EC条約第81条: 2007年12月アーカイブ

意識的並行行為は、米国反トラスト法でも独占禁止法でも問題になる論点ですね。

企業が市場にあわせて価格を調整すると、競業企業は一般的に同様の行動をとります。欧州競争法上、全ての企業は、原則として、共同市場におけるビジネス戦略を独自の判断で決定しなければなりません。しかし、他方で、EC条約第81条は、競業企業間の価格の統一それ自体を禁止しているわけではありません。同一の行為をとることは、それ自体としてEC条約第81条第1項に違反するわけではないのです。

染料事件では、価格を統一する行為が協調行為の存在を伺わせるものであるとしても、それ自体としては競争法違反とならないとされたケースです。欧州委員会は、同時値上げの事実から、染料生産社10社が違法な協調行為をしたと判断したのです。欧州委員会は、様々な要素から制限的な慣行が存在する十分な証拠があり、生産者間の協調が考えられないとすることは非現実的であると判断しました。また、欧州委員会は、染料市場の寡占的構造から、価格競争ではなく、製品の質と顧客への技術的サービスが競争の要素であるという生産者側の主張も一蹴しました。決定の上訴手続で、裁判所はもし意識的並行行為がそれだけでは協調行為とはされないとしても、製品の性質、企業の重要性や数、生産量を考慮し、市場の通常の条件とは一致しないような条件に達するときは、重大な協調の要素とされる可能性があるとしています。

染料市場の性質を決定した後、裁判所は、価格の上昇の点について、特に、時期、価格、製品の同一性を検討し、染料市場における価格の競争上の性質は二次的であるという主張を退けました。裁判所によれば生産者は十分に市場での力があり価格の減少により、市場を拡大することができます。その上、分割された5つの共通市場は、価格も構造も異なる市場で、全ての市場をカバーする恣意的で統一的な価格を設けることは不可能でした。裁判所によれば、異なる加盟国のそれぞれの性質を考えると、異なる価格の上昇が論理的であり、時間、加盟国市場、製品の種類に関して、並行行為が偶然に行われることは考えがたいと結論付けました。

さらに、各製造者は、価格を修正したり、競争者の現在や将来の行為の影響を考慮に入れることはできますが、どのような方法にせよ、値上げについて共同の行為を決定したり、相互の態度について予見不可能性を取り除くことにより、値上げについての協調を確実に成功させるため競業企業と協力することは競争法違反です。

並行行為に関する事件で有名な事件といえばウッドパルプ事件です。そこでは裁判所は3ヶ月ごとに価格設定の事前の宣言をする制度は、市場の通常の条件に対応している限りは、協調行為に該当しないとしましたが、欧州委員会は、生産者がEUにおける価格設定の協調行為を行っていたと主張しました。しかし、1975年から1984年に並行行為があったとしても、価格設定協定の証拠がなかったにもかかわらず、欧州委員会は、直接・間接の情報交換が、価格についての市場の人工的な透明性を創設するするとし、市場の状態は並行行為を生み出すほどの厳格な寡占市場ではないとの経済分析に依拠し、協調行為が存在すると結論付けました。これに対して、裁判所は、欧州委員会の決定を取り消しています。すなわち、裁判所は、使用者に対して宣言された価格についての通知は、競業企業のとるかもしれない行動について、それぞれ企業のとるかもしれない行動について、それぞれの企業の予測不可能性を減少させる性質の行為ではなく、各企業の行動は、実際には、他の企業の態度についていかなる保証もないのであり、3ヵ月ごとの価格宣言制度は、81条第1項に反するものではないと結論付けました。

Authored by Dr. Inoue

 

 

EU条約第81条第1項の適用可能性を分析する上で、関連市場の確定は不要では在りません。デ・ミニマス・ドクトリンの適用可能性を分析する上で、関連市場の確定はその理論的前提を形成していることを看過してはいけません。関連市場の確定においては、米国における伝統的な関連製品の代替性分析の方法が取られています。なお、企業結合規制の際にはSSNIPテストが主に採用されています。欧州委員会は、1997年に81条分析に関する関連確定市場についての告示を発表しています。

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欧州競争法におけるカルテル規制を分析する上で、スタート地点は、常に、何が、違法な「協定」に該当するかで、これはシャーマン法第1条、あるいは独占禁止法第3条後段に基づきカルテル規制への該当性を分析する態度と基本的に異なることがありません。

初期にはEC条約第81条第1項上の協定とは私法上の契約を意味するという見解も見られましたが、70年代以降、私法上の契約である必要はなく、当事者の一方が意図的に他方の行動の自由を制限することで足りると判断されるようになりました。欧州第一審裁判所は、判例により、81条第1項の協定の定義は、少なくとも2当事者の意思の一致をいい、意思表現方法は重要ではないという解釈を示しています。例えば、市場である行動をとったり、そのような行動をとる意思を示したり、暗黙に承認するという単なる事実が市場での共通行動をとる企業間の協定締結と考えられるのです。このような、いわゆる、暗黙の協定が協定に該当し、81条第1項に該当するという結論には十二分に注意する必要があります。81条第1項でいう協定は、必ずしも国内法でいうところの協定や、法的に拘束力を持つものである必要はありません。裁判所と欧州委員会は、紳士協定であっても81条第1項の協定に該当するのに十分であると考えています。同様に、プロトコールも当事者間の同意を示すものとして協定と考えられます。協定が署名される必要もなく当事者の意思表現は口頭でも足ります。

第一審裁判所は、効力をもはや持たない協定でも、表向きの契約終了にも拘らず、その効力が常に継続していることで、81条第1項が適用されると述べています。また、シャーマン法第1条および独占禁止法第3条後段と同様ですが、EC条約第81条第1項も、水平的協定のみならず垂直的協定がその規制対象に含まれます。

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EU競争法上、水平的協定に対するレギュレーションを提供するのはEC条約第81条です。欧州委員会は、EC条約第83条に基づき、同第81条第1項に違反する罰則および制裁を定め、また同第81条第3項に基づく免除の運用規則を制定する権限を有しています。EC条約第81条の規定は以下のとおりで、欧州における水平的協定に対する規制を分析する上で、一読の必要があります。
『1 構成国間の取引に影響を及ぼす恐れがあり、かつ共同市場内の自由競争の阻害、制限または歪曲することを目的とするかまたはそうした結果を生ずる、特に次のものを含む企業間の、協定、事業者団体の決定、および協調的行為は共同市場と両立せず、禁止される。
(a) 購入価格、販売価格、その他の取引条件を直接または間接に設定すること
(b) 生産、販路、技術開発または投資を制限または統制すること
(c) 市場または供給源を分割すること
(d) 取引の相手方に対して、同等の給付に異なる条件を適用し、その結果、当該相手方を競争上不利な立場におくこと
(e) 契約の性質上または商慣習上、契約の対象と関連のない付加的義務を相手方が受諾することを条件として契約を締結すること
2 本条の規定により禁止される協定または決定は、当然に無効である。
3 ただし、第1項の規定は、次のいずれかに該当する場合には適用できないことを宣言することができる。
(a) 事業者間の協定またはこれと同種のもの
(b) 事業者団体が行う決定またはこれと同種のもの
(c) 協調的行為またはこれと同種のもの
であって、製品の生産もしくは流通を改善しまたは技術的もしくは経済的進歩を促進することに寄与し、かつ、その結果生ずる利益が利用者に公正に与えられること。ただし次のものを除く。
(i) 前記の目的の達成に不可欠でない制限を関係事業者に課すもの
(ii) これらの事業者に、当該製品の主要部分に関し、競争を排除する可能性を与えるもの』

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EC条約第81条第1項の文言上、企業間の協調的行動は、広くその適用対象となります。

その結果、同条項の文言による限り、同第2項に基づき、企業間のほとんどの協調的行動が無効となります。しかし、企業間の協調的行動のすべてを無効とすることは、経済的実情にそぐわないものです。EU競争法は、このような事態を避けるための方策として、反トラスト法における合理の原則を採用するという方法をとらず、EUに特有の適用除外審査基準を採用しています。すなわち、欧州委員会は、競争制限的効果が、知覚できる(appreciable)程度に達しない協調は違法としません。この知覚できる程度という要件は、デ・ミニマス・ドクトリン(de minimis doctrine)として広く認知されています。欧州委員会は、1970年に、小さい契約に関する告示を出して、デ・ミニマス・ドクトリンの内容を明確化しました。その後、当該告示は、数回改定されています。2001年版のガイドラインでは、以下のようにその要件を定めています。
① 競争関係にある企業の間での契約については、関連市場における契約当事者の市場占有率の合計が10パーセントを超えないときは、EC条約第81条第1項の対象とはしない。
② 競争関係にない企業の間での契約については、関連市場における各契約当事者の市場占有率が15パーセントを超えないときは、EC条約第81条第1項の対象とはしない。
③ ただし、累積的な取引排除の効果があるときは、競争関係のあるなしにかかわらず、契約当事者の市場占有率の上限は5パーセントとする。

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違反行為を排除するために積極的行為を命ずる必要のある場合には、欧州委員会は、行為命令を発令する権限を有します。かかる命令に従わない事業者、事業者団体に対して、欧州委員会は、その間前年の1日あたりの平均売上高の5パーセント以内の履行強制金を課すことができます。なお、EC条約第81条に違反する行為は自動的に無効であり、裁判所において、宣言的判決を得る必要性すら存在しません。

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EC条約第81条違反に対する罰則は、行政罰としての制裁金の賦課であり、刑事罰は用意されていません。欧州委員会は、違反行為の悪質性と重大性に応じて、制裁金の金額を加減する裁量を有しています。EC条約の下での制裁金の金額は、当該企業の全世界における年間売上の10パーセントあるいは100万ユーロのうち金額の多額な方が上限です。わが国の課徴金制度とは、制裁金の算定率こそ同様ですが、算定の対象となる売上が異なり、これが、欧州委員会において、カルテル行為に対して高額な制裁金納付命令の発令を可能とする要因の一つです。欧州委員会の制裁金納付命令に対しては、第一審裁判所(Court of First Instance)に対して、また、第一審裁判所の決定に対しては、欧州裁判所(European Court of Justice)に控訴することができます。欧州委員会は、制裁金計算の透明性を高めるため、制裁金の算定方法を説明するガイドラインを明らかにしています。最近のものは2006年9月に出されたものです。 同ガイドラインによると、欧州委員会は、違反行為の重大性および存続期間を確定して制裁金額を計算し、さらには違反行為にかかわる加重または軽減要因に基づき上下に調整することができるとされています。たとえば、カルテルの繰返しやカルテルにおいて首謀者的な役割を果たしたことなどは、制裁金の引上要因を構成します。他方で、カルテルにおける消極性や欧州委員会に対する協力は引下要因を構成します。

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EC条約第81条によれば、同条第1項により、当然に違法とされる協調であったとしても、企業は、欧州委員会に対して、同第3項に基づく適用除外を申請することができます。EC条約第81条第3項は、同条第1項が適用されないための要件として、以下の4要件が充足される必要があるとしています。すなわち、①EUの生産・流通・技術その他の経済的利益の向上に寄与すること、②経済的利益が消費者に還元されるものであること、③許容される協調は経済的利益を達成するために必要かつ、最小限の範囲に抑えられること、および④市場競争を実質的に消滅させるものではないことです。EC条約第81条第3項による適用除外を認めるか否かについて、欧州委員会は広範な裁量を有しています。欧州委員会は、欧州単一市場の形成がEUの基本理念であり、市場統合を妨げ、市場分断効果の大きい協調、すなわち価格合意などのハードコアカルテルは、絶対に許容しないという立場を堅持しています。そのため、ハードコアカルテルについては、EC条約第81条第1項により、原則として、当然に違法と判断されることになりますから、この点は、独占禁止法および反トラスト法上の扱いと基本的に差異がないと評価できます。

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履行強制金という概念そのものは日本の独占禁止法上は定義されていませんので、その意味ではEU競争法独自の概念といえます。欧州委員会は、決定により、企業や職業団体に対して、以下の事項について、企業の1日の売上高の5%までの履行強制金を課することができます。①EC条約第81条及び82条違反の行為を停止する、②暫定措置を命令する決定に従う、及び③決定によって法的拘束力を認められた約束に従うというのがその事項です。

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