最近の支配的地位の濫用事例: 2008年1月アーカイブ

2008年1月16日(水曜日)の早朝、欧州委員会により、Pfizer Inc., Astra Zeneca Pls, 及びJohnson & Johnsonといった、大手の製薬会社数社に対して、dawn raidが実施されましたね。欧州委員会の調査の対象になっているのは、GlaxoSmithLkine Plc, Novartis AG Sanofi-Aventis SA, Wyeth Merck & Co., Teva Pharmaceutical Indistries Ltd. といった有力な製薬会社も含みます。今回の調査開始は、Pfizer Inc., Astra Zeneca Pls, 及びJohnson & Johnsonが関与していた特許訴訟の和解での契機になったといわれています。

欧州における薬品市場は、正常な競争が機能していない状態にあるという評価が以前からあり、欧州委員会は、特許訴訟における和解交渉の際に、有力な製薬会社が、市場の支配的地位の濫用行為に従事したのではという疑いを高めたものとみられます。

クルス委員は、よりよい製品と価値を生産する強力な製薬産業は必要なものではあるものの、ジェネリック製品の導入が、明らかに遅れている場合、欧州委員会としては、なぜ、導入が遅れているのか調査せざるを得ないと述べています。

欧州委員会によると、調査対象になった製薬会社は、特許権と攻撃的な訴訟攻勢を多用することで、意図的に参入障壁を高く設定してきたと指摘しています。なお、このような意図的な参入障壁の設定は、EU条約82条違反となりえるものです。

カルテル事案の際のdawn raidと異なり、同業他社による情報提供等に基づくものではなく、製薬産業の実態調査の結果に基づくものであると、欧州委員会は述べています。

なお、近年、欧州委員会は、エネルギー、テレコム、及び金融サービスの分野について、産業の実態調査を実施しており、注意が必要といえます。

Reported by Dr. Inoue

Apple事件でも問題になりましたが、EU競争法上、異なる加盟国間の市民の差別は、支配的地位の濫用行為として問題となり得ます。

欧州委員会が委員会としての判断するのは、決定を発令する2週間前の水曜日の定例会であり、Apple事件について判断をする時期が迫っていたことから、Apple社の意向が明らかになった際、クルス委員は、Apple社が問題の行為を修正することを含む発表をしたのちに欧州委員会として事件を終結すると記者団に説明したとブルームバーグも報じました。Apple社は、iTunesの購買により得られる利益を最大化するために、特定の地域の購買者は特定の地域向けのサイトからしかダウンロードができないようにしたととされています。

このように、EU競争法の執行実務では、伝統的に市場分断的な行為に対する執行が厳しいのですが、この傾向は、とりわけ、リスボン戦略の採択以降顕著です。

異なる市民間の差別が問題となったほかの事例としては、Sacchi事件とGVL事件が代表格です。Sacchi事件では裁判所は支配的地位にある企業が異なる加盟国の製品や企業間でテレビコマーシャルへのアクセスについて差別をすると濫用になると確認しました。

また、GVL事件では、国籍に基づく差別は支配的地位にある企業によって行われる場合、通常82条違反になるし、芸術家の権利を保護することを業務とするドイツのGVL社がドイツに所在しない芸術家からの契約を拒否した場合に、これを正当化することはできないと裁判所は判断しています。

Authored by Dr. Inoue

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