2008年1月アーカイブ

Oral Hearningにはご存知のとおり、反対尋問は認められておらず、形式的な手続の色彩が強い。日本の法廷も、通常の弁論手続などは、相当程度形式的ですが、このような経験を前提としても、日本や米国での法廷の方が、直接主義・口頭主義が徹底されていると感じますね。そのため、欧州委員会の手持証拠の開示のスコープが圧倒的に広く、また、弁護士‐依頼者特権が認められているなどの面はあるものの、ほぼ書面のみで勝敗が決する手続という印象を、経験すればするほど強めます。直接主義や口頭主義を前提としたプラクティスに慣れている日本の弁護士は、欧州委員会の調査手続やOral Hearningを通じて代理人として活動する際、相当程度、意識を転換する必要があるように思います。European Court of First Instanceのhearingですら、期間は5日程度で、Oral Hearningのみならず、日本における弁論手続との比較ではありますがが、書面主義が欧州における手続の特徴といえなくもないと感じます。但し、Oral Hearningで、釈明権を行使して、事実上の反対尋問を実施することは不可能ではありません。この点は、以前にも指摘したところです。最初は主宰間を通じての質問しかできませんが、直接の質問も不可能ではありません。如何に、被質問者のペースを乱し、直接質問に持ち込むかは、戦略如何といえます。欧州委員会における証拠法則上、確かに、直接主義が正面から認められているわけでは在りませんが、ケースチームの目の前で、ケースチーム側の重要参考人が陥落することによる事実上の効果は少なくありません。Oral Hearningに過度の期待をしてはいけませんが、最初から勝負を放棄するほど悲観する必要もないと思います。

Reported by Dr. Inoue

独占禁止法及び反トラスト法における分析同様、EC条約第81条の分析の際にも関連市場の確定が必要になります。とりわけ、デミニマスルールの適用に際して、関連市場の確定は不可欠です。欧州委員会が2001年に発表した告示によると、企業の市場占有率から重要性の低さを分析するという手法を取っています。市場占有率を算出する前提として、関連市場を確定することが必須です。欧州委員会は、企業の市場占有率が、水平的契約で10パーセント、垂直的契約で15パーセントを超えない場合には、81条第1項の適用を免れるとしています。告示では、複数の製造者・契約者によって類似の契約が並行して締結された市場においては、市場閉鎖効果のため5パーセントの基準を設けています。告示によれば、市場の30パーセント未満が並行契約によってカバーされている場合には閉鎖効果はあまり考えられないとしています。

Authored by Dr. Inoue

Epson Imagingがカルフォルニア州に係属していた液晶パネルの価格協定に関する民事訴訟を取り下げましたね。2008年1月16日、Judge Susan Illstonが裁判所の決定を発令したものです。なお、取り下げの理由は、現在のところ、明確にされていません。本件訴訟では、液晶パネルの直接の購入者である各社が、日立や東芝、サムスンといった液晶パネルの製造業者が、1996年1月1日から2006年12月11日にかけて、意図的に価格を吊り上げたとして、同社らに損害賠償を求めているものです。なお、液晶パネルの価格協定事件では、2006年12月、欧州委員会が、米国司法省、並びに日本及び韓国の公正取引委員会の調査と協力して調査を進めることが公表されて以後、消費者による、液晶パネルの製造業者に対する損害賠償訴訟が増加しています。価格カルテルの調査の行方は、当然、頻発している民事訴訟の帰趨にも影響を与えそうです。

Reported by Dr. Inoue

2008年1月16日(水曜日)の早朝、欧州委員会により、Pfizer Inc., Astra Zeneca Pls, 及びJohnson & Johnsonといった、大手の製薬会社数社に対して、dawn raidが実施されましたね。欧州委員会の調査の対象になっているのは、GlaxoSmithLkine Plc, Novartis AG Sanofi-Aventis SA, Wyeth Merck & Co., Teva Pharmaceutical Indistries Ltd. といった有力な製薬会社も含みます。今回の調査開始は、Pfizer Inc., Astra Zeneca Pls, 及びJohnson & Johnsonが関与していた特許訴訟の和解での契機になったといわれています。

欧州における薬品市場は、正常な競争が機能していない状態にあるという評価が以前からあり、欧州委員会は、特許訴訟における和解交渉の際に、有力な製薬会社が、市場の支配的地位の濫用行為に従事したのではという疑いを高めたものとみられます。

クルス委員は、よりよい製品と価値を生産する強力な製薬産業は必要なものではあるものの、ジェネリック製品の導入が、明らかに遅れている場合、欧州委員会としては、なぜ、導入が遅れているのか調査せざるを得ないと述べています。

欧州委員会によると、調査対象になった製薬会社は、特許権と攻撃的な訴訟攻勢を多用することで、意図的に参入障壁を高く設定してきたと指摘しています。なお、このような意図的な参入障壁の設定は、EU条約82条違反となりえるものです。

カルテル事案の際のdawn raidと異なり、同業他社による情報提供等に基づくものではなく、製薬産業の実態調査の結果に基づくものであると、欧州委員会は述べています。

なお、近年、欧州委員会は、エネルギー、テレコム、及び金融サービスの分野について、産業の実態調査を実施しており、注意が必要といえます。

Reported by Dr. Inoue

Apple事件でも問題になりましたが、EU競争法上、異なる加盟国間の市民の差別は、支配的地位の濫用行為として問題となり得ます。

欧州委員会が委員会としての判断するのは、決定を発令する2週間前の水曜日の定例会であり、Apple事件について判断をする時期が迫っていたことから、Apple社の意向が明らかになった際、クルス委員は、Apple社が問題の行為を修正することを含む発表をしたのちに欧州委員会として事件を終結すると記者団に説明したとブルームバーグも報じました。Apple社は、iTunesの購買により得られる利益を最大化するために、特定の地域の購買者は特定の地域向けのサイトからしかダウンロードができないようにしたととされています。

このように、EU競争法の執行実務では、伝統的に市場分断的な行為に対する執行が厳しいのですが、この傾向は、とりわけ、リスボン戦略の採択以降顕著です。

異なる市民間の差別が問題となったほかの事例としては、Sacchi事件とGVL事件が代表格です。Sacchi事件では裁判所は支配的地位にある企業が異なる加盟国の製品や企業間でテレビコマーシャルへのアクセスについて差別をすると濫用になると確認しました。

また、GVL事件では、国籍に基づく差別は支配的地位にある企業によって行われる場合、通常82条違反になるし、芸術家の権利を保護することを業務とするドイツのGVL社がドイツに所在しない芸術家からの契約を拒否した場合に、これを正当化することはできないと裁判所は判断しています。

Authored by Dr. Inoue

欧州競争法の実務では、最近話題になったアップル事件のようにUKのConsumer Groupが苦情を申し立てて調査が開始されるなど、苦情申立人の苦情が調査開始の端緒になることがすくなくありません。アップル事件は、苦情申立の結果、調査の対象になり、解決の見込みであると先週報道がありましたね。

欧州委員会に提供された秘密情報は開示からの保護が徹底されています。欧州委員会の職員が秘密情報を職員の義務に違反する深刻な不当行為によって開示した結果情報提供者が被害を被った場合には損害を賠償する義務が発生します。Stanley Adams事件ではこの点が問題となりました。また、BPB Publishing PLS & British Gypsum Ltd事件では、情報提供者の氏名については、報復的な措置から保護されるべきであるとの準則が導かれ、独占的事業者からの報復を恐れる競争事業者が提供した情報に関しては、情報源秘匿が認められる場合が在ることが示されています。競争事業者の価格や取引条件についての情報も、通常、秘密情報として扱われています。

Authored by Dr. Inoue

アイスランドの競争当局は、Elimskip社に対して、略奪的価格設定をしたことを理由に340万ユーロの制裁金を課する方針を決めたようですね。制裁金の対象とされる略奪的価格設定は、Elimskip社が2002年4月から実施したとされるもので、Samskip社の顧客を奪うことを目的として価格攻勢をかけたものです。アイスランドの競争当局によると、かかる価格攻勢の結果、Elimskip社は、220万ユーロに上る受注に成功したこと、当時、アイスランドから欧州及び北米への海運にかかる同社の市場占有率は70-80パーセントに達しており、略奪的価格設定を実行することが可能であったという。なお、アイスランドの競争当局は、2002年から略奪的価格設定の調査を開始したものの、制裁金賦課まで5年間の期間を要したものです。

Reported by Dr. Inoue

2007年は欧州に限らず、日本企業が関与した国際カルテルの摘発が相次いだ1年でした。欧州競争法違反の場合には、制裁金を払うだけですので国際カルテルに関与した企業の担当者に対する負担は、想定の範囲内といえます。そうしますと、想定の範囲外の事情として分析の対象とすべきは、欧州で摘発された国際カルテルにつき、米国でも摘発の対象になった場合の担当者に対する負担といえます。

国際カルテルにより米国反トラスト法に違反した場合には刑事罰の対象です。個人に対しては懲役刑が用意されています。1999年まで、米国司法省は、反トラスト法違反で、外国人を米国の刑務所に服役させることを回避してきましたが、現在では20カ国を超える外国人が米国の刑務所で服役しています。また、刑に服さない外国人に対しては、ボーダーウォッチの対象になり犯罪人引渡条約及び国際刑事警察機構の国際手配書の活用により、米国以外に居住している場合でも、積極的に逮捕・送還を進めています。なお、有罪答弁をしたものに対しては、刑の服役が終了後、米国への入国が自由に認められれるように司法省と移民帰化局との間で協定が結ばれています。競争ネットワークの活用が進んでいるので、米国の裁判所からの償還を無視した場合には、事実上、日本から出国できず、出国した場合には、逮捕・送還される可能性が高まっています。欧州委員会により国際カルテルが摘発され、かかる摘発により米国司法省が摘発に動く場合には、企業の担当者、とりわけ、国際カルテルに関与した可能性を疑われかねない担当者としては、負担がスノーボール的に膨らむ可能性があるといえます。

Reported by Dr. Inoue

カルテル事案、あるいは企業結合事案で欧州第一審裁判所に提訴される事例についてのニュースを耳にする機会が増えてきた。欧州第一審裁判所での平均審理期間は2~3年であり、しかも、実質的証拠法則が適用されるので、裁判所で争えば勝機が広がるという戦略の立て方はしないほうがよいというアドヴァイスを依頼者にしたのが6年ほど前の2002年7月であるが、このアドヴァイスが前提としている事実及び状況は、2008年になってもあまり変わるところがない。

欧州競争法における実質的証拠法則は、規則中に明文があるわけではありませんが、判例により形成された法理で、厳然と存在しています。そのため、原理・原則から言うと、欧州委員会の事実認定はManifest Errorがない限り、欧州第一審裁判所でも覆すことができません。また、新証拠の提出に関しても、証拠はすべて欧州委員会で提出すべきものとされていますから、相手方に開示していない新たな証拠の提出は難しいのが実情です。

但し、評価的な内容を含む事実(日本法でいうところの評価的根拠事実)については、争いがある場合には、実質的証拠に支えられていないとして欧州第一審裁判所が自ら判断することが、まま、あります。2度目の異議告知書について聴聞手続を拒否したマイクロソフトのように欧州第一審裁判所で争うとの戦略をとる場合、争点となる事実の性質についての見極めが重要であるといえます。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会の事前聴聞に実際に携わったり、Oral Hearingに出席したことのある方は多くないでしょう。経験のない方は、日本の審査手続のようなものという漠然とした印象で捉えているかもしれません。

しかし、実際に手続に携わってみると、日本法を前提とした手続とは、相当、勝手が違います。そこで、今回は、その資料の閲覧謄写について問題点を概観してみたいと思います。

欧州委員会競争総局は、EC条約81、82条違反行為について措置をとる場合には、異議告知書を被聴聞者に送り、独立性のある聴聞主宰官を指名し、被聴聞者は防御権を保障され、委員会の手持資料の閲覧が可能です。閲覧の範囲は、事業者の秘密と委員会の内部資料を除くすべての資料ですから、独占禁止法下の審査手続の閲覧謄写よりも手厚いです。事前聴聞では手続保障が重視されますが、事業者の秘密資料に対するアクセスは認められません。被聴聞者が支配的事業者の場合、将来的な不利益を恐れて、情報の不開示が要請されることもままあります。そのような場合には、委員会の開示ファイルには、non-confidential versionの資料や一部ブラックアウトされた資料が閉じられています。開示されなかった資料については反対尋問が保障されませんが、だからといって、伝聞であるとか、証拠能力に乏しいという議論はありません。ブラックアウトされた資料も証拠として提出されます。但し、証拠価値の評価の際には考慮されるようです。そもそも、Oral Hearingでは、反対尋問も認められていませんから、反対尋問の認められない証拠の証拠能力を否定するという議論もないのでしょう。なお、欧州では、米国と違い、広範なディスカヴァリー制度が存在しないので、Co-Defense Agreementが締結されることはあまり多くありません。

Authored by Dr. Inoue

皆様、明けましておめでとうございます。本年も、どうぞ宜しくお願いいたします。

拙著Japanese Antitrust Law Manualが米国Library of Congressに所蔵されました。本書は、日本の独占禁止法についてわが国の実務家が英文で執筆した始めての書籍です。北米ではAspen Publishingが販売をしております。本書は、欧州競争法及び米国反トラスト法と日本の独占禁止法の差異を前提に、欧米の依頼者に日本の独占禁止法上の問題点を理解させるにはどのような視点で分析すればよいかという実務上の視点から執筆されたものです。欧州競争法や独占禁止法の実務に従事される実務家や研究者、学生がその手にとって参照されるのを願ってやみません。なお、本書については、現在第2版出版のための執筆作業が進行中です。

Written by Dr. Inoue

情報交換、それ自体は、反競争的ではありません。それ自体が直ちに違法とはいえない点で米国反トラスト法及び独占禁止法上の考え方と同じです。

よって、競争業者と情報交換をしたからといって、ただちにEC条約第81条違反として摘発の対象になるわけではない。

しかし、競争企業がそれぞれの活動について情報を交換することは商業戦略に大変有利といえます。そのため、情報交換のうち一定のものについては、欧州競争法上も問題となりえます。問題となるのは、市場において企業の態度を調整するような協定です。個々の企業の独立した決定や、通常の競争の作用を企業間協定によって取って代わるようにするもので商業上の情報の交換は、情報が実際には業務上の秘密であり、定期的な統計を取る必要がないものであれば、EC条約第81条第1項違反に該当するので、注意が必要です。

とりわけ、クルス委員の2007年12月11日のプレスステートメントでは、2008年以降も強力にカルテル摘発を推進する方針が示されており注意が必要です。情報交換協定についても、審査の対象とされる可能性が十分にあるためです。

Authored by Dr. Inoue

 

About the Author

Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。