国際カルテル: 2007年12月アーカイブ

欧州委員会は、2007年12月21日、世界の複数の航空会社に対し、国際航空貨物事業で価格カルテルを結び、EU競争法に違反した疑いがあると指摘した異議告知書を送付しましたね。欧州委員会のプレスリリースについては、こちらから参照することができます。この件については、欧州委員会の立入調査について、既にご報告していたところです。以前の記事はこちらから入手できます。

日本航空と全日本空輸も、同日、告知書を受け取ったことを公表しました。EU競争法違反と判定されれば、各社は年間の世界総売上高の最大10%を上限とする巨額制裁金を科せられる可能性があります。

欧州委員会は告知書の送付先を明らかにしていませんが、北欧のスカンジナビア航空も受け取りを認めています。

欧州委員会はEU加盟国や米国司法省と連携し、米アメリカン航空、英ブリティッシュ・エアウェイズなどを含む米欧アジアの航空大手を対象に調査に入っていました。告知書受領者から提出される答弁書と聴聞手続を経て、欧州委員会は、EU競争法違反の事実の有無について分析を進めると思われます。欧州委員会の分析は、異議告知書の送付から6ヶ月ないし最長で1年ほどかかるものとみられます。

Reported by Dr. Inoue

国際フォワーディングカルテルの審査では、今後、答弁書が提出され、聴聞手続が実施されますが、欧州委員会の審査手続では、書面が重視され、聴聞手続は補助的な位置づけであるのが実務的な扱いです。よって、欧州委員会の異議告知書記載の事実に対して争う場合には、答弁書と証拠の提出が極めて重要です。

聴聞手続では不服申立人も意見を述べることができます。また、他の第三者も十分な正当な利益を証明できれば、聴聞の機会を認められます。欧州委員会は、意見を聞くため必要なものは誰でも聴聞に出席させることができます。

当事者は、代理人を選任することが可能ですが、原則として自分で聴聞に出席することが義務付けられています。異国の地での手続は非常に緊張するので、日本企業の担当者が聴聞に出席する場合には、十分なリハーサルが欠かせません。聴聞は公開ではありませんが、加盟国の競争当局職員も参加することが可能です。

Authored by Dr. Inoue

送油ホース国際カルテルの件で、2007年12月3日、米国司法省は独立系コンサルタント1名とダンロップオイルの重役2名をヒューストン連邦地方裁判所に起訴し、同月12日、被告3名の英国人は、有罪答弁をしました。その結果、Peter Whittle被告は、30ヶ月の禁固刑、Bryan Allison被告は、24ヶ月の禁固刑、David Brammar被告は、20ヶ月の禁固刑に服することに同意しました。禁固刑に加えて、Peter Whittle被告及びBryan Allison被告は罰金10万ドル、David Brammar被告は7万5000ドルの罰金刑を課されることに同意しました。米国司法省は、今回の結果は、海外の競争当局との協力が結実したものであることを強調しています。3名の被告は、英国に移送され、英国企業法2002違反の容疑での公正取引局での捜査に協力し、同法違反の罪について、有罪答弁をすることが予想されます。なお、以前にお伝えしたように、米国司法省は、2007年5月2日、ヒューストンにおけるカルテル会議の後、8名の被告を逮捕しました。Manuli Rubberの重役2名は、2007年9月に起訴され、2008年5月に公判が予定されています。また、Trelleborg Industrieの2名の重役は、2007年11月、有罪答弁の合意し、それぞれ14ヶ月の禁固刑に処せられることになりました。ブリジストンの担当者を含む2名のその余の被告についての処分はまだだされていません。

Reported by Dr. Inoue

日本航空が燃油価格高騰に対応して、国際貨物の通常運賃に上乗せする燃油特別付加運賃を他社と共謀し決めていたとして、2006年2月に米司法省などから米国支店の貨物事業所などが立ち入り捜査を受けたことは記憶に新しいですが、欧州委員会も、国際貨物フォワーディングに関するカルテルについて調査を開始しましたね。欧州委員会のプレスリリースについては、こちらから入手できます。

Authored by Dr. Inoue

2007年1月24日、欧州委員会は、ガス絶縁開閉装置(Gas Insulated Switchgear/GIS)の市場でカルテルを結んでいたとして、日本企業を含む11企業グループに対し、総額約7億5000万ユーロ(1ユーロは155円)の支払いを命じました。11社はABB、アルストム、アレバ、富士電機、日立製作所、日本AEパワーシステムズ、三菱電機、シュネデール、シーメンス、東芝、VA テックでした。ガス絶縁開閉装置は、配電網における電流調節に使用される重電機で、ターンキー方式で建設される変電所の重要な設備です。本件は、関与企業の1 社であるABB が自首減免(リニエンシー)制度1を通じて通報を行ったことが摘発のきっかけとなったものです。欧州委員会はABB が提供した多数の内部資料や企業情報、抜き打ち査察で押収した資料に基づき制裁を決めたが、決定的証拠として1988年に関与企業間で交わされたカルテルの合意書2点が見つかっており、カルテルの存続期間全体にわたる証拠資料は約2万5000ページに及んでいます。EU側のカルテル関与企業は、1988年から2004年にかけて、調達入札の不正操作、価格固定、プロジェクトの受注割当、市場分割、機密情報の交換などを行っていました。受注するプロジェクトを各社間で割り当て、これに応じてプロジェクトを受注できるよう入札調整を行っており、事前に最低入札価格を合意するケースもあった。方針や戦略は管理職レベルで定期的な会合を持って決められ、プロジェクトの割当や偽造入札の準備などの実務は下位レベルで行われていました。また、連絡を取り合う場合は、企業や個人を特定できないようコード名を使用し、Eメールも暗号化して会社や自宅のほか、すぐに個人との関連が分かるようなコンピューターから受送信することは固く禁じられていたものです。こういった周到さを欧州委員会は悪質とし、違反の重大性と結びつけました。このケースで制裁金を科された日本企業5社は、実際には偽造入札や価格操作には参加しておらず、欧州では1988~2004年の当該製品納入実績もほとんどないとされています。それにもかかわらず、欧州委員会が巨額の制裁金を科したのは、同カルテルでは「日本企業は欧州での入札を手控え、欧州企業は日本市場に参入しない」という合意があったと判断したためです。日本企業が合意の上でEU市場に参入しなかったこと自体が国際的カルテルへの参加であり、本来ならばEU 市場に生じていたはずの競争の阻害に加担した日本企業の罪は重いとみなされました。カルテル制裁金の額は、当該製品のEU市場の規模や、カルテルの存続期間、参加企業の世界売上高などを踏まえて決められるが、欧州委員会は今回のカルテルを、EC条約第81 条の独占禁止規定2に対する極めて深刻な違反行為と受け取っており、これが制裁金の額に表れたものです。シーメンス(オーストリア)、アルストム、アレバの3社に対する制裁金は、主導的立場であったとして通常の制裁金5割増しとなり、また、シーメンス(ドイツ)に科された約4億ユーロの制裁金は単独企業に対する制裁金としては当時の過去最高となりました。ABB に対しても繰り返し違反者として、上述3社同様の措置が取られるところでしたが、欧州委員会への通報と情報提供を行ったことで自主減免措置が適用されて約2億1500万ユーロ全額が免除される結果となりました。日本企業については、世界売上高の10%を最高とするという欧州委員会の規定から、実際に欧州市場で販売実績がほとんどないにもかかわらず、欧州企業を上回る制裁金支払いを命じられた企業もあります。欧州委員会は執行の対象を価格カルテルの摘発に照準を合わせているといわれていますが、この事案は、市場分割カルテルで、欧州での売上実績のない場合でも欧州委員会の摘発の対象になることを改めて示したといえます。

Authored by Dr. Inoue

欧州委員会は2007年2月21日、ベルギー、ドイツ、ルクセンブルク、オランダの4カ国において、昇降機(エレベーターとエスカレーター)の設置・メンテナンスでカルテルが結ばれ、明らかなEC 条約第81条の侵害があったとして、オーチス、コネ、シンドラー、ティッセンクルップの4企業グループに対して総額9億9200万ユーロの制裁金を科す決定を下しました。また、4グループの関連会社16社に並んで、オランダでのカルテルに関わっていたとして三菱エレベーターB.V.の名前が挙げられました。17社は、1995年から2004年にかけて、病院や鉄道駅、ショッピングセンター、商業ビルなどに設置されるエレベーターとエスカレーターの販売・メンテナンス・設備近代化のための調達などで談合し、契約受注を企業間で割り当てていたほか、入札のパターンや価格など商業上の機密情報をカルテル参加企業間で交換していたのです。受注割当の方法は4カ国で類似しており、相互に入札の内容を知らせあって事前に合意した割当に沿って調整し、競争があると見せかけるため、落札しない予定の企業が高額で入札に参加していました。また、ドイツとオランダでは、特定の顧客と長期的な関係や良好な関係にあった企業が、顧客企業の契約のほとんどを得る「既存顧客維持原則」と呼ばれる合意がありました。4カ国とも、各国の取締役や販売・サービス担当役員、カスタマーサービス部長など、上級管理職が定期会合を開いて協議を行っていました。これらの企業はこのような行為が違法であることを認識しつつ、発覚を防ぐためバーやレストランなどの公衆の場や地方、海外で会合を開いたり、プリペイド式携帯電話カードを使用するなどの手立てを取っていた証拠が見られます。

このケースでは、コネ・グループのベルギー法人とルクセンブルク法人が最初に欧州委員会に情報提供を行ったため、100%の自首減免措置を受けています。ティッセンクルップに関しては、繰り返し違反者であることから同グループ関与4社ともに50%が上乗せされ、総額で4億8000万ユーロを科されました。17社合計での制裁金は約9億9200万ユーロと、EU で単独のカルテルに対する制裁金としては過去最高額となりました。このケースでは、欧州委員会は、実際にカルテルに関与したのが現地子会社だけであっても、グループ親会社にも連帯で責任を求めている。欧州委員会はこれまでの判例に基づき、グループ内で親会社が子会社の商業上の行為に対して決定的な影響力を行使している場合、両者が同じ事業体の一部を成しているとみなしており、特に100%子会社の場合では、親会社は子会社に対して決定的な影響力を行使していると自動的に仮定されています。このため、カルテルの違反行為とこれに伴う制裁金に対する法的責任は、実際にカルテルに参加した子会社だけでなく、カルテルの認められた時期に子会社の事業行為に決定的な影響を及ぼしていた親会社にもあるとみなされます。

Authored by Dr. Inoue

日本のゼオン社の子会社であるゼオンケミカル社は、2005年1月12日、自動車部品製造などに使用されている合成ゴムを巡る価格カルテルに参加したことを認め1050万ドルの罰金支払に合意しました。

ゼオンケミカル社は、米国ケンタッキー州に本拠を置き、ゼオン社の完全子会社です。合成ゴムの正式名称は、アクリロニトリル・ブタジエンで、ホース、ベルト、ケーブル、円形リング、シール、粘着性物質、およびシーラントなどの製造に使用されています。サンフランシスコ地方裁判所に提出された訴状によると、2002年5月から2002年12月の間、ゼオンケミカル社は、他社と共同して米国およびその他の地域において合成ゴムの価格カルテルを締結したとされていました。米国司法省は、ゼオンケミカル社が、米国およびその他の地域において販売される合成ゴムの価格を議論する会談および会合に参加し、それらの会議および会合で、米国およびその他の地域において販売される合成ゴムの価格を維持および引き上げることに合意し、および当該合意に従い価格を公表したと主張したのです。

サンフランシスコ地方裁判所の承認が義務付けられている有罪答弁協定書において、ゼオンケミカル社は、米国司法省の継続中の捜査に協力すると約束しました。ゼオンケミカル社は、有罪答弁協定書を同社のウェブサイトに掲載し、1050万ドルの罰金支払を第3四半期の連結財務諸表において損失として計上すると述べました。ゼオンケミカル社は、2004年8月22日以前に行われた違反行為に対してシャーマン法第1条に違反したとして提訴されたものでした。

本件提訴は、米国司法省反トラスト局サンフランシスコ市フィールド・オフィスおよび連邦捜査局サンフランシスコ市オフィスが継続して行ってきた捜査の結果が結実したものでした。

Authored by Dr. Inoue

1999年に日本電気と日立製作所のDRAM事業を統合する形で発足したエルピーダ社は、DRAMを巡る国際カルテルに参加したことを認め、2006年1月30日、8400万ドルの罰金の支払に同意しました。エルピーダ社の元重役のジェームズ・ソガス氏も、米国で7ヶ月の禁固刑および25万ドルの罰金の支払に合意しました。

上記に関する提訴も含め、4社および5名がDRAMを巡る国際カルテルに参加したとして提訴され、総額7億3000万ドルの罰金が支払われました。サンフランシスコ地区地裁に提出された訴状によると、1999年4月から2002年6月の間、エルピーダ社は、他のDRAM製造業者と共謀して一定のコンピューターおよびサーバー製造業者に販売したDRAMの価格を設定したとされました。当該国際カルテルから影響を受けた企業は、デル社、コンパック社、ヒューレーットパッカード社、アップル社、IBM社、およびゲートウェー社でした。

さらに、2002年3月、エルピーダ社は他のDRAM業者と共同してサンマイクロシステムズ社が発注した1ギガバイト・次世代の電極2列が並んだメモリー・モジュール1ロットの入札において談合しました。サンフランシスコ地区裁判所の承認が義務付けられている本件有罪答弁協定書に基づきエルピーダ社は他のDRAM製造業者に対する米国司法省の調査に協力しなければならないとされていました。

 DRAMは、もっとも一般的に使用されている半導体メモリー部品であり、コンピューター、電気通信、および家庭電器に電子情報の高速保存および抽出機能を提供しているものです。DRAMは、パソコン、ラップトップコンピューター、ワークステーション、サーバー、プリンター、ワークステーション、サーバー、プリンター、ハードディスクドライブ、電子秘書、モデム、携帯電話、電気通信ハブまたはルーター、デジタルカメラ、ビデオ・レコーダーおよびテレビ、およびゲーム機器などに利用されています。米国におけるDRAM販売は、2004年、約77億ドルでした。エルピーダ社は世界第5位のDRAM製造業者でした。

訴状によると、エルピーダ社は、米国およびその他の地域で競争者と共同して一定の顧客に対して販売したDRAMの価格を交渉する会議、会話、およびコミュニケーションに参加し、それらの会議、会話、およびコミュニケーションで一定の顧客に一定水準の価格を課すことを合意し、当該合意に基づく価格クォートを発し、合意された価格の遵守をモニターおよび実施するため、一定顧客に対し販売したDRAMの情報を交換することにより、価格協定を実施しました。

また、訴状によると、エルピーダ社は、米国およびその他の地域でサンマイクロシステムズ社が発注する1ギガバイト・次世代の電極が2列並んだメモリー・モジュール1ロットをそれぞれで受注調整する会議、会話およびコミュニケーションに参加し、それらの会議、会話およびコミュニケーションでサンマイクロシステムズ社が発注する当該ロットを受注調整することに合意し、当該合意に基づき、サンマイクロシステムズ社の発注を受注調整し、サンマイクロシステムズ社に対して競争的価格を奪い、サイマイクロシステムズ社が発注する当該ロットの入札の受注予定者を議論する会議、会話およびコミュニケーションに参加し、それらの会議、会話およびコミュニケーションで受注予定者が受注できるように協力すること合意し、また当該ロットに対して受注予定者が受注できるように協力することにより、当該入札談合を実施したものです。

2004年、ドイツのインフィネオン・テクノロジー社は有罪を認め1億6000万ドルの罰金を支払い、2005年5月、韓国のヒュニック・セミコンダクター社は有罪を認めて1億8500万ドルの罰金を支払い、2005年11月には、韓国のサムスング・セミコンダクター社および同親会社のサムスング・エレクトロニクス社が有罪を認めて3億ドルの罰金を支払いました。なお、2004年12月には、インフィネオン・テクノロジー社の重役4名は、国際カルテルに参加したことを認め、4ヶ月から6ヶ月の禁固刑に服し、25万ドルの罰金を支払いました。

Authored by Dr. Inoue

欧州における国際カルテル事件といいますと、特殊炭素材事件も有名です。リニエンシーの利用が審査開始のトリガーになっている点も重要なポイントです。

本件は、欧州市場における2種類の特殊炭素材に関するカルテルであり、Graftech International (前UCAR International)社が、リニエンシーを利用して制裁金の免除を申請したことから、欧州委員会による調査が開始されたものですカルテルメンバーは、Graftech International社、Intech社、 Ibiden社、 Carbone-Lorraine社、 Toyo Tanso社、SGL社、東海カーボン、および新日鉄化学でした。カルテルメンバーは、1993年7月23日、御殿場で開催されたトップ会談において、世界市場を見据えたカルテルの内容について合意し、以後、1998年2月まで、カルテルの実施および実施内容に対する監視が行われました。トップ会談は、常に日本で開催され、地域別の会議も持たれています。欧州委員会は、調査の結果、カルテルの存在を認定し、同カルテルがEC条約第81条第1項に反するとした上で、SGL社をカルテルの首謀者として認定し、制裁金を50パーセント加算しました。他方で、Intech社については、Ibiden社の指示によりカルテルに参加していただけで、主導的な役割を果たしていなかったことを理由として、制裁金の金額を40パーセント減額しました。また、SGL社、Ibiden社、 Carbone-Lorraine社、 Toyo Tanso社、東海カーボン、および新日鉄化学については、追加資料を提出して欧州委員会の調査に協力したので、制裁金の35パーセントが減額されました。また、SGL社については、経営悪化の状態にあり、他のカルテル事件で摘発されたことにより8020万ユーロの制裁金の支払義務があることが考慮され、33パーセント制裁金が減額されました。上記の結果、リニエンシーの適用を申請したGraftech International社については、制裁金が免除されています。また、欧州委員会は、Intech社に対して98万ユーロ、 Ibiden社に対して358万ユーロ、 Carbone-Lorraine社に対して697万ユーロ、 Toyo Tanso社に対して697万ユーロ、SGL社に対して2775万ユーロ、東海カーボンに対して697万ユーロ、および新日鉄化学に対して358万ユーロの支払を命じました。

Authored by Dr. Inoue

欧州における国際カルテル事件を分析する上でシームレス鋼管事件に対する分析を欠くことはできません。以下、シームレス鋼管事件の経緯を簡単に概観したいと思います。

1990年ころから、ヨーロッパのシームレス鋼管メーカー4社と日本の同業メーカー4社との間で「ヨーロッパ・ジャパン・クラブ」という名前の組織が作られて、月2回ほどの会合が開かれていました。かかる会合を通じて、会合の参加者間に「Fundamental」と呼ばれる協約が締結され、ヨーロッパの市場は、ヨーロッパのメーカーがとり、日本のメーカーは、かかる市場での販売は行わず、他方で、日本の市場は日本のメーカーがとり、ヨーロッパのメーカーは、かかる市場での販売行わないことを合意しました。かかる紳士協定は、ほぼ完全な形で実施され、仮に国外から引き合いがあったとしても、現地メーカーの8パーセントないし10パーセント高めに見積るなどして、お互いの市場で競争することを避けていたのです。なお、欧州委員会の見解ではEC条約第81条1項の協約に該当するためには、協約が法的に当事者を拘束するものである必要はなく、当事者の思惑がその取引の自由を制限することで合致すれば、協約が成立したことになります。ペナルティも実施手続も必要ではない。協約にかかる文書を作成する必要もない。このような理論的枠組みを前提に、欧州委員会は、シームレス鋼管の販売方針につき、BS社、Dalmine社、MRW社、Vallourec社、川崎製鉄、新日鉄、および住友金属はコンセンサスに達し、カルテルメンバー間において、協約という文言が何度も使用されていた事実を認定しています。また、カルテルメンバー相互の関係は「Fundamental」によって統制されていたこと、当該協約の目的が、ドイツ、フランス、イタリア、イギリス、日本の各市場を各国のメーカーが守ることにより、シームレス鋼管についての競争を実質的に制限するものであること、上記カルテルメンバー8社の協約自体がEC条約第81条第1項違反であり、EC域内の通商に影響を与え、その程度は、感知し得る程度に達していることを認定しました。欧州委員会の認定に対して、日本メーカーは、アンチダンピングの手続に反する可能性があるため輸出を差し控えたと反論しましたが、欧州委員会から、カルテルが実施された期間中、アンチダンピングに関する手続は開始されていないし、米国のアンチダンピング手続が鉄鋼製品につきなされていても、日本メーカーは米国市場からは一切撤退しておらず、かかる事実は、カルテルの存在を強く推認させるものであると反論されています。制裁金の決定に当たって、欧州委員会は、シームレス鋼管についてのEC4カ国の市場における年間売上げが7300万ユーロであったことから、カルテルメンバー各社に対する制裁金の基本額を1000万ユーロとしました。その上で、カルテルが実施された1990年から1995年の5年間について1年あたり10パーセントをプラスしました。これらにより、カルテルに参加した期間が最も少ないBS社の制裁金額が最も少なくなりました。他方、欧州委員会は、1991年からのシームレス鋼管についての不況状況を考慮して10パーセントの減額を実施し、また調査に協力したことを理由に、Vallourec社に対する制裁金を40パーセント、Dalmine社に対する制裁金を20パーセント、それぞれ減額しました。その結果、最終的な制裁金額は、新日本製鉄、日本鋼管、川崎製鉄、および住友金属について、それぞれ1350万ユーロ、BS社について1260万ユーロ、MRW社について1350万ユーロ、Vollourec社について810万ユーロ、Dalmine社について1080万ユーロとなりました。

Authored by Dr. Inoue

公正取引委員会は、送油ホース国際カルテルに関与していた海外のカルテル参加者に対して、排除措置命令を発令する方針を固めました。公正取引委員会が海外の当事者に対して排除措置命令を発令するのは初めてです。

以下、12月7日付けの日本経済新聞夕刊からの抜粋です。

『海上での石油輸送に使われるマリンホースを巡り国際カルテルを結んでいたとして、公正取引委員会は7日、ブリヂストンと英仏伊のメーカー計5社に独占禁止法違反(不当な取引制限)で排除措置命令を出す方針を固めました。国際カルテルで日本企業が欧米独禁当局から巨額の制裁金を科されるケースが相次ぐ中、公取委が外国企業を行政処分するのは初めて。関係者によると、公取委が国内で使われる製品でカルテルを認定したのはブリヂストン、横浜ゴムの国内2社と、ダンロップ・オイル・アンド・マリーン(英)、トレルボルグ・インダストリー(仏)、パーカーITR、マヌーリ・ラバー・インダストリーズ(いずれも伊)の計6社。違反を自主申告したとみられる横浜ゴムの処分は見送られ、受注実績のあったブリヂストンのみ課徴金が科される見通し。6社は自国で使われる製品は現地企業が独占受注することなどを取り決め、米国や中東で使われる製品については英国のコンサルタント会社が調整していたという。マリンホースの世界市場規模は約100億円で、6社がシェアの約9割を占めるという。同カルテルを巡っては、今年5月に日米欧の独禁当局が調査を開始していた。』

送油ホース国際カルテル事件は、大手ゴムメーカー、横浜ゴム(東京)の米司法省への自首・減免申請(リーニエンシー)が発端でした。リニエンシーの利用が、米司法省と公正取引委員会などによる2007年5月の摘発及び今回の公正取引委員会による課徴金及び排除措置命令の発令に繋がったものです。米国司法省は、申請受理後、同社の協力でカルテルのメンバーになりすましておとり捜査を仕掛けたとみられ、一斉逮捕につなげたのです。

横浜ゴムは、防衛庁(当時)のタイヤ調達をめぐる談合事件などで2度、公正取引委員会に摘発されており、2004年には事実上、マリンホースのカルテルから脱退していました。そのため、協力することを決め、カルテルに関する当時の資料を提供したとされています。米国司法省は、横浜ゴム担当者になりすまし、そのメールアドレスを使ってコンサルタントらとやりとりを開始しました。メンバーは数年間、会合を開いていなかったとされるが、5月初め、米ヒューストンのホテルで会合を開くことになりました。 ホテルでの話し合いが終わった直後に、米国司法省の捜査員らが踏み込み、横浜ゴムの担当者をのぞく参加者を逮捕。ブリヂストン担当者も米国内の滞在先で逮捕しました。 横浜ゴムは2006年暮れ、日本、欧州委員会と英国などリーニエンシー制度のある国に同時申請したとみられ、公正取引委員会は、米国司法省の強制捜査着手を待って立ち入り調査に入りました。

米国司法省のプレスリリースはこちらから入手できます。

Authored by Dr. Inoue

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