最近の支配的地位の濫用事例の最近のブログ記事

欧州委員会は、2009年5月13日、半導体世界最大手のインテルが、自社製の中央演算処理装置(CPU)が搭載されていないパソコンを販売しないよう小売店やパソコンメーカーにリベートを支払うなどEC条約82条に違反したとして、10億6000万ユーロ(約1400億円)の制裁金を課しましたね。EU競争法を巡る違反行為への制裁金としては、これまで欧州委員会は、2004年3月にマイクロソフトに4億9700万ユーロと当時として最高の制裁金を科しましたが、今回は、マイクロソフトに対する制裁金額を上回るものです。また、1件当たりとしても、マイクロソフトが欧州委員会の是正命令に従わなかったとして2008年2月に科した履行強制金8億9900万ユーロを上回り、過去最高になりました。インテルは2002~2007年にかけて関連市場において70パーセントを超える市場占有率を有しており、欧州委員会は、当該事実をもとに支配的地位を認定しました。また、欧州委員会は、インテルが、主要パソコンメーカーがインテル製CPUを全面的もしくは、一定割合以上パソコンに搭載することを条件に、リベートを支払うなどの行為をしたとして、当該行為を濫用行為として認定しました。また、欧州委員会は制裁金納付命令とともに、違法行為を即座にやめることとなどを求める排除措置命令も発令しました。Reported by Dr. Inoue

2009年3月11日、欧州委員会は、EC条約82条違反の嫌疑で、フランスのEDFに対する立入調査を実施しましたね。欧州委員会は、EDFが、支配的地位を濫用して、フランスにおける電力卸売市場において料金を釣り上げた疑いがあると考えているようです。欧州委員会は、2007年1月に、電力市場における産業調査を完了しており、当該調査の過程で電力市場における競争法的問題点及び執行の可能性に対して分析を深めることができたものと推測されるところです。Reported by Dr. Inoue

欧州委員会は、2008年12月29日、フランスの電力供給会社であるEdFに対して異議告知書を送付したと発表しましたね。欧州委員会の主張としては、同社が、フランス電力供給市場における市場支配的地位を濫用して、長期契約を要求したというものです。欧州委員会は2007年7月に調査開始に踏み切りました。同社は、問題の契約条項を修正したものの、欧州委員会は市場に対する閉鎖効果が発生している懸念を有しているようです。EdF社は記録の閲覧謄写が認められ、答弁書を提出する必要があります。

Reported by Dr. Inoue

欧州第1審裁判所が、ドイツテレコムに対する1980万ドルの制裁金を支持するとの決定を発令しましたね。欧州委員会が、制裁金賦課決定を発令したのが2003年5月ですから、欧州第1審裁判所における審理に約5年間要したわけです。事案は、ドイツテレコムが市場における支配的地位を濫用したことを理由とするもので、適用法令は、EC条約第82条でした。ドイツテレコムのネットワークへのアクセス拒否が支配的地位の濫用と認定されたもので、米国におけるヴェライゾン事件における分析からも予測可能な範囲内の結論といえます。

Authored by Dr. Inoue

2008年1月16日(水曜日)の早朝、欧州委員会により、Pfizer Inc., Astra Zeneca Pls, 及びJohnson & Johnsonといった、大手の製薬会社数社に対して、dawn raidが実施されましたね。欧州委員会の調査の対象になっているのは、GlaxoSmithLkine Plc, Novartis AG Sanofi-Aventis SA, Wyeth Merck & Co., Teva Pharmaceutical Indistries Ltd. といった有力な製薬会社も含みます。今回の調査開始は、Pfizer Inc., Astra Zeneca Pls, 及びJohnson & Johnsonが関与していた特許訴訟の和解での契機になったといわれています。

欧州における薬品市場は、正常な競争が機能していない状態にあるという評価が以前からあり、欧州委員会は、特許訴訟における和解交渉の際に、有力な製薬会社が、市場の支配的地位の濫用行為に従事したのではという疑いを高めたものとみられます。

クルス委員は、よりよい製品と価値を生産する強力な製薬産業は必要なものではあるものの、ジェネリック製品の導入が、明らかに遅れている場合、欧州委員会としては、なぜ、導入が遅れているのか調査せざるを得ないと述べています。

欧州委員会によると、調査対象になった製薬会社は、特許権と攻撃的な訴訟攻勢を多用することで、意図的に参入障壁を高く設定してきたと指摘しています。なお、このような意図的な参入障壁の設定は、EU条約82条違反となりえるものです。

カルテル事案の際のdawn raidと異なり、同業他社による情報提供等に基づくものではなく、製薬産業の実態調査の結果に基づくものであると、欧州委員会は述べています。

なお、近年、欧州委員会は、エネルギー、テレコム、及び金融サービスの分野について、産業の実態調査を実施しており、注意が必要といえます。

Reported by Dr. Inoue

Apple事件でも問題になりましたが、EU競争法上、異なる加盟国間の市民の差別は、支配的地位の濫用行為として問題となり得ます。

欧州委員会が委員会としての判断するのは、決定を発令する2週間前の水曜日の定例会であり、Apple事件について判断をする時期が迫っていたことから、Apple社の意向が明らかになった際、クルス委員は、Apple社が問題の行為を修正することを含む発表をしたのちに欧州委員会として事件を終結すると記者団に説明したとブルームバーグも報じました。Apple社は、iTunesの購買により得られる利益を最大化するために、特定の地域の購買者は特定の地域向けのサイトからしかダウンロードができないようにしたととされています。

このように、EU競争法の執行実務では、伝統的に市場分断的な行為に対する執行が厳しいのですが、この傾向は、とりわけ、リスボン戦略の採択以降顕著です。

異なる市民間の差別が問題となったほかの事例としては、Sacchi事件とGVL事件が代表格です。Sacchi事件では裁判所は支配的地位にある企業が異なる加盟国の製品や企業間でテレビコマーシャルへのアクセスについて差別をすると濫用になると確認しました。

また、GVL事件では、国籍に基づく差別は支配的地位にある企業によって行われる場合、通常82条違反になるし、芸術家の権利を保護することを業務とするドイツのGVL社がドイツに所在しない芸術家からの契約を拒否した場合に、これを正当化することはできないと裁判所は判断しています。

Authored by Dr. Inoue

オペラソフトウエアが、欧州委員会に対して、マイクロソフトの市場支配的地位の濫用行為について是正を申し立てました。実際に濫用行為が認定されるかどうかはわかりませんが、市場において影響力のない企業が、競争法を使って、市場において支配的な地位にある企業の行為を提訴する、いうなれば競争法を自社の競争力を拡大するための手段として使うという使い方は、今後も増えると思われます。市場において支配的な地位にある、あるいは有力な参加者として認識されている企業は、どのような事実と証拠が、競争法違反に該当するとして提訴の対象になるのか分析し、競争法に対する防波堤の建築を進める必要があるように思います。

以下、日本経済新聞からの引用です。

『インターネット閲覧ソフト開発のオペラソフトウエア(本社ノルウェー)は13日、米マイクロソフト(MS)が基本ソフト(OS)市場での独占的地位を乱用しているとして、欧州委員会に是正を申し立てたと発表した。MSが自社ブラウザーを切り離してOSを販売することや、競合ブラウザーをあらかじめOSに組み込むことなどを求めた。MSは10月、独禁法違反を巡り欧州委が2004年に出した是正命令の完全順守を表明したばかり。米メディアによると欧州委はオペラの申し立てへの対応を慎重に検討する。調査会社のまとめでは、ブラウザーの世界シェアはMSの「インターネット・エクスプローラ」が85%程度で首位。オペラは1%未満という。』

Dr. Inoue

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