産の大手であるItemaのBarcoVision買収について、欧州委員会が詳細審査を開始しましたね。欧州委員会は、2008年8月26日までに、当該買収により市場の支配的地位が創設されるかどうかについて分析をします。両者の合併は、垂直的合併の側面を有しており、とりわけ、BarcoVisionが提供する巻機は、織物工場において欠くことができない重要部品であることから、当初から、競争阻害的効果の発生が懸念されていたところです。両者は、詳細審査の開始により合併自体が影響を受けることはないとしていますが、2008年9月30日まで、取引の完了を延期しました。

Reported by Dr. Inoue

欧州第1審裁判所が、ドイツテレコムに対する1980万ドルの制裁金を支持するとの決定を発令しましたね。欧州委員会が、制裁金賦課決定を発令したのが2003年5月ですから、欧州第1審裁判所における審理に約5年間要したわけです。事案は、ドイツテレコムが市場における支配的地位を濫用したことを理由とするもので、適用法令は、EC条約第82条でした。ドイツテレコムのネットワークへのアクセス拒否が支配的地位の濫用と認定されたもので、米国におけるヴェライゾン事件における分析からも予測可能な範囲内の結論といえます。

Authored by Dr. Inoue

ガス絶縁開閉装置カルテルにおいて、欧州委員会は公正取引委員会に対する連絡を怠り、公正取引委員会が欧州委員会の調査の進捗状況を知ったのは、制裁金賦課決定段階であることが明らかになりましたね。

本件では、異議告知書の送付直後にブラジルの競争当局が調査を開始するなど、調査が拡大していたにもかかわらず、公正取引委員会が調査を開始しないのは理由があるのではと当初から分析されていましたが、その理由がようやく明らかになりました。

当該カルテルでは、Arevaが、2004年1月にAlsoton AGからカルテルに従事した部門を買収しており、DDでも判明しなかったことを理由に制裁金の減額を主張しましたが、欧州委員会は、全く聞く耳を持たず、わたくしが10年以上前から警告しているM&Aに潜む競争法違反の爆弾の威力が破壊的であることが実証された事案でもありました。

以下、2008年4月15日付けの読売新聞の引用です。

『三菱電機や東芝など日本と欧州の重電メーカー10社が昨年1月、欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会からEU競争法違反で計約1200億円の制裁金を命じられた変電装置の国際カルテルで、欧州委からの通報がなかったために、公正取引委員会がカルテルの調査に入れなかったことがわかった。

違反とされた行為は独占禁止法に抵触するが、公取委はカルテルの実態を解明する機会を失った。欧州委による日本企業の調査は今後も続くことが確実で、公取委は通報態勢の改善を求めた。

通報があれば、公取委は再発防止を求める排除勧告を出し、カルテルに加わった企業に数十億円の課徴金を科せた可能性がある。

日本とEUは2003年7月に、カルテルや企業合併の調査で連携することを定めた「独占禁止協力協定」を締結した。協定には、相手の利益に影響する違反行為の調査などを相互に通報する規定が設けられている。

欧州委は通報しなかった理由を「忘れていた」などと弁明しているが、公取委は京都市で14日に開会した「国際競争ネットワーク」年次総会出席のために来日した欧州委幹部に通報態勢の改善を求めた。

問題とされた装置はガスの圧力で電流を調節するガス絶縁開閉装置(GIS)で、欧州委は、スイスのメーカーABBから04年3月にカルテルを結んでいたとする申告を受理。2か月後に立ち入り検査に着手した。

調査の結果、三菱電機、東芝、日立、富士電機ホールディングス、日本AEパワーシステムズの日本5社とシーメンスなど欧州6社が1998年以降、日本企業は欧州の、欧州企業は日本の市場にそれぞれ参入しないなどの市場分割に合意したと認定。07年1月に日本5社に約400億円、申告したABBを除く欧州5社に対し約800億円の制裁金を命じた。

検査着手から制裁金決定までの約2年8か月間、公取委には通報がなく、制裁金の発表でカルテルの存在を把握した。カルテルは日本市場にも及んでおり、調査の対象になるはずだったが、排除勧告の時効は過ぎ、課徴金納付命令の期限も約4か月後に迫っていた。

調査会社によると日本のGIS市場は約500億円と推計され、制裁金を科せられた5社が上位を占めている。公取委の調査でカルテルが裏付けられれば日本企業への課徴金だけで数十億円になった計算だ。』

Reported by Dr. Inoue

EC条約第81条第3項に基づく適用免除は、制限が必要不可欠なものでなければ認められません。これは均衡の原則とよばれるもので、この条件は契約そのもののみならず、競争制限にもあてはまるものです。当事者は、協定や個々の制限が制限的協定がない場合より効果的に当該活動を実現することを証明しなければなりません。当事者は、仮定的な解決方法や代替策を想定する必要はありません。欧州委員会は、もし、他の現実的で可能な方法があることが合理的に明確であるときのみ異議を述べるというプラクティスを採用しています。協定が著しい相乗作用や補完的可能性を生み出すなら、効率性の性質自体が、契約がその実現に必要であることを推認させるといえます。契約が不可欠か否かの判断においては、効率性がより制限的でない契約や他の別個の方法によって得られるかの検討をすることが重要といえます。個々の制限については、もし、契約によって生じる効率性が、その制限がなければ得られないか、著しく減少する場合に、その制限が不可欠であると一般的に判断されます。欧州委員会は、制限が一括適用免除規則で禁止された制限であったり、ガイドラインや告示によって禁止されている場合には、不可欠の制限の判断される可能性が低いことを明言しています。

Authored by Dr. Inoue

About the Author

Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。