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欧州委員会の制裁金決定の後、欧州第一裁判所に上訴する企業の多くは、当然、制裁金の減額を求めて上訴をします。しかし、上訴の結果、制裁金が増額されてしまう場合もあります。2007年12月12日に出された欧州第一裁判所の判断は、これまで理論的な問題として指摘され続けてきた問題を現実にしたものとして注目すべきものです。

以下、日本経済新聞からの引用です。

「欧州連合(EU)の欧州司法裁判所(第一審裁)は12日、価格カルテルで独化学大手BASFに欧州委員会が科した制裁金を増額する判決を命じた。欧州司法裁によるカルテル制裁金の増額は初めて。日本企業などが制裁金の減額を求めて提訴する事例が増えているが、欧州司法裁もカルテルに厳格な対応を示す可能性が出てきた。BASFは動物用ビタミンをめぐる2004年の欧州委のカルテル判定を不服として提訴していた。欧州委が科した制裁金額は3497万ユーロ(約57億円)だったが、欧州司法裁はカルテル調査への協力が不十分だったと指摘したうえで制裁金額を約5万ユーロ(約800万円)上積みした。欧州委の報道官は「この判決を踏まえて今後はさらに注意深く制裁金額を設定する」と述べ、巨額制裁金による厳罰主義を加速する考えを示した。」

これまで増額があり得るとすれば調査妨害があったときのみだろうと一般的に言われていましたが、協力が不十分であることを理由に増額した今回の判断は、これまでの一般的分析を修正する必要性を示しているといえます。

Authored by Dr. Inoue

制裁金を計算する際に、欧州委員会は、違反の深刻性と期間を考慮に入れます。2006年9月には新しい制裁金の計算方法についてのガイドラインが採択され、同月1日以後、異議告知書の送付を受けたすべての制裁金を含む欧州委員会決定について、新ガイドラインが適用されることになりました。1988年版のガイドライン同様、欧州委員会は売上・違反の程度等を基にスタートポイントを決めた後、違反行為の期間を基礎として計算した基本額を出し、さらにこれを引き上げ・減額事由を考慮して最終的な制裁金額を割り出します。基本額の算定方法は、新ガイドラインでは、欧州委員会が例外的な場合であるとみなすケースを除いて、EEA内の関連市場からの売上高を基礎に算定します。新制度によると、通常違反行為の行われた最後の年に企業が関連市場から違法に得た年間売上高30%までが考慮されます。しかし、欧州委員会が効果的な制裁を課すために必要であると判断した場合には、30%を超える場合もあり得ます。さらに欧州委員会は、違反行為の地理的範囲、カルテルの性質等の様々な算定要素を考慮します。スタートポイントが決まると、これに違反の期間を加味する。特に新ガイドラインでは、違反の年数を乗じて計算するので、違反の年毎に10%増加するのみに限られていた旧制度よりも、著しく高額となる可能性がある。新ガイドラインによって新たに導入された制度として、水平的価格設定契約、市場分割、生産量制限のような悪質なカルテルについてはエントリー・フィーと呼ばれる企業のカルテルに関連した年間売上高15%から25%に相当する額が基本額に追加されることになりました。エントリー・フィーは違反行為の期間には影響されず、違法行為の性質に着目し、事業者がカルテルに参加したという事実のみに基づき欧州委員会が違法行為に関連した製品からの年間売上高から少なくとも15%の制裁金を課すことを可能にするものです。このようにして算出された基本額から、制裁金引上事由・減額事由を考慮して最終的な額が算出されます。新ガイドラインでは、これらの事情が考慮されるかもしれないとするだけで欧州委員会がこれらの事情を考慮するか否かの裁量権を有していることを明確にしています。

さらに、新ガイドラインは、基本額を修正する権限も、欧州委員会に与えています。新ガイドラインによると第1に、違法行為による製品やサービスの販売をはるかに超える総売上高を有する企業に対しては、十分な抑止的効果を狙って制裁金を増額することがあることを明らかにしています。また、第2に企業が制裁金を支払えないかもしれないという特殊事情がある場合には、制裁金を減額します。

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