2008年3月アーカイブ

欧州委員会は、2008年3月26日、ヴィザに対して、同社の多角的交換料金(MIF = multilateral interchange fees)が、制限的な取引慣行に関する欧州共同体条約の規定(第81条)を侵害するかどうかの審査手続を開始しましたね。

MIFについては、昨年、既に、マスターカードについての同種事件について欧州委員会は判断を下しており、同事件は現在欧州第一審裁判所に継続していますから、今回の審査手続開始は、ある程度予期できたものです。マスターカード事件についてですが、欧州委員会は、決定を発令したのは、2007年12月20日です。欧州委員会は「マスターカード」および「マエストロ」商標のデビットカードと消費者クレジットカードによる越境的な支払カード取引に対するマスターカードのMIFが、制限的な取引慣行に関する欧州共同体条約の規定(第81条)を侵害するとの決定を行いました。欧州委員会は、マスターカードのMIF(支払いが処理される際に小売店で支払いごとに課される料金)が、小売業者によるカード受理のコストを膨張させており、それによる効率性についても証明がないとの結論を下したのです。マスターカードには、MIFの撤回を命ずる欧州委員会の命令を遵守するため、6か月が与えられます。マスターカードが欧州委員会の命令を遵守しない場合、欧州委員会は、前事業年度における1日当たりのグローバルな売上高の3.5パーセントを、1日当たりの過料として課することができるとしました。MIFそのものが違法であるわけではないのですが、マスターカードのような開放型の支払カードシステムのMIFの場合には、それが技術的・経済的な進歩に貢献し、消費者に便益をもたらす場合にのみ、欧州競争法に適合すると結論付けました。

Reported by Dr. Inoue

2007年9月に、欧州第一裁判所の裁判官を退任したBo Vesterdorf判事が、昨年9月に出されたマイクロ事件ソフト事件の判決(同社に対して4億9700万ユーロの制裁金を支払うことを命ずる欧州委員会の決定を支持する判決)により技術革新が妨げられるようなことがあれば、それは残念なことであると認識していると報道されましたね。欧州委員会は、マイクロソフト社に対して、市場における支配的地位を濫用していることを理由に、制裁金を賦課するという判断をしました。ウィンドーズをメディアプレーヤーに同期させるための技術情報を提供するに際して、不当に高い技術料を請求しているというのがその理由でした。過度の請求がどの程度の請求を言うのかについて、これまで、欧州委員会も欧州第一裁判所も、クリスタルクリアーな基準を定立しているわけではなく、これはマイクロソフト事件でも解決されなかったといえます。なお、ユナイテッド・ブランド事件では、欧州委員会は、チキータバナナについて過度の価格設定が行われたと判断しましたが、当該決定は裁判所により否定されました。裁判所は、利益を挙げたことが証明できていないと述べています。また、同事件の裁判所の決定では、価格設定の問題よりも、経済的価値に合理的に関連しているかどうかという点が、過度の価格設定性を判断する上でよりフォーカスされました。

Reported by Dr. Inoue

2008年2月21日、欧州委員会は、カナダのアルミ製造メーカーであるAlcan Inc.に対して異議告知書を発送しましたね。異議告知書によると、Alcanは、同社の溶解技術の購入者に対して、同社の関連会社であるECLの製品を購入するよう求め、よって、両製品を抱合せ販売したというものです。適用法令は、EC条約第82条です。欧州委員会によると、違反行為は世界で700億ユーロにもなるアルミ市場が影響を受け、同市場における技術革新に影響を及ぼすと指摘しています。

EU競争法上、抱合せ取引はどのようにして規律されるのでしょうか。

ガイドラインによると、抱き合わせを、供給者が、製品販売に際してこの供給者あるいは供給者によって指定されたものから、他の別個の製品を購入することを条件付ける状況をさすとしています。

第一の製品は、拘束する製品あるいはサービスと呼ばれます。第二の製品は拘束された製品あるいはサービスです。2つの製品が別個であるかどうかを判断する基準となるのは購入者の需要です。例えば、紐と靴を別個に購入するのではなく紐の付いた靴を購入することを希望していることが証明されれば、紐に拘束された靴の販売は抱き合わせではありません。抱き合わせは、拘束された製品に単一ブランド政策の義務を課す場合には81条が適用されます。拘束された販売の垂直的制限は、供給者の拘束する製品と拘束される製品市場が30パーセントを肥えないとき、適用免除されます。この基準を超えると、協定は拘束する製品市場の供給者の地位と、競業者の地位、購入者の購入力を基礎に評価されます。そして、拘束される販売が、商業上の使用や目的など製品の性質から客観的に正当化されない場合には、82条が適用され得ます。

Authored by Dr. Inoue

About the Author

Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。