2007年12月アーカイブ

意識的並行行為は、米国反トラスト法でも独占禁止法でも問題になる論点ですね。

企業が市場にあわせて価格を調整すると、競業企業は一般的に同様の行動をとります。欧州競争法上、全ての企業は、原則として、共同市場におけるビジネス戦略を独自の判断で決定しなければなりません。しかし、他方で、EC条約第81条は、競業企業間の価格の統一それ自体を禁止しているわけではありません。同一の行為をとることは、それ自体としてEC条約第81条第1項に違反するわけではないのです。

染料事件では、価格を統一する行為が協調行為の存在を伺わせるものであるとしても、それ自体としては競争法違反とならないとされたケースです。欧州委員会は、同時値上げの事実から、染料生産社10社が違法な協調行為をしたと判断したのです。欧州委員会は、様々な要素から制限的な慣行が存在する十分な証拠があり、生産者間の協調が考えられないとすることは非現実的であると判断しました。また、欧州委員会は、染料市場の寡占的構造から、価格競争ではなく、製品の質と顧客への技術的サービスが競争の要素であるという生産者側の主張も一蹴しました。決定の上訴手続で、裁判所はもし意識的並行行為がそれだけでは協調行為とはされないとしても、製品の性質、企業の重要性や数、生産量を考慮し、市場の通常の条件とは一致しないような条件に達するときは、重大な協調の要素とされる可能性があるとしています。

染料市場の性質を決定した後、裁判所は、価格の上昇の点について、特に、時期、価格、製品の同一性を検討し、染料市場における価格の競争上の性質は二次的であるという主張を退けました。裁判所によれば生産者は十分に市場での力があり価格の減少により、市場を拡大することができます。その上、分割された5つの共通市場は、価格も構造も異なる市場で、全ての市場をカバーする恣意的で統一的な価格を設けることは不可能でした。裁判所によれば、異なる加盟国のそれぞれの性質を考えると、異なる価格の上昇が論理的であり、時間、加盟国市場、製品の種類に関して、並行行為が偶然に行われることは考えがたいと結論付けました。

さらに、各製造者は、価格を修正したり、競争者の現在や将来の行為の影響を考慮に入れることはできますが、どのような方法にせよ、値上げについて共同の行為を決定したり、相互の態度について予見不可能性を取り除くことにより、値上げについての協調を確実に成功させるため競業企業と協力することは競争法違反です。

並行行為に関する事件で有名な事件といえばウッドパルプ事件です。そこでは裁判所は3ヶ月ごとに価格設定の事前の宣言をする制度は、市場の通常の条件に対応している限りは、協調行為に該当しないとしましたが、欧州委員会は、生産者がEUにおける価格設定の協調行為を行っていたと主張しました。しかし、1975年から1984年に並行行為があったとしても、価格設定協定の証拠がなかったにもかかわらず、欧州委員会は、直接・間接の情報交換が、価格についての市場の人工的な透明性を創設するするとし、市場の状態は並行行為を生み出すほどの厳格な寡占市場ではないとの経済分析に依拠し、協調行為が存在すると結論付けました。これに対して、裁判所は、欧州委員会の決定を取り消しています。すなわち、裁判所は、使用者に対して宣言された価格についての通知は、競業企業のとるかもしれない行動について、それぞれ企業のとるかもしれない行動について、それぞれの企業の予測不可能性を減少させる性質の行為ではなく、各企業の行動は、実際には、他の企業の態度についていかなる保証もないのであり、3ヵ月ごとの価格宣言制度は、81条第1項に反するものではないと結論付けました。

Authored by Dr. Inoue

 

 

2007年12月11日のクルス委員によるプレスリリースは、カルテル撲滅を最優先の課題とする欧州委員会の政策を分析するのに格好の材料といえます。リリースの原文は、こちらから入手することができます。

カルテル撲滅は、2004年にクルス委員が就任して以来、欧州委員会にとっての最優先の政策課題であり、かかる方針は今後も堅持されることが相当程度予想されます。プレスリリースでも、カルテルが違法であるばかりでなく、消費者への影響が看過できないことを冒頭で強調されており、カルテル撲滅とうい政策方針を堅持することが伺われます。なお、欧州委員会の発足以来2007年12月15日までの間で、欧州委員会がカルテルの当事者に課した制裁金の総額は50億ユーロを超えるという。50億ユーロを超える制裁金は、欧州共同体加盟各国の予算として分配され、終局的には消費者に還元されるばかりでなく、巨額の制裁金により、カルテルの再犯が抑止されていることが強調されています。

プレスリリースの末尾では、端的に、”of course we will continue vigorously fight cartels in the coming years”と述べられています。

クルス委員の発言は、就任以来、カルテル撲滅という点で首尾一貫しており、今回のリリースも、首尾一貫した政策方針が反映されたものといえます。

リリースによると、欧州委員会がカルテル撲滅をより推進するために追加的に導入を検討している手段は、カルテルの事実について争いのない案件について早期に案件を終結することのできる手続の導入と、欧州委員会による執行を補完するものとしての私人がカルテルの当事者に対してより容易に損害賠償請求訴訟を提起できるような制度の導入です。私人による損害賠償請求については、2008年初頭にも欧州委員会から案が明らかにされるという。米国型の三倍賠償制度やクラスアクション制度の導入に踏み切るのか、欧州委員会の案に注目したいと思います。

Reported by Dr. Inoue

 

 

通常、社内調査を進め、証拠の収集は完全には終了していないが、違反事実につき、一定の心証を得た事業者はマーカーの申請を検討します。マーカーによる申請をする場合には、会社の担当者又は代理人の弁護士が、事前に欧州委員会(担当は競争事務総局)に電話等でコンタクトを取り、免除を受けられるか否か確認します。製品や地理的範囲について情報提供しつつ、申請の有無や審査の開始の有無を探ることになります。免除が認められた事業者がおらず、また、審査も開始していないことを確認し、免除申請が認められそうであることを確認した場合には、当該事業者はマーカーの申請をします。申請に際して、事業者は、申請事業者の名称及び所在、当該カルテルの当事者、影響を受ける製品及び地理的範囲、当該カルテルの推定期間、当該カルテル行為の性質、当該カルテルに関連して過去に他の競争当局に対してなしたリニエンシーの申請及び他の競争当局への将来的な申請の可能性といった事情を申請します。これらの情報は、コーポレート・ステートメントに含む情報と類似していますが、これらの提供を求める趣旨は、①真摯な申請であることの確認、②同一事実につき優先する申請がないことの確認、③複数の加盟国に関係する事案であるか否かの確認、のためとされています。もっとも、マーカーの地位を認めるか否かは、欧州委員会の裁量によります。申請に際し、他の競争当局へのリニエンシーの申請の事実等の正当化事由が必要とされていますから、常にマーカーを取得できるとは限りません。マーカーの申請は通常、口頭でなされます。すなわち、委員会の施設内の録音機を前にして上記の事実を申請することになります。そして、コーポレート・ステートメントの場合と同様ですが、その録音については欧州委員会の施設内で録音の正確性及び反訳の正確性をチェックする機会が与えられますが、これは、米国のディスカバリー制度を念頭に、民事訴訟の原告に申請事業者が事実を自認する書面を開示する機会を排除するよう配慮されているものです。すなわち、申請時点で事業者側に書面が残らないように配慮するのみならず、書面のチェック時において委員会の施設内においてチェックが完結し、委員会の外で事業者が反訳書面につき保有している状況を排除しているのです。マーカーの地位を委員会が認めた場合には、委員会は情報及び証拠を提出する期間を指定し当該期間内に要件を満たす情報及び証拠の提出がなされた場合には、マーカーの地位を委員会が認めた時点で要件を満たす正式な申請がなされたものとみなされることになります。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会におけるOral Hearingについては以前にも解説したところですが、今回は、もう少し、実務的ないし実際上の経験に基づく解説をしたいと思います。

Oral Hearingは通常1回だけ開催され、その期間は非常に短いです。多くの場合は1日で、半日のこともあります。複雑な事件では2日にわたることもありますが、極めて例外的です。なお、マイクロソフト事件のときは3日かかったそうです。

Oral Hearingまでに当事者は自由に書面を交換することができ、実際上は、この書面交換により議論は尽きているとみなされています。Oral Hearingでは当事者が、お互いの主張を持ち時間の中で整理して主張するだけですから、セレモニー的な色彩が強いといえます。実際上も、日本における裁判の口頭弁論や、Adversary Systemを採用している米国における手続とは相当程度勝手が異なるという印象が少なくありません。Oral Hearingでは、Hearing Officerが手続を開始し、まず、case teamに事実及び欧州委員会の法的構成についての主張の要約を行わせます。その後、当事者の口頭によるプレゼンテーションが行われます。Oral Hearingにおいて、Officerは証拠の実体面について判断をすることはありませんが、コメントすることはあります。Hearingでは、各国のOfficerが出席しており、通訳を介して、当事者のプレゼンテーションを聞く機会が与えられます。各国のOfficerから当事者に質問がなされ、当事者がこれに回答をします。最後に、欧州委員会及びHearing Officerから当事者に対して質問がなされ、当事者がこれに対して回答します。反対尋問権は保障されていませんが、Hearing Officerに対して、関係者に質問をするよう求めることができますし、手続がヒートアップすると、Hearing Officerを介さずに直接質問と回答がなされることもままありますので、事実上、反対尋問をする機会があるといえます。

Hearing Officerは手続上の判断権限を有しているだけで、作成するレポートも手続的観点を中心としたコメントのようなもので、決定書を起案する際の基礎を構成しているとは思えないものです。

このように欧州委員会におけるOral Hearingは、行政手続の一環として最低限の手続保障だけを狙った手続であり、日本における刑事訴訟のような手厚い手続的保護が図られている手続とは異なる、どちらかというと形式的な手続といえます。

Authored by Dr. Inoue

EU競争法上、市場分割カルテルは、EC条約81条第1項Cに該当します。欧州委員会は、市場分割カルテルに対して、伝統的に極めて厳格な執行態度をとり続けています。

市場分割カルテルに対する厳格な執行姿勢が注目を集めたのが2007年初頭のガス絶縁開閉装置国際カルテル事件です。この事件は衝撃的な案件でしたが、欧州委員会の執行姿勢を知っているものにとっては、従前の方針の延長線上の事件であったはずです。

なお、これまで市場分割が問題となった全ての案件に共通なのは、それぞれの関係企業が、他の関連企業の国内市場において販売・輸出を差し控えていた点です。

1969年のキニーネ事件は、欧州委員会が正式決定を下した最初の事件です。当事者は、それぞれの国内市場を各地域生産者にあてがう紳士協定を締結しており、付属文書も紳士協定に添付されていました。協定は加盟国間に跨る販売を抑止するために、企業間の輸出割り当てのほかに価格設定も規定していました。欧州委員会は、価格設定、国内市場の保護、輸出割り当ての分割協定は相互に補完しあうもので、重大な競争法違反であると判断しました。これは欧州委員会が制裁金の判断において違反の深刻性を考慮した最初の決定でもあります。決定に対する不服申立てにおいても、協定は、加盟国ごとに異なる製造者を保護する目的を有していると判断され、欧州委員会の決定をほぼ確認する結果になりました。

市場の地域的割当ては、販売割当、輸出、配達を通して行われます。グラファイト電極事件では、グラファイト電極製造者が市場分割、その分割された市場での割当を設定したカルテルを行っていました。欧州委員会は、割当制度の存在は、商業上の傾向を組織的に変えてしまう効果を有し、あるいはその可能性があると判断をしました。

また、欧州砂糖産業事件では、当事者がそれぞれの市場を保護するように加盟国間で砂糖取引をコントロールしていた慣行が問題になりました。加盟国間取引を回避するために、企業は、その輸入地域の生産者を通してしか供給されないようにしていました。また、この制度では、その地域で生産される砂糖と同一の価格、条件、マークでしか販売することができませんでした。欧州委員会は、これらの市場分断措置は、欧州単一市場の創設という理念に真っ向から反するとして巨額の制裁金を課しています。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会は、2007年12月21日、世界の複数の航空会社に対し、国際航空貨物事業で価格カルテルを結び、EU競争法に違反した疑いがあると指摘した異議告知書を送付しましたね。欧州委員会のプレスリリースについては、こちらから参照することができます。この件については、欧州委員会の立入調査について、既にご報告していたところです。以前の記事はこちらから入手できます。

日本航空と全日本空輸も、同日、告知書を受け取ったことを公表しました。EU競争法違反と判定されれば、各社は年間の世界総売上高の最大10%を上限とする巨額制裁金を科せられる可能性があります。

欧州委員会は告知書の送付先を明らかにしていませんが、北欧のスカンジナビア航空も受け取りを認めています。

欧州委員会はEU加盟国や米国司法省と連携し、米アメリカン航空、英ブリティッシュ・エアウェイズなどを含む米欧アジアの航空大手を対象に調査に入っていました。告知書受領者から提出される答弁書と聴聞手続を経て、欧州委員会は、EU競争法違反の事実の有無について分析を進めると思われます。欧州委員会の分析は、異議告知書の送付から6ヶ月ないし最長で1年ほどかかるものとみられます。

Reported by Dr. Inoue

国際フォワーディングカルテルの審査では、今後、答弁書が提出され、聴聞手続が実施されますが、欧州委員会の審査手続では、書面が重視され、聴聞手続は補助的な位置づけであるのが実務的な扱いです。よって、欧州委員会の異議告知書記載の事実に対して争う場合には、答弁書と証拠の提出が極めて重要です。

聴聞手続では不服申立人も意見を述べることができます。また、他の第三者も十分な正当な利益を証明できれば、聴聞の機会を認められます。欧州委員会は、意見を聞くため必要なものは誰でも聴聞に出席させることができます。

当事者は、代理人を選任することが可能ですが、原則として自分で聴聞に出席することが義務付けられています。異国の地での手続は非常に緊張するので、日本企業の担当者が聴聞に出席する場合には、十分なリハーサルが欠かせません。聴聞は公開ではありませんが、加盟国の競争当局職員も参加することが可能です。

Authored by Dr. Inoue

EU競争法において、過度に高い価格設定は、EC条約第82条違反になりえます。欧州委員会は、これまで、(1)市場における強力な地位を利用するために、企業によって設定された過度の価格、又は(2)輸入制限方法として使用される過度の価格設定が、82条に違反することを認めています。

市場における支配的地位の濫用行為としての過度の価格設定に該当すると判断された事案数は多くありません。ユナイテッド・ブランド事件では、欧州委員会は、ユナイテッド・ブランド社が、地理的市場において、差別的慣行を行ったというだけでなく、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、デンマーク、ドイツにおいてチキータバナナの販売において過度な価格設定を行ったとしました。しかし、欧州委員会の決定は欧州裁判所により無効とされました。欧州委員会の主張は、ユナイテッド・ブランド社が、アイルランドで課した価格で損失を被ったにも拘らず、非常に大きな利益を上げたことを証明しえいないと判断したのです。裁判所は、経済的価値に合理的に関連して過度と思われる価格設定は濫用になり、この過度の行為は客観的に判断されるべきであると述べています。

他方、欧州委員会は、輸入浅間方法として使用される過度の価格設定行為について、支配的地位にある企業による価格設定が消費者に対する圧力ではなく並行輸入を妨げるものであったとしても82条は適用されると判断しています。ジェネラル・モーター事件はその典型例です。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会が発表している統計資料によると、2006年以降の摘発件数及び制裁金額の高額化の傾向が顕著ですね。

欧州委員会のクルス委員は、2004年の就任以来、「カルテル撲滅」を最重要の政策課題に掲げており、統計資料は、政策方針が反映された結果といえます。また、EUでは、経済成長と雇用創出を目指すための国家戦略とも言うべき「リスボン戦略」において競争法をその重要手段として位置づけています。欧州委員会の「カルテル撲滅」という政策課題は、「リスボン戦略」による後ろ楯がある以上、当面は堅持されるであろうと予想されます。

Reported by Dr. Inoue

コーポレート・ステートメントは、申請事業者が自主的にカルテルに関する事実を申告するものであり、違反事実の自認といえます。したがって特に民事訴訟の原告を含む第三者に開示された又は開示が義務付けられた場合には申請事業者の被る損害は大きく、かかる状況が生じないようにリニエンシー告示においてはコーポレート・ステートメントにかかる保護が与えられています。

まず、コーポレート・ステートメントについては、口頭による申請が認められているのみならず、申請時になされる録音及び作成される録音内容の反訳につき、委員会の施設内で正確性をチェックする機会が与えられています。これは、米国のディスカバリー制度の適用を排除するための考慮である。

また、コーポレート・ステートメントについては、異議告知書の名宛人に対してのみアクセスが認められますが、閲覧のみが許され、当該名宛人がコピーをとることは認められません。もっとも、申請者がコーポレート・ステートメントの内容を開示した場合には上記の保護を受けることはできません。

さらに、異議告知書の名宛人への閲覧は、取得される情報を条約の競争ルールを適用する司法又は行政手続のために使用する目的においてのみ認められ 、加盟国の競争当局への送付が認められるのも、ネットワーク告示に規定する条件が満たされ、受領国において委員会と同等の保護が与えられる場合に限られます。

Authored by Dr. Inoue

送油ホース国際カルテルの件で、2007年12月3日、米国司法省は独立系コンサルタント1名とダンロップオイルの重役2名をヒューストン連邦地方裁判所に起訴し、同月12日、被告3名の英国人は、有罪答弁をしました。その結果、Peter Whittle被告は、30ヶ月の禁固刑、Bryan Allison被告は、24ヶ月の禁固刑、David Brammar被告は、20ヶ月の禁固刑に服することに同意しました。禁固刑に加えて、Peter Whittle被告及びBryan Allison被告は罰金10万ドル、David Brammar被告は7万5000ドルの罰金刑を課されることに同意しました。米国司法省は、今回の結果は、海外の競争当局との協力が結実したものであることを強調しています。3名の被告は、英国に移送され、英国企業法2002違反の容疑での公正取引局での捜査に協力し、同法違反の罪について、有罪答弁をすることが予想されます。なお、以前にお伝えしたように、米国司法省は、2007年5月2日、ヒューストンにおけるカルテル会議の後、8名の被告を逮捕しました。Manuli Rubberの重役2名は、2007年9月に起訴され、2008年5月に公判が予定されています。また、Trelleborg Industrieの2名の重役は、2007年11月、有罪答弁の合意し、それぞれ14ヶ月の禁固刑に処せられることになりました。ブリジストンの担当者を含む2名のその余の被告についての処分はまだだされていません。

Reported by Dr. Inoue

制裁金の免除の資格を得るには、事業者は、申請時から、委員会の行政手続き全般にわたり、誠実に、全面的に、継続的にかつ迅速に協力しなければなりません。協力義務を充足できないと免除を得ることができません。欧州委員会の規則によると、かかる協力は以下を含む。
①当該カルテルに関する全ての関連する情報及び証拠を保有するに至った場合又はこれらの情報及び証拠が利用可能になった場合に、これらを委員会に対し迅速に提供すること
②事実の認定に資する可能性のある委員会の任意の要求に迅速に応えることを継続すること
③委員会による、現職の(可能であれば退職後の)従業員及び取締役に対するインタビューを可能とすること
④当該カルテルに関する関連する情報又は証拠を毀損、改ざん又は隠匿しないこと
かつ
⑤申請をしている事実又は申請の内容につき、委員会が同意する場合を除き、委員会が異議告知書を発出する前に一切開示しないこと

協力は、リニエンシーの申請時から行政手続全般にわたり、すなわち、委員会が制裁金の決定(審決)をするまで継続します。

協力の態様としては、「誠実、全面的、継続的かつ迅速」な協力が求められ、協力の内容としては、(ⅰ)迅速な情報・証拠提供、(ⅱ)委員会の任意の要求への迅速な対応、(ⅲ)従業員及び取締役へのインタビューを可能にすること、(ⅳ)情報又は証拠の毀損等をしないこと、(ⅴ)異議告知書発出前の申請事実等の不開示です。

日本の欠格事由と比較すると、態様において迅速性を求められていること、(ⅲ)において報告の一形態としてインタビューが明示されている点、(ⅳ)でリニエンシー申請の事実及び申請内容の不開示が求められる点 で日本の協力義務より広範であるといえます。

また、これらの義務の主体は、「事業者」です。

したがって、個々の従業員の義務違反行為が直ちに義務の不遵守、すなわち欠格事由に該当することにははりません。

委員会競争総局も、委員会としては事業者の故意の行為につき捕捉する意図を明確にしています。

したがって、少なくとも、事業者が合理的に講じた情報等の保管措置の及ばないところで個々の従業員等が形式的には義務不遵守に当たる行為をしても、欠格事由には該当しないと解されています。

なお、個別の要件との関係で留意すべき点は以下に述べるとおりである。
①協力義務の「誠実」性
「誠実」性の要件は、欧州司法裁判所の判例上求められていることを告示の要件に盛り込んだものです。この要件は特に、申請者に対し、正確で、誤解を招きやすいものではなく、完全な情報を提供することを求めるものです。虚偽の報告又は資料提出をするような場合にはこの誠実性の要件に反する。
②従業員及び取締役のインタビューの拒否
カルテルに関与した事業者の従業員又は取締役については、別途加盟国の法律に基づき刑事罰が科され得るため、かかる刑事罰を理由にインタビューに応じることを拒絶することが考えられるが、このような場合に、事業者は欠格事由に該当することになるのか。この点、EUにおいては、加盟国の競争当局及びEUのネットワークにより違反に関する情報が提供されることが予定されているが、特に刑事罰を科される個人に関しては、情報の利用が制限されるなど一定のセーフガードにより個人の不利益に配慮されている ことから上記のような刑事罰を課されるおそれはインタビューを拒む正当事由とは考えられていません。したがって、事業者としては、従業員又は取締役がインタビューに応じない場合には欠格事由に該当するリスクがある点に留意が必要です。
③リニエンシー申請の事実及び申請内容の開示が例外的に許される場合
上記のとおり、リニエンシー申請の事実及び申請内容の開示は原則禁止されますが、「委員会が同意する場合」は例外的に開示が許容されます。この委員会による同意が問題になる場合としては、リニエンシー申請の事実の開示が法的に要求される可能性がある場合(例えば上場会社の証券取引法上の開示義務)や、第3国における文書開示(ディスカバリー)への対応などが想定されています。他国の競争当局にアプローチをすることは当然に認められるが、そのような場合を除いては委員会の同意を得ることが必要になります。

Authored by Dr. Inoue

EU競争法を前提としたリニエンシー手続で提出されるコーポレート・ステートメントとはどのようなものをいうのでしょうか。

コーポレート・ステートメントは、各証拠の説明をなし、また内部者情報として当該カルテルへのより深い洞察を可能ならしめるものとして提出が求められており、一定の事項を含まなければなりません。そして、このコーポレート・ステートメントは申請会社による自主的な陳述であり、委員会のファイル(記録)の一部を構成し、証拠として用いられます。また、手続の箇所で後述するように、書面でも口頭いずれでも可能です。

コーポレート・ステートメントに記載されるべき事柄は、以下のとおりです。
①当該カルテル合意に関する詳細な記述(目的、活動、機能等):当該カルテルの対象となった商品又はサービス、地理的範囲、当該カルテルの影響を受ける市場規模の推定;当該カルテル合意がなされた特定の日、場所、合意の内容及び参加者、並びに証拠に関連する説明
②申請をなす法人及び当該カルテルへの他の参加事業者の所在地及び名称
③申請者の知る限りでの当該カルテルに関与している又は関与した個人の名前、地位、勤務先住所及び必要であれば自宅住所
④接触中又は接触予定のEU内外の他の競争当局に関する情報

なお、国際カルテルにおいては、例えば製造業者であれば、本国の製造業者と輸出先の国における現地の販売子会社というようにグループ会社での関与が通常ですが、上記の要件該当性に関しては、被疑会社がグループ会社を形成している場合には、グループ会社群をひとつの事業者とみなして判断されることになります。

Authored by Dr. Inoue

異議告知書に対する答弁書が提出された後、所定の期日に口頭での聴聞が実施されます。

聴聞は、聴聞官(Hearing Officer)が主宰し、当事者及び加盟国競争当局の担当官が出席します。

上記の者以外にも、違反行為の申立人が書面で期日における意見表明を希望し委員会が適切であると認めた場合)、十分な利害関係を示した第三者につき期日での意見表明が適切であると委員会が認めた第三者、当該事件について書面で意見表明をなし、期日に参加を希望する第三者に口頭での聴聞において意見を述べさせる場合には第三者も聴聞手続に参加できます。

期日においては、事実及び欧州委員会の主張の要約の告知、第三者の意見陳述、当事者の主張、紙国競争当局の質問、欧州委員会及び聴聞官からの質問がなされ、通常1日で終了します。

聴聞官には独立性が保障されています。しかし、欧州委員会の職員であることには変わりはなく、聴聞手続は当事者主義的なものではなく、糾問的な手続です。したがって、民事訴訟の口頭弁論におけるような反対尋問を含む証人尋問のような場ではありません。委員会の事実認定は原則として書面主義であり、聴聞手続は、デュー・プロセスの原理に基づく防御権を直接主義の観点から補完する手続と位置づけられています。

聴聞の実施後、委員会は決定案の諮問委員会への諮問を経て制裁金について正式な決定をします 。聴聞手続は、異議告知書の送付から原則半年、長くても1年以内に終結し、正式な決定がなされます。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会による審査手続の概要は、独占禁止法下での概要と似ていなくもありません。

欧州委員会は、①欧州委員会からの委任により、又は②委員会の決定により、立入検査(具体的には敷地・施設等への立入、帳簿その他の営業に関連する記録の検査、これらの記録のコピー又は抜粋の取得、検査に必要な限りでの設備・記録の封印、事業者の従業員やその代表者に対する質問)を行うことができます。

また、重大な違反行為の立証に関連する記録が存在するとの合理的な疑いがあれば、委員会は、役職員の自宅を含む他の施設・土地等につき決定により立入検査を行うことができます。実際、役員の自宅や自家用車の中にまで立入検査が実施された例があります。

①は加盟国への事前の通知により可能であり、検査に応じないこと自体につき制裁金は科されません。②は加盟国との協議により実施し、検査に応じない場合には制裁金が科されます 。また、その実施の決定は、控訴裁判所の司法審査に服する。①か②かの選択は委員会に委ねられています。

さらに、決定による場合、決定で定める範囲で、調査に協力する義務を負っており、事業者の従業員やその代表者に対する質問にも誠実に答えなければならず、回答が不完全であったり、回答を拒絶すると制裁金が科されることとになります。特にカルテル事件の場合には、このような検査に対する非協力的な態度は回答拒絶等による制裁金の不利益にとどまらず、カルテルに対する制裁金の増額事由となりうるので、厳に慎まなければなりません。

上記いずれの検査であっても、それ自体としては直接的な強制手段は認められていませんが、検査実施国の国内法に基づき警察等の助力を得たり、裁判所の令状を得て検査を行うことが可能です。

なお、欧州においては弁護士の立会権は認められていますが、立入検査開始の要件ではないため、特に事業者が法務部門を有している場合には弁護士の立会なしに検査が開始されるのが通常です。また、欧州においては、弁護士・顧客間の通信文書の秘匿が認められていますが、秘匿に対象となることを主張しなければ本来手元に残るべき書類までも押収されます。

欧州委員会による立入検査は、一般に、dawn raidと呼ばれていて、多くは、早朝、実施されます。欧州では弁護士事務所のみならず、dawn raidへの対応を専門に請け負っているコンサルタントまでいます。それほど、dawn raidへの適切な対応は重要性が認められているのです。

他方で、情報請求は、立入検査と同様、①単に任意の請求をするにとどまるものと②制裁金による間接強制が可能な決定によるものがあります。情報請求は書類の提出のみならず質問への回答を含みます。また、欧州外の書類・情報についての請求も対象となります。また、特に②の請求に関しては、その拒絶等非協力的な対応が制裁金の増額につながります。特に注意を要するのは、情報提供は通常、違反行為の当事者以外の者に対してなされますが、例えば調査対象事業者の競争事業者として情報請求を受けたが、調査の進展に伴い、調査の対象とされることがあることです。このような場合には当初に非協力的な対応を取っていたために後に制裁金が増額することとなりかねません。したがって、情報請求を受けたにとどまる場合でも、並行して違反事実の有無の調査が必要となります。

2003年理事会規則1号により、同意を要する任意ベースではありますが、個人又は法人(の役職員)にインタビューして調書を作成することが認められるようになりました。インタビューの冒頭では、インタビューの法的根拠、目的、インタビューを記録する旨、回答が任意である旨を通知されます。インタビューは記録され、記録のコピーについては、インタビューされた者により一定期間内にその正確性の確認を要することとされていますが、実際には、米国のディスカバリーの対象とならないよう、録音機による録音の手法がとられるのが一般です。

Authored by Dr. Inoue

EUにおいては、EC条約81条又は82条違反の事件の処理のために、欧州委員会と各加盟国の当局との間又は各加盟国の当局間で、収集・取得した情報及び資料の交換が予定されています。

リニエンシーの申請に際し違反事実及び証拠を提出して当局に協力した申請事業者のインセンティブを確保し、カルテル摘発の実効をきたす目的からは、違反企業の役職員といった個人につき、刑事処分の端緒となる資料が欧州委員会から加盟国の当局に対して提供されないことが重要といえます。

2003年理事会規則1号12条3項においては、個人に刑事罰を科すための証拠として情報等を提供することが認められるのは、①情報等を送付する当局の法律がEC条約81条若しくは82条違反に関し、同種の刑罰を予定しているか、又は②当該個人の防御権につき、情報等受領当局の国内法規において認められているのと同様の水準が確保されている方法で収集された場合(身体的拘束による刑罰を科すために使用する場合は情報等の提供は認められない。)に限ると規定されています。そして、欧州共同体においては、EC条約及びこれに関連する規則においては刑事罰は予定されておらず、欧州共同体における情報等取得時に受領国における刑事手続上必要とされる手続的保障と同等の保障が与えられているかにより、罰金刑目的で情報等の提供が認められるかが決せられることになります。

Authored by Dr. Inoue

事件記録の閲覧謄写は、公正取引委員会や連邦取引委委員会での手続同様、欧州委員会での手続でも非常に重要です。

欧州委員会による競争法の運用実務においては、被疑事実が詳細に記載された異議告知書が名宛人に送付されますが、それだけでは手続保障の観点からは十分ではないと考えられています。

すなわち、武器対等の原則及び防御権の保障の観点から、異議告知書に対して十分に反論をするには、委員会が異議告知書という形で示された暫定的な結論及びそれに至った過程をチェックすることが必要であり、そのために、一部の例外を除き、異議告知書の名宛人に対して、異議告知書の送付後に、委員会記録の全ての文書にアクセス(閲覧謄写)が認められています。

このような委員会資料の全面的な開示により、その後の争点の明確化が迅速になされることになります。ここに、「委員会記録」は、検査手続の期間を通じて欧州委員会競争事務総局が取得、作成又は収集した全ての文書であり 、電子情報も含む趣旨です。上記のとおり防御権保障の観点からは、記録中の全てのファイルにつきアクセスが認められるべきですが、他方で、事実認定の基礎とはならない文書や事業者の秘密にまで及ぶ資料の開示を認める場合にはそれに伴って生じる弊害の方が大きい場合もあり得ます。そこで、これまで判例上閲覧謄写が認められていない①内部文書 、②営業秘密 、③その他の秘密 に関する事項については、閲覧謄写はできないこととされています。委員会に対して情報を提出する者は、情報に②又は③の秘密情報が含まれている場合には、理由を付して秘密情報と考える部分を特定して非秘密版(non-confidential version)の資料を別途作成しなければなりません。しかし、この閲覧謄写の例外も自動的に認められるわけではなく、②及び③の類型は客観的な根拠に基づく申立(Confidentiality Claim)により委員会が認めた場合に限られます。また、5年以上前の経営情報や第三者に開示しているような情報については秘密とは認められません。さらに、当該情報が違反事実又は違反でないことの立証に不可欠な場合で、防御権保護の利益が秘密保護の利益を上回る場合にはなお、閲覧謄写が認められます。閲覧謄写の申請があった場合には、委員会は委員会記録の文書のリストを提供するとともに、CD-ROMその他の電子的記録媒体、コピー又は委員会の施設内でのアクセスのいずれかの方法でアクセスを認めるが、異議告知書を発出する際には、リニエンシー申請時のコーポレート・ステートメントを除き、CD-ROMにより提供されるのが一般です。閲覧謄写が認められた資料の用途については、関連する行政手続で問題となっている競争ルールを適用する司法又は行政手続で使用することに限定されます。

なお、上記のように原則として、このような委員会記録の全面的な開示が認められるのは異議告知書の送付後のタイミングで、異議告知書の名宛人に限られるが、例外的に違反行為の申告者につき、その申告が委員会により拒絶された場合に当該申告者に対して委員会記録の開示が認められます。

Authored by Dr. Inoue

マイクロソフト事件でも問題になりましたが、市場における支配的地位の認定は、EC条約第82条の適用において大きなポイントを占める論点であり、市場の支配的地位の認定する際に最もポイントになるのが関連市場の確定です。この分析の手法は、米国反トラスト法及び独占禁止法と変わるところがありません。

欧州司法裁判所によると、企業によって占められる市場の大きさが市場の重要部分を獲得する場合のみ、支配的な地位の認定ができるとし、3年間75から87%の市場占有率を占めることは市場において支配的地位を占めていることの裏づけになると判示しています。また、市場占有率が著しく高いことは、それ自体例外なく支配的地位となる50%の占有率はその良い例であるとしています。

市場占有率がそれ自体、支配的地位の存在を推認させるのに不十分である場合には、欧州委員会は他の基準により、他の要素を考慮する必要があります。例外的な場合を除いて、10%の市場占有率が支配的地位を推認させることはなく、他方で、20から40%の市場占有率は支配的地位の推認を排除しません。支配的企業によって占められている関連市場は、その競争者の市場との比較という視点も必要になります。欧州裁判所は、ある企業の市場とその競争者の占有市場間に格差が大きい場合には支配的地位の存在を認定しています。

欧州委員会は、時折、市場を、特定製品の一部に認めるなど、非常に狭く確定している。関連市場が狭く確定されているという事実には注意が必要である。必然的に市場占有率が高めに認定される可能性が高まるからである。代替性分析の認定傾向は、米国よりも厳格というのが、一般的な傾向です。

Authored by Dr. Inoue

日本航空が燃油価格高騰に対応して、国際貨物の通常運賃に上乗せする燃油特別付加運賃を他社と共謀し決めていたとして、2006年2月に米司法省などから米国支店の貨物事業所などが立ち入り捜査を受けたことは記憶に新しいですが、欧州委員会も、国際貨物フォワーディングに関するカルテルについて調査を開始しましたね。欧州委員会のプレスリリースについては、こちらから入手できます。

Authored by Dr. Inoue

欧州における事前聴聞手続は異議告知書の送達から始まります。

異議告知書の記載事項については、2004年委員会規則773号10条が、関係当事者に関する被疑事実を書面上記載することを求めているのみでその他については特段規定されていませんが、決定で記載する本質的事実及び法令の適用が記載される必要があり、被聴聞者が防御するのに十分な情報を提供することを要するとされています。

すなわち、被聴聞者が十分な反論を尽くし、防御をなすには、被疑事実を含む関連する情報が異議告知書という形で書面上記載されていることが必要です。また、その裏返しですが、委員会は、異議告知書に記載され、被聴聞者が十分にコメントすることができた被疑事実についてのみ決定において取り扱うことができます。かかる観点から、通常、異議告知書においては、リニエンシーを利用する場合であれば、申請者が提供した情報及び証拠を基に、第三者の申告に基づくものである場合には、申告者が提供した情報及び証拠を基に非常に詳細な事実を認定・記載し、認定に用いた証拠を認定事実との関連を示しつつ脚注で参照します。このような詳細な事実の記載は、防御権への配慮という点からも説明できるものですが、他方で、委員会の決定の過程における書面主義という点も指摘できます。委員会の事実認定は異議告知書という暫定的なものですが、調査手続により収集した書証、物証を中心になされ、聴聞は、民事訴訟における証人尋問とは異なり反対尋問権が保障された場ではなく、むしろ反論を陳述する補完的な場であると位置づけらています。

異議告知書は違反事実を行ったと委員会が認定した者に送達されます。

そして、異議告知書の名宛人は一定期間内に、記載された被疑事実に対する防御に関する事実を答弁書に記載して、当該事実を立証する証拠とともに提出することができます(異議告知書においては、答弁書の提出期限及び聴聞の予定期日が併せて記載されています。)。この場合、特に問題となるのは、リニエンシーの申請をしなかった違反行為の当事者である。答弁書を提出するまでの期間は、事案の複雑さ等により異なるが、通常、6週間から3ヶ月と短期間です。しかし、当該事業者としては、事件の見通しを立てた上で、詳細な社内調査及び後述の膨大な委員会記録の精査を実施し、最終的なスタンスを決定しなけければなりません。既に述べたように、異議告知書においてはリニエンシーの申請者からのそれなりに有力な証拠を基に詳細な事実が既に認定され、しかも委員会の事実認定は書面主義が基本であることを踏まえると、制裁金の増額事由である検査への非協力に該当せずに異なる事実を主張するには、証明力の高い証拠によることが必要であり、そのためには認定の基礎となった証拠の証明力の精査、詳細な社内調査の実施が必要となります。また、争う事実の事件全体から見た重要性(事案の性質や関与の在り方を根本的に変える事実であったり、制裁金の増減要素に関係する事実か否か)の評価も必要になります。さらに、委員会記録の証拠関係からして、行政処分の段階のみならず後の裁判の段階になった場合の見通しまで必要になるケースもあります。そして、仮に事実の多くを争う方向性であるならば、書面で反論をする機会は基本的には答弁書の提出に限られるのであるから、詳細な反論とそれを裏付ける証拠の提出を答弁書提出のタイミングで行うことが必要となり、必然的に詳細な社内調査の実施と証拠の洗い出しが必要となります。これらを上記の短期間に実施するのは非常に大変な作業であり、現地の弁護士事務所とスムーズに連絡を取れる体制を確保しつつ、共同して作業をしなければなりません。この点においてもリニエンシーを積極的に活用することの重要性が現れているといえます。

Authored by Dr. Inoue

EU条約第81条第1項の適用可能性を分析する上で、関連市場の確定は不要では在りません。デ・ミニマス・ドクトリンの適用可能性を分析する上で、関連市場の確定はその理論的前提を形成していることを看過してはいけません。関連市場の確定においては、米国における伝統的な関連製品の代替性分析の方法が取られています。なお、企業結合規制の際にはSSNIPテストが主に採用されています。欧州委員会は、1997年に81条分析に関する関連確定市場についての告示を発表しています。

Authored by Dr. Inoue

オペラソフトウエアが、欧州委員会に対して、マイクロソフトの市場支配的地位の濫用行為について是正を申し立てました。実際に濫用行為が認定されるかどうかはわかりませんが、市場において影響力のない企業が、競争法を使って、市場において支配的な地位にある企業の行為を提訴する、いうなれば競争法を自社の競争力を拡大するための手段として使うという使い方は、今後も増えると思われます。市場において支配的な地位にある、あるいは有力な参加者として認識されている企業は、どのような事実と証拠が、競争法違反に該当するとして提訴の対象になるのか分析し、競争法に対する防波堤の建築を進める必要があるように思います。

以下、日本経済新聞からの引用です。

『インターネット閲覧ソフト開発のオペラソフトウエア(本社ノルウェー)は13日、米マイクロソフト(MS)が基本ソフト(OS)市場での独占的地位を乱用しているとして、欧州委員会に是正を申し立てたと発表した。MSが自社ブラウザーを切り離してOSを販売することや、競合ブラウザーをあらかじめOSに組み込むことなどを求めた。MSは10月、独禁法違反を巡り欧州委が2004年に出した是正命令の完全順守を表明したばかり。米メディアによると欧州委はオペラの申し立てへの対応を慎重に検討する。調査会社のまとめでは、ブラウザーの世界シェアはMSの「インターネット・エクスプローラ」が85%程度で首位。オペラは1%未満という。』

Dr. Inoue

欧州競争法におけるカルテル規制を分析する上で、スタート地点は、常に、何が、違法な「協定」に該当するかで、これはシャーマン法第1条、あるいは独占禁止法第3条後段に基づきカルテル規制への該当性を分析する態度と基本的に異なることがありません。

初期にはEC条約第81条第1項上の協定とは私法上の契約を意味するという見解も見られましたが、70年代以降、私法上の契約である必要はなく、当事者の一方が意図的に他方の行動の自由を制限することで足りると判断されるようになりました。欧州第一審裁判所は、判例により、81条第1項の協定の定義は、少なくとも2当事者の意思の一致をいい、意思表現方法は重要ではないという解釈を示しています。例えば、市場である行動をとったり、そのような行動をとる意思を示したり、暗黙に承認するという単なる事実が市場での共通行動をとる企業間の協定締結と考えられるのです。このような、いわゆる、暗黙の協定が協定に該当し、81条第1項に該当するという結論には十二分に注意する必要があります。81条第1項でいう協定は、必ずしも国内法でいうところの協定や、法的に拘束力を持つものである必要はありません。裁判所と欧州委員会は、紳士協定であっても81条第1項の協定に該当するのに十分であると考えています。同様に、プロトコールも当事者間の同意を示すものとして協定と考えられます。協定が署名される必要もなく当事者の意思表現は口頭でも足ります。

第一審裁判所は、効力をもはや持たない協定でも、表向きの契約終了にも拘らず、その効力が常に継続していることで、81条第1項が適用されると述べています。また、シャーマン法第1条および独占禁止法第3条後段と同様ですが、EC条約第81条第1項も、水平的協定のみならず垂直的協定がその規制対象に含まれます。

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欧州委員会は、審査中に収集した情報を、令状や決定に記載された目的以外に使用してはなりません。しかし、Dow Benelux事件によると、欧州委員会が、ある製品についての事件審査中に得た他の製品についての情報をこの製品の審査を開始するために用いることを禁止するのは、職業秘密と防御権の範囲を超えるものであることを指摘してしており、注意が必要です。

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EU競争法上、水平的協定に対するレギュレーションを提供するのはEC条約第81条です。欧州委員会は、EC条約第83条に基づき、同第81条第1項に違反する罰則および制裁を定め、また同第81条第3項に基づく免除の運用規則を制定する権限を有しています。EC条約第81条の規定は以下のとおりで、欧州における水平的協定に対する規制を分析する上で、一読の必要があります。
『1 構成国間の取引に影響を及ぼす恐れがあり、かつ共同市場内の自由競争の阻害、制限または歪曲することを目的とするかまたはそうした結果を生ずる、特に次のものを含む企業間の、協定、事業者団体の決定、および協調的行為は共同市場と両立せず、禁止される。
(a) 購入価格、販売価格、その他の取引条件を直接または間接に設定すること
(b) 生産、販路、技術開発または投資を制限または統制すること
(c) 市場または供給源を分割すること
(d) 取引の相手方に対して、同等の給付に異なる条件を適用し、その結果、当該相手方を競争上不利な立場におくこと
(e) 契約の性質上または商慣習上、契約の対象と関連のない付加的義務を相手方が受諾することを条件として契約を締結すること
2 本条の規定により禁止される協定または決定は、当然に無効である。
3 ただし、第1項の規定は、次のいずれかに該当する場合には適用できないことを宣言することができる。
(a) 事業者間の協定またはこれと同種のもの
(b) 事業者団体が行う決定またはこれと同種のもの
(c) 協調的行為またはこれと同種のもの
であって、製品の生産もしくは流通を改善しまたは技術的もしくは経済的進歩を促進することに寄与し、かつ、その結果生ずる利益が利用者に公正に与えられること。ただし次のものを除く。
(i) 前記の目的の達成に不可欠でない制限を関係事業者に課すもの
(ii) これらの事業者に、当該製品の主要部分に関し、競争を排除する可能性を与えるもの』

Authored by Dr. Inoue

制裁金免除の扱いを受けるためには、申請企業は以下の要件すべてを満たす必要があるとされていました。すなわち、
①申請企業は、以下の2つの場合のうちのいずれかに該当すること。すなわち、第1は、欧州委員会による正式な調査開始を可能にする証拠を最初に提出する申請企業であること。実務的には、免除申請をする多くの企業がこの類型に該当しました。第2は、委員会による違反行為の発見を可能にする証拠を最初に提出する申請企業であること。実務的には、第2類型に該当するのは、容易ではありませんでした。いずれの場合でも、申請企業は、最初に、欧州委員会に申し出た企業でなければなりません。②すべての情報、すべての文書、カルテルについての利用可能な証拠を委員会に提供し、調査期間中継続的で完全な協力を維持すること。③遅くとも申請企業がカルテルへの関与を申し出たと同時に違法行為への関与を終結すること。④当該企業がカルテル参加を他の事業者に強制していないこと。

上記の各要件をすべて充足する申請企業に対しては、制裁金の免除という効果が当然に与えられます。かかる効果が与えられるか否かについては、欧州委員会の裁量に左右されません。

仮に免除の要件に該当しない場合でも、欧州委員会に対して、重大な付加価値(significant added value)を有する証拠を提出した場合で、かつカルテルへの関与を申し出た時点で違法行為を終結している場合には、以下のような順序により、制裁金が免除され得ることになります。条件を満たしたとしても、制裁金の減額という効果を受けることができるか否かは、欧州委員会の裁量によることになります。①最初の申請企業に対しては、30パーセント~50パーセントの減額、②2番目の申請企業に対しては、20パーセント~30パーセントの減額、③2番目以降の申請企業に対しては20パーセント以下の減額という順番と割合で減額がなされ得ることとされました。2002年告示によると、付加価値(added value)とは、申請企業により提供された証拠が、その性質上、欧州委員会が問題となっている事実を証明する際の証明力を高めることであるとされていました。かかる精査において、欧州委員会は、通常、関係のある事実が発生した時期に作成された書面は、後に作成された書面よりも価値が高いと考えるとされ、同様に、欧州委員会は、問題となっている事実に直接関連する証拠は、間接的に関連する証拠と比較して価値が高いと考えると明記されていました。2002年告示によると、上記①から③までのそれぞれにおいて、どの程度の減額が認められるかにつき、欧州委員会は、重大な付加価値(significant added value)という要件を満たすに足りる証拠が提出された時期、付加される価値の程度、申請企業により証拠が提出された後の調査への協力の程度および継続性等の事情を考慮するとされ、なお、仮に、申請企業が提供した証拠が、欧州委員会が知らなかった事実と直接の関連があり、しかもかかる事実が、カルテル行為の重大性と継続性に直接関連する事実を示唆するものであったとしても、2002年告示上、欧州委員会は、証拠を提供した申請企業に対する課徴金の金額を決定する上で、かかる事実については考慮しないとされていました。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会の制裁金を課す権限は、手続違反については3年、競争法違反については5年です。時効は、違反が犯された日から進行します。しかし、継続あるいは反復する違反については、違反が終わった日から進行します。時効は欧州委員会の情報請求、立入調査、手続開始、異議告知書の送付などの審査の意図や違反の追及行為により停止します。停止は時効の停止行為が違反企業の一社のみを対象にしたものであっても、全ての違反企業に対して停止するものとみなされます。時効は、停止した後も新たに進行することがありますが、もし欧州委員会が、制裁金や履行強制金を宣言しなかった場合は、最長でも時効期間の2倍の期間が経過した日に執行します。また、時効は、裁判所に事件が継続している間は執行します。

制裁金および履行強制金についての時効は5年で、決定が最終的に出されてから進行します。時効は、欧州委員会が制裁金や履行強制金の金額を変更したり、そのような変更が要請された際に欧州委委員会がその要請を拒否した場合、制裁金やり履行強制金の取立てを求める欧州委員会の行為があった場合に停止します。時効は、支払猶予が認められた場合や、欧州第一審裁判所によって、強制執行が猶予されている場合にも停止します。

Authored by Dr. Inoue

EC条約第81条第1項の文言上、企業間の協調的行動は、広くその適用対象となります。

その結果、同条項の文言による限り、同第2項に基づき、企業間のほとんどの協調的行動が無効となります。しかし、企業間の協調的行動のすべてを無効とすることは、経済的実情にそぐわないものです。EU競争法は、このような事態を避けるための方策として、反トラスト法における合理の原則を採用するという方法をとらず、EUに特有の適用除外審査基準を採用しています。すなわち、欧州委員会は、競争制限的効果が、知覚できる(appreciable)程度に達しない協調は違法としません。この知覚できる程度という要件は、デ・ミニマス・ドクトリン(de minimis doctrine)として広く認知されています。欧州委員会は、1970年に、小さい契約に関する告示を出して、デ・ミニマス・ドクトリンの内容を明確化しました。その後、当該告示は、数回改定されています。2001年版のガイドラインでは、以下のようにその要件を定めています。
① 競争関係にある企業の間での契約については、関連市場における契約当事者の市場占有率の合計が10パーセントを超えないときは、EC条約第81条第1項の対象とはしない。
② 競争関係にない企業の間での契約については、関連市場における各契約当事者の市場占有率が15パーセントを超えないときは、EC条約第81条第1項の対象とはしない。
③ ただし、累積的な取引排除の効果があるときは、競争関係のあるなしにかかわらず、契約当事者の市場占有率の上限は5パーセントとする。

Authored by Dr. Inoue

2007年1月24日、欧州委員会は、ガス絶縁開閉装置(Gas Insulated Switchgear/GIS)の市場でカルテルを結んでいたとして、日本企業を含む11企業グループに対し、総額約7億5000万ユーロ(1ユーロは155円)の支払いを命じました。11社はABB、アルストム、アレバ、富士電機、日立製作所、日本AEパワーシステムズ、三菱電機、シュネデール、シーメンス、東芝、VA テックでした。ガス絶縁開閉装置は、配電網における電流調節に使用される重電機で、ターンキー方式で建設される変電所の重要な設備です。本件は、関与企業の1 社であるABB が自首減免(リニエンシー)制度1を通じて通報を行ったことが摘発のきっかけとなったものです。欧州委員会はABB が提供した多数の内部資料や企業情報、抜き打ち査察で押収した資料に基づき制裁を決めたが、決定的証拠として1988年に関与企業間で交わされたカルテルの合意書2点が見つかっており、カルテルの存続期間全体にわたる証拠資料は約2万5000ページに及んでいます。EU側のカルテル関与企業は、1988年から2004年にかけて、調達入札の不正操作、価格固定、プロジェクトの受注割当、市場分割、機密情報の交換などを行っていました。受注するプロジェクトを各社間で割り当て、これに応じてプロジェクトを受注できるよう入札調整を行っており、事前に最低入札価格を合意するケースもあった。方針や戦略は管理職レベルで定期的な会合を持って決められ、プロジェクトの割当や偽造入札の準備などの実務は下位レベルで行われていました。また、連絡を取り合う場合は、企業や個人を特定できないようコード名を使用し、Eメールも暗号化して会社や自宅のほか、すぐに個人との関連が分かるようなコンピューターから受送信することは固く禁じられていたものです。こういった周到さを欧州委員会は悪質とし、違反の重大性と結びつけました。このケースで制裁金を科された日本企業5社は、実際には偽造入札や価格操作には参加しておらず、欧州では1988~2004年の当該製品納入実績もほとんどないとされています。それにもかかわらず、欧州委員会が巨額の制裁金を科したのは、同カルテルでは「日本企業は欧州での入札を手控え、欧州企業は日本市場に参入しない」という合意があったと判断したためです。日本企業が合意の上でEU市場に参入しなかったこと自体が国際的カルテルへの参加であり、本来ならばEU 市場に生じていたはずの競争の阻害に加担した日本企業の罪は重いとみなされました。カルテル制裁金の額は、当該製品のEU市場の規模や、カルテルの存続期間、参加企業の世界売上高などを踏まえて決められるが、欧州委員会は今回のカルテルを、EC条約第81 条の独占禁止規定2に対する極めて深刻な違反行為と受け取っており、これが制裁金の額に表れたものです。シーメンス(オーストリア)、アルストム、アレバの3社に対する制裁金は、主導的立場であったとして通常の制裁金5割増しとなり、また、シーメンス(ドイツ)に科された約4億ユーロの制裁金は単独企業に対する制裁金としては当時の過去最高となりました。ABB に対しても繰り返し違反者として、上述3社同様の措置が取られるところでしたが、欧州委員会への通報と情報提供を行ったことで自主減免措置が適用されて約2億1500万ユーロ全額が免除される結果となりました。日本企業については、世界売上高の10%を最高とするという欧州委員会の規定から、実際に欧州市場で販売実績がほとんどないにもかかわらず、欧州企業を上回る制裁金支払いを命じられた企業もあります。欧州委員会は執行の対象を価格カルテルの摘発に照準を合わせているといわれていますが、この事案は、市場分割カルテルで、欧州での売上実績のない場合でも欧州委員会の摘発の対象になることを改めて示したといえます。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会は2007年2月21日、ベルギー、ドイツ、ルクセンブルク、オランダの4カ国において、昇降機(エレベーターとエスカレーター)の設置・メンテナンスでカルテルが結ばれ、明らかなEC 条約第81条の侵害があったとして、オーチス、コネ、シンドラー、ティッセンクルップの4企業グループに対して総額9億9200万ユーロの制裁金を科す決定を下しました。また、4グループの関連会社16社に並んで、オランダでのカルテルに関わっていたとして三菱エレベーターB.V.の名前が挙げられました。17社は、1995年から2004年にかけて、病院や鉄道駅、ショッピングセンター、商業ビルなどに設置されるエレベーターとエスカレーターの販売・メンテナンス・設備近代化のための調達などで談合し、契約受注を企業間で割り当てていたほか、入札のパターンや価格など商業上の機密情報をカルテル参加企業間で交換していたのです。受注割当の方法は4カ国で類似しており、相互に入札の内容を知らせあって事前に合意した割当に沿って調整し、競争があると見せかけるため、落札しない予定の企業が高額で入札に参加していました。また、ドイツとオランダでは、特定の顧客と長期的な関係や良好な関係にあった企業が、顧客企業の契約のほとんどを得る「既存顧客維持原則」と呼ばれる合意がありました。4カ国とも、各国の取締役や販売・サービス担当役員、カスタマーサービス部長など、上級管理職が定期会合を開いて協議を行っていました。これらの企業はこのような行為が違法であることを認識しつつ、発覚を防ぐためバーやレストランなどの公衆の場や地方、海外で会合を開いたり、プリペイド式携帯電話カードを使用するなどの手立てを取っていた証拠が見られます。

このケースでは、コネ・グループのベルギー法人とルクセンブルク法人が最初に欧州委員会に情報提供を行ったため、100%の自首減免措置を受けています。ティッセンクルップに関しては、繰り返し違反者であることから同グループ関与4社ともに50%が上乗せされ、総額で4億8000万ユーロを科されました。17社合計での制裁金は約9億9200万ユーロと、EU で単独のカルテルに対する制裁金としては過去最高額となりました。このケースでは、欧州委員会は、実際にカルテルに関与したのが現地子会社だけであっても、グループ親会社にも連帯で責任を求めている。欧州委員会はこれまでの判例に基づき、グループ内で親会社が子会社の商業上の行為に対して決定的な影響力を行使している場合、両者が同じ事業体の一部を成しているとみなしており、特に100%子会社の場合では、親会社は子会社に対して決定的な影響力を行使していると自動的に仮定されています。このため、カルテルの違反行為とこれに伴う制裁金に対する法的責任は、実際にカルテルに参加した子会社だけでなく、カルテルの認められた時期に子会社の事業行為に決定的な影響を及ぼしていた親会社にもあるとみなされます。

Authored by Dr. Inoue

欧州第一審裁判所に対する取消訴訟の提起は、欧州委員会の決定に対する停止の効果はありませんが、第一審裁判所は、場合によっては、このような効果を認めることがあります。裁判所は必要な暫定措置を取ることもできます。そのため、申立人は、暫定措置を、裁判所に申請することができますが、最終的な判決を害するような法や事実をゆがめる行為は許されません。また、主要な手続が継続中の場合にのみ申請することができます。執行猶予や暫定措置を申請するためには、申立人は、以下のような条件を満たす必要があります。すなわち、①緊急性が認められること。すなわち、重大で回復不可能な損害を避けるために措置が必要であることの証明、②申立人は、執行猶予や暫定措置がとりあえず正当化される事由を述べること。すなわち、全く根拠のない主張ではないこと、および③裁判所が関係者の利益のバランスを考慮し、措置が適切であると判断することがその条件です。

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聴聞手続

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企業は、書面と口頭により、欧州委員会の異議告知書に対する企業の見解を明らかにする権利を有しています。不服申立人も、当事者の聴聞の際に意見を述べることができます。また、他の第三者も十分な正当な利益を証明すれば、聴聞の機会を認められます。欧州委員会は、さらに、意見を聞くために必要なものは、誰でも聴聞に出席させることができます。聴聞は地位の独立を保証された聴聞官によって行われ、この聴聞官は、競争担当欧州委員会委員に直属します。当事者は、弁護士によって代理されることが可能ですが、原則として自分で聴聞に出席することが義務付けられています。聴聞は公開ではありませんが、加盟国競争当局職員も参加することができます。

Authored by Dr. Inoue

欧州第一審裁判所判決は、法的事項についてのみ、欧州司法裁判所への上告の対象になります。当事者は、裁判所の権限、手続違反、EU法違反を理由として上告することができます。上告は判決が通知されてから2ヶ月内に提起されなければなりません。この期間は距離により延長されることがあります。

Authored by Dr. Inoue

日本のゼオン社の子会社であるゼオンケミカル社は、2005年1月12日、自動車部品製造などに使用されている合成ゴムを巡る価格カルテルに参加したことを認め1050万ドルの罰金支払に合意しました。

ゼオンケミカル社は、米国ケンタッキー州に本拠を置き、ゼオン社の完全子会社です。合成ゴムの正式名称は、アクリロニトリル・ブタジエンで、ホース、ベルト、ケーブル、円形リング、シール、粘着性物質、およびシーラントなどの製造に使用されています。サンフランシスコ地方裁判所に提出された訴状によると、2002年5月から2002年12月の間、ゼオンケミカル社は、他社と共同して米国およびその他の地域において合成ゴムの価格カルテルを締結したとされていました。米国司法省は、ゼオンケミカル社が、米国およびその他の地域において販売される合成ゴムの価格を議論する会談および会合に参加し、それらの会議および会合で、米国およびその他の地域において販売される合成ゴムの価格を維持および引き上げることに合意し、および当該合意に従い価格を公表したと主張したのです。

サンフランシスコ地方裁判所の承認が義務付けられている有罪答弁協定書において、ゼオンケミカル社は、米国司法省の継続中の捜査に協力すると約束しました。ゼオンケミカル社は、有罪答弁協定書を同社のウェブサイトに掲載し、1050万ドルの罰金支払を第3四半期の連結財務諸表において損失として計上すると述べました。ゼオンケミカル社は、2004年8月22日以前に行われた違反行為に対してシャーマン法第1条に違反したとして提訴されたものでした。

本件提訴は、米国司法省反トラスト局サンフランシスコ市フィールド・オフィスおよび連邦捜査局サンフランシスコ市オフィスが継続して行ってきた捜査の結果が結実したものでした。

Authored by Dr. Inoue

1999年に日本電気と日立製作所のDRAM事業を統合する形で発足したエルピーダ社は、DRAMを巡る国際カルテルに参加したことを認め、2006年1月30日、8400万ドルの罰金の支払に同意しました。エルピーダ社の元重役のジェームズ・ソガス氏も、米国で7ヶ月の禁固刑および25万ドルの罰金の支払に合意しました。

上記に関する提訴も含め、4社および5名がDRAMを巡る国際カルテルに参加したとして提訴され、総額7億3000万ドルの罰金が支払われました。サンフランシスコ地区地裁に提出された訴状によると、1999年4月から2002年6月の間、エルピーダ社は、他のDRAM製造業者と共謀して一定のコンピューターおよびサーバー製造業者に販売したDRAMの価格を設定したとされました。当該国際カルテルから影響を受けた企業は、デル社、コンパック社、ヒューレーットパッカード社、アップル社、IBM社、およびゲートウェー社でした。

さらに、2002年3月、エルピーダ社は他のDRAM業者と共同してサンマイクロシステムズ社が発注した1ギガバイト・次世代の電極2列が並んだメモリー・モジュール1ロットの入札において談合しました。サンフランシスコ地区裁判所の承認が義務付けられている本件有罪答弁協定書に基づきエルピーダ社は他のDRAM製造業者に対する米国司法省の調査に協力しなければならないとされていました。

 DRAMは、もっとも一般的に使用されている半導体メモリー部品であり、コンピューター、電気通信、および家庭電器に電子情報の高速保存および抽出機能を提供しているものです。DRAMは、パソコン、ラップトップコンピューター、ワークステーション、サーバー、プリンター、ワークステーション、サーバー、プリンター、ハードディスクドライブ、電子秘書、モデム、携帯電話、電気通信ハブまたはルーター、デジタルカメラ、ビデオ・レコーダーおよびテレビ、およびゲーム機器などに利用されています。米国におけるDRAM販売は、2004年、約77億ドルでした。エルピーダ社は世界第5位のDRAM製造業者でした。

訴状によると、エルピーダ社は、米国およびその他の地域で競争者と共同して一定の顧客に対して販売したDRAMの価格を交渉する会議、会話、およびコミュニケーションに参加し、それらの会議、会話、およびコミュニケーションで一定の顧客に一定水準の価格を課すことを合意し、当該合意に基づく価格クォートを発し、合意された価格の遵守をモニターおよび実施するため、一定顧客に対し販売したDRAMの情報を交換することにより、価格協定を実施しました。

また、訴状によると、エルピーダ社は、米国およびその他の地域でサンマイクロシステムズ社が発注する1ギガバイト・次世代の電極が2列並んだメモリー・モジュール1ロットをそれぞれで受注調整する会議、会話およびコミュニケーションに参加し、それらの会議、会話およびコミュニケーションでサンマイクロシステムズ社が発注する当該ロットを受注調整することに合意し、当該合意に基づき、サンマイクロシステムズ社の発注を受注調整し、サンマイクロシステムズ社に対して競争的価格を奪い、サイマイクロシステムズ社が発注する当該ロットの入札の受注予定者を議論する会議、会話およびコミュニケーションに参加し、それらの会議、会話およびコミュニケーションで受注予定者が受注できるように協力すること合意し、また当該ロットに対して受注予定者が受注できるように協力することにより、当該入札談合を実施したものです。

2004年、ドイツのインフィネオン・テクノロジー社は有罪を認め1億6000万ドルの罰金を支払い、2005年5月、韓国のヒュニック・セミコンダクター社は有罪を認めて1億8500万ドルの罰金を支払い、2005年11月には、韓国のサムスング・セミコンダクター社および同親会社のサムスング・エレクトロニクス社が有罪を認めて3億ドルの罰金を支払いました。なお、2004年12月には、インフィネオン・テクノロジー社の重役4名は、国際カルテルに参加したことを認め、4ヶ月から6ヶ月の禁固刑に服し、25万ドルの罰金を支払いました。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会は、2006年11月8日、鉄鋼製梁カルテルに対する決定を再度採択し、Arcelor Luzembourg SA(前Arbed SA)社など合計3社に対して、欧州石炭鉄鋼共同体条約第65条、EC条約第81条違反を理由に1000万ユーロ(約15億円)の制裁金を科しました。

本件当事者は、1988年から1991年にかけて単一市場全域を対象に鉄鋼製梁の価格を決定し、数量を割り当てるとともに機密情報を交換していました。本件カルテルの対象商品は、熱延により仕上げられる幅広いフラン時のある梁と直径80ミリ以上のI字、H字、およびU字部分で構成される鉄鋼製梁で、主として建設業で用いられているものです。

欧州委員会は、制裁金額の選定にあたり、本件違反行為の実施機関において完全な暦年の最終年となった1990年のECにおける本件製品市場の規模、カルテルの継続期間、関係事業者の規模等の事情を考慮しました。本件に対する制裁金の総額は、通常であれば2000万ユーロの課徴金に加えて継続期間ごとに増額されることになりますが、1994年の欧州委員会決定でArbed SA社に対して科した金額は1999年3月11日の第一審裁判所判決により1000万ユーロに減額されているほか、本件固有の事情を考慮した結果、1000万ユーロとしたものです。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会は、EC条約第81条及び第82条違反の場合、決定によって当該企業にそのような行為を中止させることができます。しかし、決定が出される前に企業が行為をやめた場合には決定は単に違反を宣言するだけの効力を有するに過ぎません。決定は理由が明確に述べられたものである必要があります。しかし、欧州委員会の理由とする本質的要素を裁判所に明らかにするような明示の一貫したものであれば足ります。欧州委員会は手続中扱ったすべての法的観点及び事実について言及する必要はありません。欧州委員会の命令権は、当事者に違反を止めさせるにとどまらず、違反によす損害を補完するような命令を課することもできます。すなわち、規則上、欧州委員会は企業に違反を効果的に辞めさせる如何なる性質の措置も取ることができることを明示しています。しかし、企業の組織構造を変更する性質の措置は、企業の行動を改める性質の措置がより効果的に義務を課することができない場合にのみ課することができるに過ぎません。

Authored by Dr. Inoue

審査手続を開始した後、欧州委員会は関係する企業に異議告知書を送付しなければなりません。この書類の中で、81条・82条違反の存在を疑う法的事由と、制裁金の対象になるかどうかを明らかにする必要があります。異議告知書は、事件の情報を含むものです。最終的な決定において、欧州委員会は、異議告知書の中で企業に明らかになり企業が反論する機会を与えられた事実に基づいてのみ企業に対する判断を下すことができます。結果として、もし、欧州委員会が後に異議告知書に記された事項を修正したい場合には、新たに異議告知書を出さなければならず、書面あるいは口頭で返答する機会が企業に与えられなければなりません。異議告知書の内容の程度については、裁判所によると、防御権を保護するために異議告知書が本質的な要素を企業に明らかにするものである必要があるとされています。

Authored by Dr. Inoue

欧州における国際カルテル事件といいますと、特殊炭素材事件も有名です。リニエンシーの利用が審査開始のトリガーになっている点も重要なポイントです。

本件は、欧州市場における2種類の特殊炭素材に関するカルテルであり、Graftech International (前UCAR International)社が、リニエンシーを利用して制裁金の免除を申請したことから、欧州委員会による調査が開始されたものですカルテルメンバーは、Graftech International社、Intech社、 Ibiden社、 Carbone-Lorraine社、 Toyo Tanso社、SGL社、東海カーボン、および新日鉄化学でした。カルテルメンバーは、1993年7月23日、御殿場で開催されたトップ会談において、世界市場を見据えたカルテルの内容について合意し、以後、1998年2月まで、カルテルの実施および実施内容に対する監視が行われました。トップ会談は、常に日本で開催され、地域別の会議も持たれています。欧州委員会は、調査の結果、カルテルの存在を認定し、同カルテルがEC条約第81条第1項に反するとした上で、SGL社をカルテルの首謀者として認定し、制裁金を50パーセント加算しました。他方で、Intech社については、Ibiden社の指示によりカルテルに参加していただけで、主導的な役割を果たしていなかったことを理由として、制裁金の金額を40パーセント減額しました。また、SGL社、Ibiden社、 Carbone-Lorraine社、 Toyo Tanso社、東海カーボン、および新日鉄化学については、追加資料を提出して欧州委員会の調査に協力したので、制裁金の35パーセントが減額されました。また、SGL社については、経営悪化の状態にあり、他のカルテル事件で摘発されたことにより8020万ユーロの制裁金の支払義務があることが考慮され、33パーセント制裁金が減額されました。上記の結果、リニエンシーの適用を申請したGraftech International社については、制裁金が免除されています。また、欧州委員会は、Intech社に対して98万ユーロ、 Ibiden社に対して358万ユーロ、 Carbone-Lorraine社に対して697万ユーロ、 Toyo Tanso社に対して697万ユーロ、SGL社に対して2775万ユーロ、東海カーボンに対して697万ユーロ、および新日鉄化学に対して358万ユーロの支払を命じました。

Authored by Dr. Inoue

欧州における国際カルテル事件を分析する上でシームレス鋼管事件に対する分析を欠くことはできません。以下、シームレス鋼管事件の経緯を簡単に概観したいと思います。

1990年ころから、ヨーロッパのシームレス鋼管メーカー4社と日本の同業メーカー4社との間で「ヨーロッパ・ジャパン・クラブ」という名前の組織が作られて、月2回ほどの会合が開かれていました。かかる会合を通じて、会合の参加者間に「Fundamental」と呼ばれる協約が締結され、ヨーロッパの市場は、ヨーロッパのメーカーがとり、日本のメーカーは、かかる市場での販売は行わず、他方で、日本の市場は日本のメーカーがとり、ヨーロッパのメーカーは、かかる市場での販売行わないことを合意しました。かかる紳士協定は、ほぼ完全な形で実施され、仮に国外から引き合いがあったとしても、現地メーカーの8パーセントないし10パーセント高めに見積るなどして、お互いの市場で競争することを避けていたのです。なお、欧州委員会の見解ではEC条約第81条1項の協約に該当するためには、協約が法的に当事者を拘束するものである必要はなく、当事者の思惑がその取引の自由を制限することで合致すれば、協約が成立したことになります。ペナルティも実施手続も必要ではない。協約にかかる文書を作成する必要もない。このような理論的枠組みを前提に、欧州委員会は、シームレス鋼管の販売方針につき、BS社、Dalmine社、MRW社、Vallourec社、川崎製鉄、新日鉄、および住友金属はコンセンサスに達し、カルテルメンバー間において、協約という文言が何度も使用されていた事実を認定しています。また、カルテルメンバー相互の関係は「Fundamental」によって統制されていたこと、当該協約の目的が、ドイツ、フランス、イタリア、イギリス、日本の各市場を各国のメーカーが守ることにより、シームレス鋼管についての競争を実質的に制限するものであること、上記カルテルメンバー8社の協約自体がEC条約第81条第1項違反であり、EC域内の通商に影響を与え、その程度は、感知し得る程度に達していることを認定しました。欧州委員会の認定に対して、日本メーカーは、アンチダンピングの手続に反する可能性があるため輸出を差し控えたと反論しましたが、欧州委員会から、カルテルが実施された期間中、アンチダンピングに関する手続は開始されていないし、米国のアンチダンピング手続が鉄鋼製品につきなされていても、日本メーカーは米国市場からは一切撤退しておらず、かかる事実は、カルテルの存在を強く推認させるものであると反論されています。制裁金の決定に当たって、欧州委員会は、シームレス鋼管についてのEC4カ国の市場における年間売上げが7300万ユーロであったことから、カルテルメンバー各社に対する制裁金の基本額を1000万ユーロとしました。その上で、カルテルが実施された1990年から1995年の5年間について1年あたり10パーセントをプラスしました。これらにより、カルテルに参加した期間が最も少ないBS社の制裁金額が最も少なくなりました。他方、欧州委員会は、1991年からのシームレス鋼管についての不況状況を考慮して10パーセントの減額を実施し、また調査に協力したことを理由に、Vallourec社に対する制裁金を40パーセント、Dalmine社に対する制裁金を20パーセント、それぞれ減額しました。その結果、最終的な制裁金額は、新日本製鉄、日本鋼管、川崎製鉄、および住友金属について、それぞれ1350万ユーロ、BS社について1260万ユーロ、MRW社について1350万ユーロ、Vollourec社について810万ユーロ、Dalmine社について1080万ユーロとなりました。

Authored by Dr. Inoue

EU競争法でも、米国におけるビジネスレビューレター類似の制度が採用されています。企業が今までにない新規の問題でそれに対する解決が明らかにされていない場合には、企業は欧州委員会に対して非公式のガイダンスを求めることができます。その際、欧州委員会は、質問が提起された状況、欧州委員会からのガイダンスの内容およびその効果を明示した文書を採択します。

Authored by Dr. Inoue

違反行為を排除するために積極的行為を命ずる必要のある場合には、欧州委員会は、行為命令を発令する権限を有します。かかる命令に従わない事業者、事業者団体に対して、欧州委員会は、その間前年の1日あたりの平均売上高の5パーセント以内の履行強制金を課すことができます。なお、EC条約第81条に違反する行為は自動的に無効であり、裁判所において、宣言的判決を得る必要性すら存在しません。

Authored by Dr. Inoue

EC条約第81条違反に対する罰則は、行政罰としての制裁金の賦課であり、刑事罰は用意されていません。欧州委員会は、違反行為の悪質性と重大性に応じて、制裁金の金額を加減する裁量を有しています。EC条約の下での制裁金の金額は、当該企業の全世界における年間売上の10パーセントあるいは100万ユーロのうち金額の多額な方が上限です。わが国の課徴金制度とは、制裁金の算定率こそ同様ですが、算定の対象となる売上が異なり、これが、欧州委員会において、カルテル行為に対して高額な制裁金納付命令の発令を可能とする要因の一つです。欧州委員会の制裁金納付命令に対しては、第一審裁判所(Court of First Instance)に対して、また、第一審裁判所の決定に対しては、欧州裁判所(European Court of Justice)に控訴することができます。欧州委員会は、制裁金計算の透明性を高めるため、制裁金の算定方法を説明するガイドラインを明らかにしています。最近のものは2006年9月に出されたものです。 同ガイドラインによると、欧州委員会は、違反行為の重大性および存続期間を確定して制裁金額を計算し、さらには違反行為にかかわる加重または軽減要因に基づき上下に調整することができるとされています。たとえば、カルテルの繰返しやカルテルにおいて首謀者的な役割を果たしたことなどは、制裁金の引上要因を構成します。他方で、カルテルにおける消極性や欧州委員会に対する協力は引下要因を構成します。

Authored by Dr. Inoue

EC条約第81条によれば、同条第1項により、当然に違法とされる協調であったとしても、企業は、欧州委員会に対して、同第3項に基づく適用除外を申請することができます。EC条約第81条第3項は、同条第1項が適用されないための要件として、以下の4要件が充足される必要があるとしています。すなわち、①EUの生産・流通・技術その他の経済的利益の向上に寄与すること、②経済的利益が消費者に還元されるものであること、③許容される協調は経済的利益を達成するために必要かつ、最小限の範囲に抑えられること、および④市場競争を実質的に消滅させるものではないことです。EC条約第81条第3項による適用除外を認めるか否かについて、欧州委員会は広範な裁量を有しています。欧州委員会は、欧州単一市場の形成がEUの基本理念であり、市場統合を妨げ、市場分断効果の大きい協調、すなわち価格合意などのハードコアカルテルは、絶対に許容しないという立場を堅持しています。そのため、ハードコアカルテルについては、EC条約第81条第1項により、原則として、当然に違法と判断されることになりますから、この点は、独占禁止法および反トラスト法上の扱いと基本的に差異がないと評価できます。

Authored by Dr. Inoue

審査中に収集された証拠が審査の開始を正当化するものであれば、欧州委員会は正式に手続を開始します。手続開始決定は、競争政策を担当する欧州委員会の職員によります。この決定の結果、加盟国当局との並行審査は不可能になります。また、手続開始は、時効を中断します。手続開始の決定は条約第230条により最終的な決定の準備行為と解され、手続の最終的条件には該当せず、裁判所による判断の対象にはなりません。

Authored by Dr. Inoue

2007年9月14日に実施されたクルス委員と竹島委員長との会談で、「欧州委員会の摘発の重点は価格カルテル」であることが確認されていますね。以下、日本経済新聞からの引用です。

『日本の竹島一彦公正取引委員長と欧州連合(EU)のクルス欧州委員は14日、ブリュッセルで日・EUの競争政策に関するハイレベル協議を開いた。席上、竹島委員長は日本の独占禁止法の強化などについて説明。クルス委員は価格カルテルの摘発に重点的に取り組んでいく考えを示した。両者は日・EUが独禁政策などで緊密に連携する方針を確認した。』

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会が、競争を制限すると思われる協定や慣行の存在を発見する方法は様々です。欧州委員会自身の審査手続を通じて発見される場合もあれば、不服申立てを受理した結果によることもあります。

欧州委員会の競争政策年報によると、欧州委員会によって受理される不服申立ての数は、減少の傾向にあります。不服申立ては、以前は、小企業が大企業からの侵害からの保護を求めてなされることが多かったといえますが、近年は、大企業も、ライバル企業に対する戦略の一環として、不服申立てをしています。法人、自然人、加盟国は、正当な利益を証明すれば不服申立てができます。欧州委員会は、欧州委員会告示に対応する特別の書式を発表しています。欧州委員会は全ての不服申立てを検討しなければなりません。欧州委員会が、不服申立てに理由があると認めると、不服申立人は手続に参加することを求められます。欧州委員会は、異議告知書を申立人に送り、申立人は書面により意見を述べることができるだけでなく、手続に参加することもできます。しかし、欧州委員会が不服申立てに理由がないと考えた場合には、その理由を不服申立人に明らかにし、書面により意見を述べることができるように期日を設定します。

欧州委員会は、直ちに不服申立てを却下する代わりに、手続を開始し、申立人の主張を退ける最終決定を採択することもできますが、申立人は、これに対して、欧州第一審裁判所に訴えることができます。

欧州委員会は、全ての不服申立てについて、手続を開始する必要はありませんが、競争法の重点、国内レベルの解決手段の存在、違反を証明することの困難などを考慮して、優先順位を設けることができます。欧州委員会が誤った事実に基づいて決定を出したとしても、法的な間違いや明らかな評価についての誤りのみが問題になります。

Authored by Dr. Inoue

2003年以降、欧州委員会による立入権限は強化されています。欧州委員会は、競争法違反が疑われる場合には、企業と企業グループ全体について、必要な調査をすることができます。そのため、欧州委員会職員は、通常、全ての企業の建物内、土地、輸送機関、簿記、他の業務上の書類を調査し、コピーをとり、その場で口頭の質問をします。また、欧州委員会は、審査対象に関連する書類が他の場所に隠されている疑いがある場合には、職員の自宅や役員・職員の車を捜査することもできます。このためには、欧州委員会は、加盟国司法当局から令状を取得しなければなりません。また、欧州委員会は、企業内を封印し、書類について全ての職員を審問し、説明を求めることができます。

欧州委員会が正式な決定を持って要請しない限り、立入検査を拒否したとしても制裁を受けることはありません。正式な決定については、欧州第一審裁判所においてその有効性を争うこともできます。企業が書面による令状にしたがって審査に任意に服しなくても、欧州委員会は、すぐに拘束的な決定を使って立入検査をします。令状が立入検査の対象と目的を記載しているので、企業は容易に審査目的にかなう適切な書類を見つけ出し、欧州委員会職員が必要な権限を越えることなく審査を終了することができます。企業には検査に協力する義務がありますが、もし企業が引き出しを開けることを拒否した場合には、強制することはできず、加盟国当局の助けを借りて、加盟国の手続法に則って引き出しを開けることができるに過ぎません。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会は2007年4月18日、価格カルテルを結んだとしてハイネケン(オランダ)などのビール3社に合計で約2億7400万ユーロ(約440億円)の制裁金を命令し、その際、クルス委員(競争政策担当)は記者会見で、「EUは絶対にカルテルを許さない」と企業に警告を発しています。欧州委員会による価格カルテルの積極的摘発は、今後も、継続するとみられます。

Authored by Dr. Inoue

公正取引委員会は、送油ホース国際カルテルに関与していた海外のカルテル参加者に対して、排除措置命令を発令する方針を固めました。公正取引委員会が海外の当事者に対して排除措置命令を発令するのは初めてです。

以下、12月7日付けの日本経済新聞夕刊からの抜粋です。

『海上での石油輸送に使われるマリンホースを巡り国際カルテルを結んでいたとして、公正取引委員会は7日、ブリヂストンと英仏伊のメーカー計5社に独占禁止法違反(不当な取引制限)で排除措置命令を出す方針を固めました。国際カルテルで日本企業が欧米独禁当局から巨額の制裁金を科されるケースが相次ぐ中、公取委が外国企業を行政処分するのは初めて。関係者によると、公取委が国内で使われる製品でカルテルを認定したのはブリヂストン、横浜ゴムの国内2社と、ダンロップ・オイル・アンド・マリーン(英)、トレルボルグ・インダストリー(仏)、パーカーITR、マヌーリ・ラバー・インダストリーズ(いずれも伊)の計6社。違反を自主申告したとみられる横浜ゴムの処分は見送られ、受注実績のあったブリヂストンのみ課徴金が科される見通し。6社は自国で使われる製品は現地企業が独占受注することなどを取り決め、米国や中東で使われる製品については英国のコンサルタント会社が調整していたという。マリンホースの世界市場規模は約100億円で、6社がシェアの約9割を占めるという。同カルテルを巡っては、今年5月に日米欧の独禁当局が調査を開始していた。』

送油ホース国際カルテル事件は、大手ゴムメーカー、横浜ゴム(東京)の米司法省への自首・減免申請(リーニエンシー)が発端でした。リニエンシーの利用が、米司法省と公正取引委員会などによる2007年5月の摘発及び今回の公正取引委員会による課徴金及び排除措置命令の発令に繋がったものです。米国司法省は、申請受理後、同社の協力でカルテルのメンバーになりすましておとり捜査を仕掛けたとみられ、一斉逮捕につなげたのです。

横浜ゴムは、防衛庁(当時)のタイヤ調達をめぐる談合事件などで2度、公正取引委員会に摘発されており、2004年には事実上、マリンホースのカルテルから脱退していました。そのため、協力することを決め、カルテルに関する当時の資料を提供したとされています。米国司法省は、横浜ゴム担当者になりすまし、そのメールアドレスを使ってコンサルタントらとやりとりを開始しました。メンバーは数年間、会合を開いていなかったとされるが、5月初め、米ヒューストンのホテルで会合を開くことになりました。 ホテルでの話し合いが終わった直後に、米国司法省の捜査員らが踏み込み、横浜ゴムの担当者をのぞく参加者を逮捕。ブリヂストン担当者も米国内の滞在先で逮捕しました。 横浜ゴムは2006年暮れ、日本、欧州委員会と英国などリーニエンシー制度のある国に同時申請したとみられ、公正取引委員会は、米国司法省の強制捜査着手を待って立ち入り調査に入りました。

米国司法省のプレスリリースはこちらから入手できます。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会の制裁金決定の後、欧州第一裁判所に上訴する企業の多くは、当然、制裁金の減額を求めて上訴をします。しかし、上訴の結果、制裁金が増額されてしまう場合もあります。2007年12月12日に出された欧州第一裁判所の判断は、これまで理論的な問題として指摘され続けてきた問題を現実にしたものとして注目すべきものです。

以下、日本経済新聞からの引用です。

「欧州連合(EU)の欧州司法裁判所(第一審裁)は12日、価格カルテルで独化学大手BASFに欧州委員会が科した制裁金を増額する判決を命じた。欧州司法裁によるカルテル制裁金の増額は初めて。日本企業などが制裁金の減額を求めて提訴する事例が増えているが、欧州司法裁もカルテルに厳格な対応を示す可能性が出てきた。BASFは動物用ビタミンをめぐる2004年の欧州委のカルテル判定を不服として提訴していた。欧州委が科した制裁金額は3497万ユーロ(約57億円)だったが、欧州司法裁はカルテル調査への協力が不十分だったと指摘したうえで制裁金額を約5万ユーロ(約800万円)上積みした。欧州委の報道官は「この判決を踏まえて今後はさらに注意深く制裁金額を設定する」と述べ、巨額制裁金による厳罰主義を加速する考えを示した。」

これまで増額があり得るとすれば調査妨害があったときのみだろうと一般的に言われていましたが、協力が不十分であることを理由に増額した今回の判断は、これまでの一般的分析を修正する必要性を示しているといえます。

Authored by Dr. Inoue

制裁金を計算する際に、欧州委員会は、違反の深刻性と期間を考慮に入れます。2006年9月には新しい制裁金の計算方法についてのガイドラインが採択され、同月1日以後、異議告知書の送付を受けたすべての制裁金を含む欧州委員会決定について、新ガイドラインが適用されることになりました。1988年版のガイドライン同様、欧州委員会は売上・違反の程度等を基にスタートポイントを決めた後、違反行為の期間を基礎として計算した基本額を出し、さらにこれを引き上げ・減額事由を考慮して最終的な制裁金額を割り出します。基本額の算定方法は、新ガイドラインでは、欧州委員会が例外的な場合であるとみなすケースを除いて、EEA内の関連市場からの売上高を基礎に算定します。新制度によると、通常違反行為の行われた最後の年に企業が関連市場から違法に得た年間売上高30%までが考慮されます。しかし、欧州委員会が効果的な制裁を課すために必要であると判断した場合には、30%を超える場合もあり得ます。さらに欧州委員会は、違反行為の地理的範囲、カルテルの性質等の様々な算定要素を考慮します。スタートポイントが決まると、これに違反の期間を加味する。特に新ガイドラインでは、違反の年数を乗じて計算するので、違反の年毎に10%増加するのみに限られていた旧制度よりも、著しく高額となる可能性がある。新ガイドラインによって新たに導入された制度として、水平的価格設定契約、市場分割、生産量制限のような悪質なカルテルについてはエントリー・フィーと呼ばれる企業のカルテルに関連した年間売上高15%から25%に相当する額が基本額に追加されることになりました。エントリー・フィーは違反行為の期間には影響されず、違法行為の性質に着目し、事業者がカルテルに参加したという事実のみに基づき欧州委員会が違法行為に関連した製品からの年間売上高から少なくとも15%の制裁金を課すことを可能にするものです。このようにして算出された基本額から、制裁金引上事由・減額事由を考慮して最終的な額が算出されます。新ガイドラインでは、これらの事情が考慮されるかもしれないとするだけで欧州委員会がこれらの事情を考慮するか否かの裁量権を有していることを明確にしています。

さらに、新ガイドラインは、基本額を修正する権限も、欧州委員会に与えています。新ガイドラインによると第1に、違法行為による製品やサービスの販売をはるかに超える総売上高を有する企業に対しては、十分な抑止的効果を狙って制裁金を増額することがあることを明らかにしています。また、第2に企業が制裁金を支払えないかもしれないという特殊事情がある場合には、制裁金を減額します。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会は垂直的合併及び混合的合併についての新ガイドラインを公表しました。ガイドラインについては、こちらからダウンロードすることができます。新ガイドラインは、関連市場における有効な競争を妨げかねない垂直的及び混合的合併の具体例を明らかにしています。具体的には、垂直的合併により、原材料等の調達に困難が発生したり調達価格が高くなり、その結果、最終製品の価格が高くなり下流市場に競争阻害効果が発生する場合を分析しています。また、新ガイドラインは、いわゆるセーフハーバーも明らかにしています。セーフハーバーの構造は、市場占有率とHHIの組み合わせ方式を採用しています。新ガイドラインは、既に公表されている水平的合併についてのガイドラインを補完するものです。

Authored by Dr. Inoue

Schitgen判事の後任として、Jean-Jacques Kasel氏が、欧州司法裁判所の後任判事として指名されました。任期は2009年10月6日までです。

Authored by Dr. Inoue

支配的地位の概念については、EC条約第82条に規定されていますが、欧州裁判所と欧州委員会は、支配的地位にある企業は、市場において他の競業企業、顧客、消費者の行動を考慮に入れず行動することができる強力な地位を保持できると考えています。そのため、米国反トラスト法や独占禁止法において分析する場合と同様、関連市場を確定することが企業の経済力を分析する基礎を構成することになります。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会の決定の取消請求は、決定の発表、当事者への通知、あるいは当事者が他の方法で知ることができた日から、2ヶ月以内に欧州第一裁判所に提起しなければなりません。この期間は距離により10日間まで延長されることがあります。2ヶ月の期間は、決定の通知の場合、その翌日から起算されますが、決定の発表の場合には、EU官報に掲載された次の日から14日目から起算されます。通知と官報掲載のいずれもなされる場合には、いずれか早いほうから起算がなされます。実務上は、官報への掲載は、当事者への通知より時間がかかります。

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EU競争法の動向をお伝えする「EU競争法情報局」の試験運用を開始しました。本格運用は、2008年初頭を予定しております。どうぞよろしくお願い致します。

Authored by Dr. Inoue

EC条約第81条によると、競争を制限する協定、協調行為であったとしても、加盟国間の競争に影響を与える可能性のないものについては禁止されていません。同様に、EC条約第82条でも、支配的地位の濫用が認められたとしても、加盟国間の取引に影響を及ぼす可能性のない場合には、適用がありません。「加盟国間の取引に影響する」という要件が満たされることがEU競争法の適用要件といえます。この要件が満たされるか否か判断するための基準は3つあり、第1に加盟国間取引の概念、第2に影響の可能性の概念、第3に顕著な性質の概念がこれに該当します。EU競争法の適用可能性を分析する場合には、以上の3つの要件の該当可能性を必ず検討する必要があります。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会は、EU競争法の執行機関として強大な権限を有していますが、法的コントロールに服さないわけではありません。EC条約第230条により、欧州司法裁判所に取消訴訟を申し立てることができます。1989年に欧州第一審裁判所が設立されて以来、欧州委員会の決定に対する不服申立ては、まず、欧州第一審裁判所に申し立てることとされました。取消訴訟の対象となる事件は、①EU競争法違反の存在を宣言する決定、②情報請求や立入検査に服することを命令する決定、③不服申し立ての拒否や事件の終結を宣言する最終決定、④企業集中が共通市場に調査する、あるいは調和しないと宣言する決定、及び⑤そのほかの決定です。取消理由は比較的範囲が広く、手続違反、権限濫用、平等原則違反、正当な期待違反なども含まれます。欧州委員会から制裁金決定を受領した場合には、取消訴訟を提起するかどうか分析する必要があります。取消訴訟の提起により、かえって、制裁金額が高くなってしまうことも理論上はあり得ます。

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履行強制金という概念そのものは日本の独占禁止法上は定義されていませんので、その意味ではEU競争法独自の概念といえます。欧州委員会は、決定により、企業や職業団体に対して、以下の事項について、企業の1日の売上高の5%までの履行強制金を課することができます。①EC条約第81条及び82条違反の行為を停止する、②暫定措置を命令する決定に従う、及び③決定によって法的拘束力を認められた約束に従うというのがその事項です。

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二重処罰禁止の原則に基づき、欧州委員会は、違反企業に対して、制裁金を課す際、同一の違反に対して、異なる法域において課されたすべての制裁決定を考慮に入れなければなりません。欧州委員会は、また、同一の違反行為による二つの条文の違反は、原則として、二つの制裁金を課すことになると考えるので、企業に最も重大な違反としての制裁金を与えます。しかし、国際カルテル事件では、欧州委員会は、EU外の競争当局による罰則の賦課等を考慮することなく、欧州委員会の取締権限は影響を受けないという立場をとっています。また、欧州委員会は、同委員会による制裁は、民事損害賠償や刑事罰が課されたことにより制約を受けないという立場をとっています。

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About the Author

Dr. Akira Inoue

欧州競争法を専門とする法学博士・弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)。Baker & Mckenzie GJBJのAntitrust Practice Groupのメンバーの一員である。